第26話 ただ夢中で

 ◇◇◇


 結局初日は一日中、木を蹴っていたが〇・三ユード程しか削れなかった。

 このままじゃ失敗するのは間違いない。

 そうしたら……もう何も教えてもらえないだろう。


 おそらく師匠は俺を試している。

 教えるに足る器かどうか。

 今できることを、情報を整理しよう。


 俺の現状の武器は尻尾と霊気のみだ。

 身体能力はだいぶん上がったけど、それだけであの大木を一週間程度で倒せるわけがない。

 尻尾は禁止されている。


 霊気を使えということは間違いない。

 昨日一日中頑張ったが、あれじゃ駄目だ。

 霊気を集中させるという発想が間違っていたのか?


 いや、全身に霊気を纏う意味はない。

 分からない。

 俺の霊気が足りなかったのか?


 もっと霊気が多ければ、より木を削れたはずだ。

 いや、違う。今、ないものねだりをしていても仕方ない。

 持っているもので勝負するしかない。


 俺は思考の海に沈む。

 やはり霊気をより一点に集中するしかないか?

 だが、それでは昨日の発想の延長線上でしかない。


 師匠も言っていた。

 霊術は奥が深く、そして自由だと。

 斧を霊術で生み出したらいいんじゃ!?


 霊気で生み出した物ならセーフだろう。

 斧を生み出せるのか考えていると、ふと思う。

 俺は本当に斧が欲しいんだろうか?


 俺が欲しいのは木を切れる物であり、それは足でも構わないはずだ。

 足を……木が切れるように霊気で強化すれば。

 足を斧の様にイメージして、霊気を纏う。


 できるのか?

 俺は深呼吸すると、右足に霊気を集中させる。

 そこまでは昨日もできた。


 纏わせた霊気を少しずつ尖らせる。

 薄く……より薄く。

 木を切れるように。


 切れ味は薄さのはずだ。

 少し時間はかかったが、霊気を薄く尖らせることができた。

 俺は薄く尖らせた霊気で覆った足で、蹴りを放った。


 キイン!

 澄んだ音とともに、霊気が砕けた。

 駄目か!


 薄すぎて強度が足りなかった。

 斧というより、剣のように尖らせてしまった。

 重さが伝わるように、切れ味とともに強度が必要だ。


 尖らせるけれど、薄くしすぎないように。

 足の重さで、木を削れるように。

 足の霊気を少しずつ尖らせながらも、強度に気を付ける。


 細かい調整を繰り返した。

 額には大粒の汗が溢れている。

 できた。


 俺は全身の体重を乗せるように、蹴りを放った。

 今までと違い、蹴りが刺さった感覚を感じる。

 蹴った場所を見ると、斧で削ったような跡が残っている。


 今まではまるでこん棒で殴っていたような跡で、明らかに効率が悪かった。

 鋭さと強度。

 この二つを両立させるように霊気を操作する。


 これが決め手だったのだ。

 凄い。

 俺は思わず笑みを浮かべてしまった。


 今までは霊気なんてただ体を強化する何か、ぐらいの認識だった。

 けど、違った。

 奥が深い。


 霊気操作は基礎にして、奥義でもあるんじゃないかと。

 俺は夢中で霊気を尖らせる。


 より鋭く、そして固く。

 これは足ではない……斧なのだと。

 ただ、夢中で蹴っていた。


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