第8話1999年正月
賢が生まれて最初の年末年始を迎えていろいろとあいさつ回りなどが続く。大晦日から私たちは熊毛の家に行って年末の大掃除を済ませて、気持ちよく正月が迎えられるようにして、大晦日の夜は、紅白歌合戦を見ながら過ごしていた。祖母も一緒にテレビを見ながら過ごしていたが、祖母はやはり遅くまで起きるのはむりで、前半部分が終わるころには布団に入って眠りについた。私たちも賢が寝ている間に眠りについたので、結局紅白は最後まで見なかったのであるが、私の大晦日の夜は紅白を見て眠るという伝統はこの年も受け継がれたのである。
明けて1999年、私は新年のあいさつを済ませた後、近所の神社に初もうでに賢を連れて行ってきた。賢の健やかな成長と、家族の健康を祈願してきた。前年は賢が生まれて忙しかったほかに、夜勤も始まった上に元嫁がたびたび引き起こすトラブルにも振り回されて、正直なかなか落ち着かなかったので、今年は心穏やかに過ごしたいなと願った私である。
初詣が終わって家に帰って、寒さで冷えた体を雑煮で温める。私達が食べていると、賢も欲しそうにしているので、フーフーした冷ました汁や、やわらかく煮えた野菜を食べさせると、賢もおいしそうに食べていた。やがて両親や姉夫婦もやってきてみんなで正月を祝って、私たちも帰った。翌日は小野田の叔母さんの家に新年のあいさつに行って、ここでもみんなにかわいがってもらえて、賢はすこぶるご機嫌であった。小野田の叔母さんのところに立ち寄ったついでに、私たちはさと子の実家にも行くことにしていたので、叔母さんもさそうと、
「リンダさん、お願いしてもええかね」
というので
「私は構いませんよ。一緒に行きましょう」
そう言って、4人で美東町のさと子の実家に向かうことになった。小野田の叔母さんの家から美東町のまでは、車でだいたい1時間くらい。途中峠を越えると、かなり雪が積もっていた。美東町は内陸にあるため、冬は寒さが厳しいのである。
こうして美東町の家についてささやかながらのお正月を祝って、私からおじいさんに
「これで何か好きなものを買ってください」
とわずかばかりの現金を渡して家を後にして小野田の叔母さんの家に寄った後アパートに帰って、私の実家に顔を出してみると、姉夫婦が和君を連れてやってきていた。この時、さと子が不機嫌そうな顔をしていたので、いやな予感がしたのであるが、みんなで正月料理を食べた後、みんなで遊んで夜再びアパートに帰ると
「なんであんたのお姉さんが来てるのよ。お姉さんは下関の方のご主人の実家に行けばいいんじゃないん?そこまでして親に自分の孫をかわいがってもらいたいんかね?ほんとうあんたのお姉さんって、楽をすることしか考えてないんじゃね」
などと一気に不満をぶちまけてきた。さらに私に
「実家に帰らんようにてめぇーの親に言え」
などといってくるので、私はまともに取り合うだけ疲れるので、
「そんなに不満があるんじゃったら、自分が言えば?別に姉が家に帰ろうが知ったことか」
「そうやってあんたは私の味方をせんと、親兄弟の味方するんじゃね。わかった。もういい。私が直接自分でいうから」
そう言い残して寝た後、翌日、私と賢は外に遊びに出かけて、その間にさと子は私の実家に電話をかけて、昨日私に言ったように、私の母に姉に実家に帰るなといたようである。そのことを聞いた母はカンカンに怒って
「そんなこと言うんじゃったら、二度と私らを頼るな。金輪際用事を持ち込むんじゃない」
そういったそうである。そのことをさと子は自慢げに
「私くらいなもんじゃね。あんたのお母さんにも、はっきりとモノが言えるのは」
「は?お前バカか?そんなことやって波風立てて、いったい誰が得するんだよ!そんなことよりも俺たちは賢をきちんと育てていくことに専念するべきなんじゃねえのかよ。ただでさえ忙しいのに余計なもめごと増やすんじゃない。あほかお前は。本当しょっちゅうトラブルを起こしてさぁ、お前はいったいどれだけ俺に頭を下げさせれば気が済むんか。もう二度と俺はお前がトラブル起こしても、尻拭いはせんからな。てめぇーのけつは自分でふきやがれ」
それからしばらくしてさと子が
「お義母さん、まだ怒っているかねぇ。ちょっとあんた様子を見てきてくれんか?」
「はぁ?お前、俺が言ったこと、もう忘れたか?俺はお前の尻拭いはせんと言ったやろうが?俺は知らん。お前がやったことなんじゃから、お前が落とし前をきちんとつけやがれ」
「でも、今私が行ったら、私が怒られるじゃん、私だけが悪者にならんといけんの?あんたの親じゃろう?だからあんたが様子を見てきてくれればいいじゃん」
「ふざけるな!てめぇーの責任なんやからお前が気になるんやったらお前がいけ」
そしてさと子はおかしの詰め合わせをもって、私の実家に行ったのであるが、予想通り、私の両親からぼろくそに文句を言われて帰ってきた。それからしばらくは文句も言わなくなった。
やがて2月にはいり、私の誕生日が近づいてきた。私は自分へのプレゼントとして、私の好きなアーティストのCDを買って車の中で聴いていた。そして誕生日の前の日曜日に実家に集まって、ささやかながら私の誕生日パーティーが開かれた。パーティーといっても、人数分のショートケーキと手巻き寿司での簡単なものであったが、私自身、家族が増えてちょっとした幸せ気分に浸っていた。そして、両親や姉夫婦からちょっとしたプレゼントを受け取ったのであるが、それに慌てたのがさと子であった。何もプレゼントを用意してなかったことに焦りの色が見え隠れしていた。
「ごめん。なんにも私は用意してなかった」
といっていたが、正直私はさと子には何も期待してなかったので、冷めた感じで
「あぁ。別にいいよ。俺はお前には期待してないから」
これは私がこれまでさと子が引き起こす数多くのトラブル対応に疲れ果てて、嫌みを込めて言った言葉であった。さと子から見れば
「あぁ、私は自分の旦那から何も期待されてないんだ」
と思ったかもしれない。それほど私のさと子に対する信頼は喪失していた。まぁ、日ごろから私や私の家族に対して暴言を浴びせかけていた結果であるため、自業自得ではあるが。そして、私からさと子に対しては何も期待されていないという事実が判明した私の誕生日は過ぎていった。
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