第6話尾道へ

賢が生まれてから、まだ首も座っていなかったということもあって、車での長距離の移動は避けていたのであるが、秋になって、だいぶ涼しくなってきて、賢の体もだいぶ大きくなって首も座ったので、広島県の尾道まで日帰りで観光に行くことになった。朝8時ごろアパートを出発して、山陽道を東に走って、岩国インターを過ぎて広島県に突入。広島の中心を走り抜けると、結構山深いところを走っていく。山陽本線だと、瀬野八越えという難所が控えているが、高速道路もなかなか険しい峠越えが控えている区間である。制限速度も80キロに抑えられていて、広島から先は思ったよりも結構時間がかかる。

 尾道インターでおりて、まず最初に向かったのが、千光寺公園。ここは桜の名所として知られていて、春の花見の季節になると、大勢の観光客でにぎわう。また、ここからは多くの島が浮かぶ瀬戸内海を望むことができて、風光明媚なところである。そのようなところで景色を眺めたり、お昼に尾道ラーメンを食べたりしながら時間を過ごす。この千光寺公園は広いので、ゆっくり見て歩くと一日過ごせる。私たちはここで15時ごろまで過ごして、帰宅の途に就いた。インターまでの途中で、焼き物の窯元があるとパンフレットに書いてあって、どうしてもさと子が寄ってみたいというので、ナビに設定して寄ってみた。

コーヒーカップや茶わんなどが並べられてあった。私はあまり焼き物には興味がないので、賢と一緒に店の周りをぶらぶら歩いていた。30分ほどぶらついて戻ると、さと子も買い物を済ませて、あとは支払いだけになっていた。3万円あれば今日一日楽しめる予算できていて、来た時の高速代金やガソリン代やお土産などを買って残金が15000円ほど。てっきり私はせいぜい1個か2個買うくらいだろうと思って、焼き物を買う許可も出したのだが、さと子が買ったものは合計10000ほど。私はキャッシュカードも、クレジットカードも持ってきてなかったので、このままだと高速を使って帰れなくなるばかりか、食事をしたらガソリン代も出せなくなるため、

「おまえふざけてんのか?なんで10000を使うんかっちゃ。このままだと、高速乗って帰れんようになるし、ガソリン入れたら晩飯も食えんようになるじゃろうが。さっさと返してこい」

「はぁ?何で今更返さんといけんのんよ。もっとお金をもってきていたらよかったんじゃん」

「まさかお前がこんな無駄遣いするとはだれも思ってねぇよ。さっさと返せ」

私とさと子がお金をめぐってもめていることに気が付いたご主人が

「この焼き物は、いい土を使っております。絶対に買われて損はないと思いますよ」

と口をはさんできた。そりゃ店のご主人から見れば、せっかく買い手がついた商品を返品されたくないからそういうんだろうよと思い、私は返品するようにいって、それでも聞く耳を持たないため、元嫁から買ったものを取り上げてすべて返品させようとすると、大声でわめき始めたので、らちが明かないと思い、

そのまま店を出た。私はさと子に

「このまま家に帰るまで、腹減ったとか、まだつかないのかとか、一切文句言わんな?てめぇ覚えてろよ」

そういって、店を後にした。当然国道2号線を通って帰ることになったため、来た時より、倍くらいの時間がかかる。そして私が予想したとおり、広島市内に入って激しい渋滞に巻き込まれて、広島市内を抜けるだけで1時間以上かかって、岩国に着いたのが19時ごろ。当然おなかもすくし、賢もずっと乗せられたままなのでぐずり始める。私は道路沿いのコンビニに車を停めて、車の運転で疲れた体をほぐす。さと子もおりて手足をにのばした後、賢のことを何もせずに車に乗り込もうとするので、おむつも汚れているころだし、

「お前さぁ、賢のオムツも変えんのか?何考えとるんか」

「はぁ?親は私だけじゃないじゃん。あんたが変えたっていいわけじゃん。なんで私ばかり言われんといけんのんよ」

「じゃあお前が運転変われ。俺はお前のせいで、ここまで下道をずっと運転してきたんじゃ。そう言うんじゃったらおまえがここから家まで全部運転せぇ」

「なんで私ばかり責められんといけんのよ。あんたがもっとお金を持ってきてれば済んだ話じゃん」

「はぁ?てめぇがやったことを棚に上げて何人のせいにしよるん?まさか有り金全部使い込むとはだれも思っても見ねぇよ。てめぇのやったことが原因でこんな状態になっちょるのをわかってそんな口きいてんの?さっさとオムツ変えろ」

「なんで私ばかり言われんといけんのんよ」

などと文句を言いながら、ようやくオムツを変え始めた。ウンチをすればおなかがすくのも明白なのであるが、おむつを変えただけで、再び車に乗り込もうとするので、私は

「お前さぁ、うんちが出たらおなかがすくってわからんか?ミルク飲ませぇや」

「はぁ?なんで私がそこまでやらんといけんのんよ。少しはあんたが変わってやろうっていう気があってもいいんじゃないん?」

「だから、誰のせいでこんな状態になってるのかわかってんのかって言ってんじゃん。全部お前がやったことが原因じゃろうが。それくらいできんのじゃったら、お前が車運転しろ。それができんのじゃったら、文句を言うな」

そんなこんなでオムツを変えて、ミルクも飲ませて、再び国道2号線を西に走って、家に帰りついたのが22時過ぎ。ついたころには二人とも疲れ果てていて、入浴を済ませたらすぐに布団に入った。このころからさと子の金遣いの荒さが目に付くようになってきたのである。

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