第46話 「廃遊園地の悪夢:人喰いピエロとの死闘」
夢の楽園。かつて家族連れで賑わったその遊園地は、今では完全に廃墟と化していた。観覧車は動かなくなり、ジェットコースターのレールは歪み、遊具には苔がびっしりと生えている。閉園から数年が経ち、その場所は「二度と戻れない夢」と地元では揶揄されていた。
そんな廃遊園地に、地元の大学に通う拓也たち4人が訪れていた。年頃の彼らにとって、この場所は肝試しの舞台として最高のスポットだった。遊園地にまつわる恐ろしい噂――「消えた客たち」「深夜に響く笑い声」「異形の影」。それらを試すかのように、彼らは夜遅く遊園地に忍び込んだ。
「やっぱりやめとこうよ、こんなところ……」
グループの中で最年少の真奈美が不安げに呟く。入り口のゲートの前で足を止め、肩をすぼめた。ゲートは錆びつき、文字がかろうじて読める程度に剥がれ落ちている。
「おいおい、ここまで来てビビるのか?」
拓也が真奈美の肩を軽く叩いて笑った。「ただの肝試しだって。怖い噂なんてデタラメだろうが」
彼の隣で翔太がスマホを構えながら、周囲を撮影していた。
「いい素材が撮れそうだな。これ、絶対みんなビビるぞ!」
遊園地に足を踏み入れる
錆びたゲートを押し開けると、低い軋み音が静寂を引き裂いた。その音がどこまでも響き渡り、全員が思わず足を止める。見渡す限りの廃墟と化したアトラクションは、異様な静けさと共にそこに佇んでいる。
「やべえ、思ったより本気で怖いな」
香織が声を震わせる。観覧車は静かに佇んでいたが、風に吹かれるたびに小さく揺れ、鉄が擦れる音を立てた。地面には古びたポップコーンの容器や、破れたチケットが散乱している。それらの中には、不自然に赤黒いシミが広がっているものもあった。
「これ……血?」
香織が足元を見下ろして立ち止まる。その声に真奈美が顔を青ざめさせ、後ずさった。
「やだ、本当にここって……」
「違うだろ。ただのサビかなんかだよ」
翔太が大げさに笑い、スマホを赤い染みの方に向けて撮影した。その動作が妙に軽薄に見え、香織は眉をひそめる。
しかし、遊園地の奥へ進むほどに、不気味な空気は濃くなっていった。ジェットコースターのレールは歪み、そこにぶら下がったままの車両は今にも崩れそうだった。回転木馬は馬たちの首が折れ曲がり、あらぬ方向を向いている。
「どうしてこんなに荒れてるんだ……」
誰ともなく呟きが漏れた。その瞬間、観覧車の方から微かな笑い声が響いた。
「聞いたか?」
真っ先に反応したのは翔太だった。全員が立ち止まり、音のした方を振り返る。しかし、何も見えない。ただ、観覧車がゆっくりと揺れているだけだ。
「風の音だろ。ビビるなよ」
拓也がそう言いながらも、どこか落ち着かない様子で観覧車を見上げた。その瞬間、地面に転がる影が一瞬だけ動いたように見えた。
「おい、今動かなかったか……?」
翔太が不安げに声を上げた。真奈美はさらに後退しながら小さな悲鳴を漏らす。全員の視線が暗闇に注がれた。
不気味なピエロの登場
「ヒヒヒ……」
闇の中から、鋭い笑い声が響いた。その声はあまりにも人間離れしており、全員の体が硬直する。次の瞬間、暗闇から飛び出してきたのは、一体のピエロだった。
だが、その姿は明らかに異常だった。カラフルな衣装をまとっているものの、首は奇妙にねじれ、手足は異様に長い。顔に塗られた白い化粧が剥がれ落ち、その下から覗く肌はまるで腐敗しているかのようだった。口元には鋭い牙が並び、異様な笑みを浮かべている。
「ようこそ、楽しい遊園地へ!」
ピエロは手を広げ、大げさに頭を下げた。
「嘘だろ……なんだよあれ……!」
拓也が青ざめた声で呟く。その間にも、ピエロの背後からさらに二体の仲間が現れた。それぞれが同じく歪んだ身体を持ち、奇妙に揺れる動きで彼らを囲むように近づいてくる。
ピエロたちは突然、笑い声を上げながら動き出した。そのスピードは人間のものではなく、瞬く間に距離を詰めてくる。一体が翔太に向かって跳びかかり、鋭い爪で彼の肩を引き裂いた。
「ぎゃあああああ!」
翔太の叫び声が夜空に響き、真奈美がその場に崩れ落ちる。
「逃げろ!」
拓也が叫び、全員がバラバラに走り出した。廃遊園地の中で、ピエロたちは残酷な笑い声を響かせながら追いかけ始める。
大学生たちは散り散りになって廃遊園地内を走り抜けた。だが、そこは迷路のように入り組んだ廃墟。どこへ逃げても見覚えのないアトラクションの影が迫り、出口は一向に見つからない。さらに、暗闇の中から不気味な笑い声が響き渡り、恐怖を煽り続ける。
