第3話 音楽室の決断(その1)
「おい。あれって高見じゃね?」
「だな。なんで女と一緒なんだ? 高見の分際で」
「知らねー顔だな。制服も見たことねーし」
「どうするよ?」
「もちろん、横取りしてやろうぜ。高見なんかにゃもったいねーし」
「あれ?」
三人の同級生が丁字路から公園に足を進めようとした時、充駆と眼鏡少女の姿が消えた。
「どこ?」
充駆が周囲を見渡すそこは丁字路脇の公園ではなく、初めて見る校舎らしき三階建ての建物――正確にはその校門――の前だった。
目の前の校舎も周囲の街並みも見覚えはない。
そこに不気味さを上乗せしているのはどこにも音がないこと。
それはこの周囲に動くものがないことを表している。
「早速、行くっす」
ボレロがスマホを握り潰すように左手を閉じる。
それが収納の動作になっているらしく、再度開いた手の中にスマホはなかった。
「充駆さん、こっちです」
ここがどこかもわからないまま、ボレロとふわふわと浮いている十センチのイートンに続いて校門を通ろうとするが――
「痛っ」
――弾き飛ばされた。
「大丈夫ですか」
ふわふわと空中をイートンが寄ってくる。
「どうしたっすか」
学校の敷地内から校門ゲートのレールを挟んできょとん顔のボレロが見ている。
「いや、入れないんだけど」
「どうしてっすか?」
「知るわけない」
レンズ越しの無垢な瞳で問い掛けるボレロに充駆が憮然と答える。
「あ、もしかして――」
充駆のかたわらに浮かんだイートンがつぶやく。
「――その身体じゃダメなのかも」
ボレロが頷く。
「かもしれないっすねえ。ここは女子校みたいなもんすから」
そして、促す。
「イートンの身体になるっす。そしたら通れるかもしれないっす」
「充駆さん。いいですか」
「いいよ」
遠慮気味に声を掛けるイートンに両手を差し出す。
イートンがその手に乗る。
充駆の大きな手が小さなイートンを包み込んだ瞬間、身体がイートンのものに変わった。
充駆はさっきはじかれた衝撃を思い出し、おそるおそる校門の向こうに足をのばす。
――問題なく通過できた。
「じゃあ、来るっす」
先導するボレロに続いて、イートンの姿になった充駆が校舎の真ん中にある生徒玄関へと入る。
しかし、すぐに玄関内で立ち止まって周囲をきょろきょろ。
その様子にボレロが訝しげに。
「今度はなんすか」
「いや、靴をどうしたら……。スリッパとかない?」
ここで履き替えるべき上履きを当然持っていないのだ。
しかし、ボレロは外靴のまま気にせず校内へ入っていく。
「履き替えなくていいっすよ」
「……いいのか」
前を歩くボレロに置いて行かれないように慌てて後を追う。
校内は寒々と静まりかえり、人の気配すらない。
校舎自体は鉄筋作りではあるものの教室の引き戸は木製で、床のタイルは所々の角が欠けていることからけして新しいものではないことが窺える。
校舎の端にある階段で二階へ上がって、そこから渡り廊下でとなりの校舎へ移動する。
向かったのはさらに階段を上がった最上階、三階の最も奥にある教室だった。
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