第2話 四面楚歌
ひとしきり泣いた後、家に帰ってベッドの上に寝転がった。
幸いなことに両親は旅行に行っており三日は帰ってこない。
妹も友達の家に泊まってるとかで年末まではこの家には俺しかいない。
正直何も食べる気にはなれなかったけど何か腹に入れないと体を壊すので適当に家にあったゼリー飲料を無理やり流し込む
何も考えたくない
気持ちが悪い
ふとした瞬間にさっきの出来事がフラッシュバックして吐きそうになる
今頃あの二人がホテル街でしていることを考えるとなおさらに吐き気がとまらない
ただ、それ以上に喪失感と絶望で思考がうまく働かない
もう、何も考えたくない
俺は逃げるように布団を頭からかぶって眠った
「空~まだ寝てるの?」
「かあ、さん」
「全くいつまで寝てるのよ。いくら冬休みだからってあんまり生活習慣を崩しちゃだめよ?」
「あれ?旅行は?」
確か母さんたちが帰ってくるのは27日のはず。
なんで家にいるんだ?
「何言ってるの?言ったじゃない27日に帰って来るって」
「え?」
もしかして丸二日も寝てたのか?
流石に寝すぎだろ
「全くあなたはそういう所抜けてるんだから。もう少しシャキッとしなさい?」
「あ、うん」
母さんには体調が悪いと伝えてそのまま再び布団にくるまった
気持ちが悪い
もうやめてくれよ
頭からあの光景が離れてくれない
気を抜くと吐いてしまいそうなほどに気持ちが悪い
最低最悪な気分で俺は残りの冬休み期間を過ごした
新学期
とてつもなく嫌な気分で始まる学校生活
学校に行くということはあの二人と顔を合わせるということでそれがどうしようもなく嫌だった。
行きたくない。
でも、そんなことを両親にいえるわけもなくて学校に向かう
道中なんだか注目を集めている気がしたけど気にせずに教室に向かった
「おはよう」
『本当に来やがったよ』
『クリスマスに堀江さんに無理やり体の関係を迫ったんでしょ』
『幼馴染だからってそれはないわ』
教室に入ると一気に冷たい視線が向けられる。
『藤田君が居なかったら堀江さん危なかったんじゃない?』
『さすがは藤田。もう英雄だな』
俺を見て悪口がささやかれる
机を見てみれば花瓶に落書き画鋲さらには遺影らしき白黒の俺の写真
虐めの定番を詰め合わせたかのような光景が広がっていた
心が痛い
何で俺がこんなことをされないといけないんだ。
何が英雄だ
人の彼女を横から奪っておいて
俺は無理やり迫ってなんかいない
「そんなことしてない!」
思わず叫んでしまった
叫ばずにはいられなかった
『うわっ何いきなりキモ』
『やってないって誰が信用するんだよ』
『犯罪者って全員そう言うよね』
全員が俺を犯罪者を見る目で見てくる
何もしていないのに仲がいいと思っていたクラスメイトすらこぞって俺を糾弾して暴言を吐いてくる
胸が痛い
今まで大切だと思っていたものがすべて崩れ去ってゆく
そんな錯覚さえ覚えた
いや、錯覚ではないのだ
信じていた親友には彼女を奪われ
大好きだった彼女には浮気されて捨てられた
この状況を見るに噂を流したのは瑠奈と悟だろう
「くそっ」
たまらずに教室から逃げ出す
その後も罵詈雑言は聞こえてきたが耳をふさいでひたすらに走った
そして家について玄関を開ける
「見損なったわよ!瑠奈ちゃんに無理やり迫ったんですって!?あなたをそんな子に育てた覚えはありません!!」
帰るなり母さんにつかみかかられて怒鳴られる
「違う!俺はやってない!」
「この期に及んで言い訳するなんて!あなた自分が何したかわかってるの?」
なんで、誰も信じてくれないんだ
実の親にすら信じてもらえなかった
心が痛い
いや、もう痛みなんて感じてないのかもしれない
「もういいです!出て行きなさい!あなたはうちの子ではありません」
そう言われて何かが切れたようなそんな感覚に陥った
何が切れたのかは自分でもわからない
だが、確かにわかるのは真冬のなか学生服で帰る場所を失ったという事だけだった
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