第23話 第一章 第五節:冥府機関の創生

  影喰いの力を手にしたものの、それだけでは黒羽根の女がもたらす闇に対抗するには足りないと、葉月たちは痛感していた。旅を続ける中で、彼らは同じように妖怪による被害を受け、戦う意思を持つ人々を探し始める。


「もし、私たちと同じように妖怪に立ち向かう力を持った者がいれば……」

葉月が地図に刻まれた小さな町の名を指し示しながら呟いた。


「俺たち三人だけじゃ、この先はどう考えても無理だな。影喰いの力はすごいが、使いすぎれば葉月自身が危険だ」

大輔が、疲れた表情で影喰いに目を向けながら同意する。


「それに、組織だてて動かないと、俺たちが死んだ後、この戦いは終わる。それじゃ意味がない」

俊介の現実的な言葉に、全員が頷いた。


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旅の途中、彼らは廃墟と化した小さな村に辿り着いた。その村には、ただ一人、刀を手にした男が佇んでいた。彼の名は「宗次郎」。かつて村を襲った妖怪から家族を守るため、独学で剣術を学び、ただ一人で妖怪を退け続けていた。


「……お前たちは何者だ?」

宗次郎が低い声で問いかける。鋭い目つきには、生き延びるために戦い続けた者特有の鋭さがあった。


葉月が一歩前に出て、影喰いを見せる。

「私たちは、闇を封じる方法を探しています。あなたも、その力を貸してくれませんか?」


宗次郎は影喰いを一瞥し、冷たい笑みを浮かべた。

「その刀……ただの武器じゃないな。危険な匂いがする。お前たちも覚悟の上でそれを使っているのか?」


「覚悟ならある。けれど、私たちだけでは、この闇に立ち向かえない。あなたの力が必要なの」


葉月の真剣な言葉に、宗次郎はしばらく考え込む。そして彼は、静かに刀を収めると、短く頷いた。

「いいだろう。だが、俺の力が役に立つかどうかは保証できない。死ぬ覚悟だけはしておけ」


こうして宗次郎が加わり、戦力が一つ増えた。彼の剣術は、俊介の速さと組み合わさることで、戦闘の幅を広げることになる。


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その後、一行は山奥の神社に辿り着いた。そこには、妖怪から逃れるために隠れ住んでいた巫女「千草」がいた。彼女は、神社の御神木を守るため、神職としての知識を駆使しながら妖怪を退け続けていた。


「あなたたち……この神社に何を求めているの?」

千草は、神社の境内で葉月たちを睨むように見つめた。その声には警戒心が強く滲んでいた。


「私たちは、この世界を覆う闇と戦っています。あなたの知識と力を貸してください」

葉月が影喰いを見せ、事情を説明する。


「影喰い……その刀、呪われているわね」

千草は一目で刀の危険性を見抜き、警告するように言った。

「それを使うこと自体が、闇を呼び寄せる行為になるかもしれない。それでも進むつもり?」


「進むしかないのよ。誰かが立ち向かわないと、私たちの未来はなくなる」


葉月の決意を目にした千草は、一度目を閉じ、静かに息を吐いた。

「分かったわ。私の力でどこまで役に立つか分からないけれど、この戦いに力を貸しましょう。ただし、この神社だけは守らせてもらうわよ」


千草の加入により、霊術や封印術が戦術に加わり、葉月たちは戦略的な幅を広げることができた。


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旅を続ける中で、葉月たちはさらに多くの仲間を集め、戦力を整えていった。そしてついに、一つの拠点を設けることを決意する。それは、影喰いを核とした組織――後に「冥府機関」と呼ばれる存在の始まりだった。


冥府機関は、表向きには存在しない。だが、妖怪や怪異の脅威が広がるたび、その影の中で動き出し、闇を封じる役割を果たす存在となっていった。


「私たちが戦わなければ、この世界は滅びるわ。冥府の扉を閉じるために、命を懸ける覚悟が必要よ」

葉月の言葉に、集まった仲間たちは静かに頷いた。


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その矢先、冥府機関の初めての拠点である砦に、黒い羽根が再び舞い降りる。それは、黒羽根の女からの「挑戦」だった。羽根が舞い降りた翌夜、砦に異形の軍勢が押し寄せる。


「これが……黒羽根の女の本気か」

宗次郎が刀を構え、千草が結界を張る中、大輔と俊介が次々に襲い来る妖怪を迎え撃つ。葉月は影喰いを手に、その場を見渡しながら冷静に戦況を分析していた。


「影喰いの力を使いすぎれば、私は倒れる。でも、この戦いに勝たなければ……!」

葉月は全身の力を振り絞り、影喰いを振りかざす。黒い光が闇を裂き、妖怪たちを消滅させる。その光景を遠くから見つめる一つの影――それが黒羽根の女だった。


「これが影喰いの力……だが、まだ未完成だな」

低い声と共に、黒羽根の女はその場を去る。



こうして、冥府機関は初めての試練を乗り越えた。しかし、それは始まりに過ぎなかった。黒羽根の女の力は、未だ未知数であり、冥府機関の戦いは終わりが見えない。


葉月は影喰いを握り締めながら呟いた。

「私たちの使命は、ここからが本番よ……」

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