「真奈美!香織!どこにいるんだ!」
拓也は声を張り上げたが、返事はない。翔太が血を流しながら肩を押さえ、荒い息をついている。
「俺、もう……ダメだ……」
翔太がしゃがみ込んだ瞬間、背後から鋭い爪が空を切る音がした。振り向くと、ピエロの一体がすぐそこに迫っていた。その顔には、異様なほどの喜悦が浮かんでいる。
「遊びはまだ終わってないよ~!」
ピエロが叫び、跳びかかってくる。
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真奈美と香織は、手を取り合いながら朽ちたメリーゴーランドの裏へ隠れていた。だが、薄暗い影の中でも、ピエロの笑い声は遠くから近づいてくるのがわかる。
「……足音が近い。どうしよう……」
香織が震える声で呟くと、真奈美は恐怖に震えながらも必死で頭を振った。
「静かにして!見つかったら終わりだよ……」
だがその時、メリーゴーランドの回転部分が突然きしみながら動き始めた。音が静寂を破り、二人の視線が鋭くそちらに向かう。そこには何もいないはずだったが、メリーゴーランドの中心からゆっくりと首を回しながら現れるピエロの姿があった。
「ヒヒヒ……かくれんぼが下手だねぇ!」
ピエロが笑いながら爪を振り上げる。真奈美は悲鳴を上げてその場を飛び出し、香織も彼女を追った。
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観覧車の下にたどり着いた拓也たちは、残る力を振り絞って身を寄せ合った。しかし、ピエロたちの動きは止まらず、彼らを完全に包囲しようとしていた。
「もう……終わりだ……」
翔太が呟いたその瞬間――鋭い金属音が闇を裂いた。
次の瞬間、一体のピエロが背後から斬り裂かれ、血と黒い霧をまき散らして倒れた。その場に立っていたのは、冷静な目つきで刀を振り抜く灰島凛だった。彼の黒い日本刀「影喰い」は、まるで生き物のように妖気を纏い、鈍く輝いている。
「全員、後ろに下がれ」
凛が冷静に命じると、大学生たちはその場から後退した。
「葵、状況は?」
凛が問いかけると、相馬葵がタブレットを片手に現れた。
「ピエロの残りは二体。かなり動きが速いけど、弱点は頭部っぽい!凛、斎藤さんを援護して!」
高台には斎藤義明が立っていた。彼は冷静にライフルを構え、一瞬の隙を狙って妖気弾を放った。その弾丸は、突進してくるピエロの胸を貫き、勢いを削いだ。
凛はピエロの一体に向かって一気に距離を詰めた。彼の動きは人間離れしており、影のように滑らかで素早い。ピエロの鋭い爪が空を裂くが、凛はそれを見切り、影喰いで相手の腕を切り落とした。
一方、葵はタブレットを操作しながら敵の動きを読み続けている。
「次の攻撃は右から来る!気を付けて!」
斎藤がその指示を聞き、すぐに右側のピエロを狙撃した。妖気弾が敵の頭部を直撃し、ピエロが苦しそうに後退する。
「しぶといな……」
斎藤が静かに呟き、次の弾を装填する。
凛は最後の一体を追い詰めていた。ピエロは凶暴な笑い声を上げながら跳躍し、爪で斬りかかるが、凛の一撃はそれを上回った。影喰いが黒い光を放ちながら敵を貫き、その身体を霧と化して消滅させた。
辺りには静寂が戻り、ピエロの気配は完全に消え去った。
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大学生たちは呆然とその光景を見つめていた。香織が震える声で尋ねる。
「あなたたち……一体何者なんですか……?」
斎藤が淡々と答える。
「ただの通りすがりだ。それ以上は聞かない方がいい」
凛は影喰いを収め、冷静な表情のまま背を向けた。
「ここは危険だ。二度と近づくな」
大学生たちはその言葉に頷き、無言でその場を去っていった。
遊園地に残された冥府機関のメンバーたちは、闇の中で微かに漂う妖気を感じ取った。それは、まだこの場所に何かが潜んでいることを示していた。
「根本的な原因を突き止める必要があるな」
斎藤が低い声で言うと、凛は短く頷いた。
「この場所はまだ終わっちゃいない」
月明かりに照らされる廃遊園地。その闇の奥深くで、また新たな気配が動き出すのを彼らは感じていた。
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