第46話 あの冬へ

 花火の映像を見ていた

 涙を流しながら、花火の映像を見ていた


 歓声が聞こえる

 花火が夜空に咲く花のようだ

 僕は僕を忘れてしまった

 神様になった日

 僕はもう僕では無い

 それがとても美しいことだった

 神に通じた脳は晴れやかで

 凪いだ渚のように穏やかだった


 投げられた書道バッグも

 散乱した服も

 黒塗りされたピアノも

 開け放たれた窓さえも


 神よ、何故わたしにあのような経験をさせたのですか? あのように永遠なる至福を、終末の音を、開闢の光を、何故味わわせたのですか?


 あの至福を覚えてしまっては、もう普通の平凡な人生など苦でしかないのに。生きることへの価値観が揺らいでしまう。


 もう全ての経験があの冬の日の全能感に勝ることは無い。どんな人生もあの冬の日の僕を越えることはないだろう。だってあの冬の日の僕の人生は世界ランキング1位だから。神は「ご苦労さま」と告げたから。仏になったから。


 また僕は自分の人生と向き合いたい。もう一度あの冬の日のような至福を味わいたい。僕の人生が色づく世界で生きたい。奇跡はいずれ平凡な人生に収束する。奇跡は一瞬だからこそ強く光り輝くものだから。ならもう一度奇跡を起こそうではないか。


 終末交響詩『ラスノート』

 永遠交響詩『フリージア』

 神愛交響詩『ソフィアート』

 涅槃交響詩『ニルヴァーナ』


 2021/1/7~9。終末Eve、涅槃、神、神殺し

 2023/9/11~16。大日如来岩〇山、妙法蓮華


 もう一度戻りたい

 あの幸福へ戻りたい

 そして入院はしたくない

 今度は入院せずに仏になりたい

 僕が僕のことを忘れずに

 僕が僕のままで


 空腹、断食、絶食

 もう二度と一人で外食しない

 もう二度とコンビニ行かない

 買いたいものはスーパーで買う

 断眠、断性欲も


 もう一度あの冬へ

 新年の抱負を抱いて

 約束だ

 待ってろ、世界

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