鉄と少年 第3話

 案内されて着いたのは、路地裏のさらに裏。よそ者では絶対にたどり着けないようなコンクリートの森の奥地だった。

「この辺りか?」

「そうっす。ただ昨日のことなんで、さすがにもういないみたいっすね」

 そんなこと見ればわかる。こんな壁から配管が飛び出しているような場所に女の子がいれば、探さなくたって見つかる。それにここに来たのは、それが目的じゃない。

「指を治してもらったのは、ここだな」

「えっ?……それ言いましたっけ?」

 口には出さないが、全く聞いてない。

 治癒の異能を他人に使うと、特徴的な魔力の痕跡が残る。俺がその痕跡を見逃すはずもなかった。この場所で、治癒の異能が使われたことは間違いなかった。やはり、彼らの出会った少女は治癒の異能者だ。

 この魔力の痕跡から、少女の居場所が割り出せればいいのだが、さすがにそこまで世の中便利にできていない。

「なあ、その子。この辺じゃ見ない格好をしてたって言ってたし、この街の人間じゃないことは間違いないんだよな」

「そうすね。あんな黒いフリフリの格好は見たことないっす」

 プリン頭が元気に答えると、隣にいた真っ赤な頭のやつが

「たぶんなんですけど、昨日話した二人組の片割れじゃないですかね。あんなかわいい子がいたら、この街じゃ噂にならないなんてことはないと思うんで」

 なんてちょっと鋭いことを言って見せた。その可能性は俺も考えていた。プリン頭から聞いた異能者は二人組、片方は女の子。別々の可能性もあったが、外から来た人間だというのならその可能性はかなり低くなった。

 俺は冷静に赤頭の言葉を分析していたのだが、そうではないやつもいたようで、

「お前、ロリコンだもんな。あんな子いたらすぐに手を出してるだろうしなぁ」

 そんな風に青い頭をしたもう一人の取り巻きが茶化したのだ。

「俺はロリコンじゃねぇ、フェミニストだ!女性をみんな尊んでいるだけだ。その違いが判らんやつは、だまってなさい」

「意味わかんねぇよ、なにが違うんだよ!」

 気が付けば、レベルの低い口論が始まっていた。……正直、どうでもいい。

 こんなことで時間を使われるのは、しょうもなさすぎるので、二人ともに一発ずつ入れて落ち着かせて話を戻す。

「結局、お前らはその子のことよく知らないんだな。……とりあえずお前らでその子のことを探してくれ」

「えっ?協力するなんて一言も……」

「ほら、前金。ちゃんと見つけてくれたら、もう少し追加してやるから」

 抵抗しようとするプリンに財布から出した適当な枚数の札を渡すと、三人ともの目の色が変わった。世の中、やっぱり金なのだ。

「わかりやした、兄貴!俺たち三人、きっちり協力させていただきます。……ちゃんと準備しておいてくださいよ!」

 さすがに手のひら返しが過ぎる気もするが、これがお金の魔力だろう。魔術師が魔力とかいうと変な気もするが。

 協力関係が成立したところでポケットにしまってあったカードを取り出して、プリンに投げつける。

「俺は鉄を集めてるっていうガキどもから二人組の居場所を聞き出そうと思うから、女の子の居場所がわかったら、港の貨物船の船員にそのカード見せて居場所を教えてくれ」

 渡したのは、イレギュラーハンターのメンバー全員が持っている特殊なカードだ。片面には持ち主に合わせた星座が刻印されており、俺の場合は牛飼い座が刻印されている。このカードを持っていることで、メンバーの協力者であることの証明になる。そのうえ、仕事が終わった後に必要であれば、記憶操作の魔術も遠隔で使用することができるという、なんとも便利なカードなのだ。

 渡されたプリンは、不思議なカードを渡されたためか、表裏を確認したりしている。

「ああ、そういえば、この街のどっかに鉄くずとか使って無い鉄とか残ってないのか?手下のガキどもを待伏せしようと思うんだが」

「うーん、……たぶんもうめぼしいところは全部取り切られているような気がします。あいつら、街中を漁ってたんで」

 カードに夢中なプリンに変わって、青頭が答えた。

 まあ、それもそうだよな。こいつらだけが知ってる場所があるとは思えないし。

「じゃあ、俺たちが女の子探しながら、“ここに鉄がある”って噂を流せばいいじゃないですか?」

 今度は赤頭がそんな提案をしてきた。

 それなら鉄を集める必要もないし、ガキどもを探して、俺が走り回る必要もない。なかなかいい作戦じゃないだろうか。特に俺がほとんど何もせずに待っていればいいという部分が。さっきのこともあるが、この三人組の中では一番話ができるのはこの赤頭みたいだ。

「いいな、それ採用。で、どこに鉄があるってことにするんだ?」

「ちょうど少し前まで俺たちが使ってた廃ビルがあるんで、そこがいいんじゃないかと。そこならなんかあった時にも報告がしやすいですし、他人の縄張りは探してないはずなんで、すぐ食いつくと思います」

「わかった。そこにしよう」

「えっと、場所なんですが……」

 赤頭と作戦を段取りよく決め、三人とは別れた。

 彼らの言っていた廃ビルにはすぐには向かわず、荷物を取りに一度船に戻った。場合によっては、早くも荒事になるかもと考えたからだ。

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