いろいろなタイプの美少女吸血鬼が俺の血を求めて色仕掛けしてくるんだが
カラスバ
第1話
姫騎士セシリアとはこの国アンブロシアの中でも有名な存在であり、彼女が一人戦場に立つだけで敵のモンスターは恐れをなして逃げていくとまで言われていた。
彼女の鋭き剣先は光の如く、倒してきたモンスターは数え切れないほど。
正しく護国の具現、最強の剣とはまさに彼女の事を言うのだろう。
当然のように剣術だけでなく魔術などといった他の技術にも精通しており、正直言って「彼女だけでこの状況よくね?」という事は数多くあった。
更に言うと、姫騎士セシリアはまさに一輪の白薔薇の如く美しい美貌を持っていた。
佇めば人々を魅了し戦えば苛烈に敵を打倒していく。
そんな彼女に、人々の多くは魅了されていたのだ。
だから正直俺もその姫騎士セシリアと共に二人きりで過ごせればとても幸せだな、出来ればお近づきになってお話とか出来たら良いなとかそんな風に思った事は何度もあった。
しかし、いざそのような状況になるとそうも言っていられなくなってしまった。
いや、ていうか二人きりなのは間違いないけど、状況はぶっちゃけ大ピンチだった。
……強敵が現れたから、ではない。
魔族の襲来、その転移魔術によって王国の城壁を守っていた俺達は分断され、俺とセシリアは二人きりでその敵と戦う事となったが、しかし苦戦は強いられなかった。
むしろ敵は彼女の剣によって真っ先に一刀両断されたのだ。
では、何が起こったのか。
「貴様に呪いを掛けてやろう! 精々苦しむが良い!!!!」
正しく最後っ屁の如く放たれた呪い。
彼女もそれは想定外だったらしく――そもそも彼女の強力な耐魔術体質を考えるに魔術が「効いた」事自体が想定外だったのかもしれない――兎に角、その一撃を受けてしまったセシリアは、今、それによって苦しめられている。
……雨が降っていて、俺達は偶然にも見つけ出した洞窟に身を潜め、雨が止むのを待っていた。
空を見上げ、止む気配のない雨模様に溜息を吐き、それから俺は彼女の下に戻る。
「大丈夫、ですか?」
姫騎士セシリア。
最強の騎士は今、顔色を真っ青にして洞窟の壁にもたれかかるように座り込んでいた。
彼女を苦しめているのは、呪い。
その呪いの正体は――
飢血の呪い、という。
血に飢えそれを求めるようになる。
吸血鬼化、あるいはヴァンパイア化とも言う。
今、彼女はその衝動と肉体への浸食を必死に耐えていた。
だがその表情はあまりにも辛そうで、俺は何とかしてあげたいと思ってしまった。
「セシリア様」
「……いえ、大丈夫ですルーク」
「ですが」
「むしろこの程度の呪いをどうにか出来ないなんて、姫騎士の名折れです。私も鍛錬が足りませんね……」
貴方ほどの人間がそう言うのならばこちらとしては反論しようがないって奴だった。
しかし彼女の顔色はどんどんと眼に見えて悪くなっていてあまりにも辛そうだった。
苦悶の表情を浮かべる彼女。
セシリアの苦痛を和らげる為にはどうすれば良いのかを少し考え、一つ、思いつく。
いやでも、これは大丈夫なのだろうか……?
「その、辛過ぎるのならば俺の血を少量飲みますか?」
俺の申し出に彼女は「何を言っているんだこいつは」みたいな表情を浮かべる。
「それは――いえ、大丈夫です。貴方は自分の身体を慮ってください」
「ですけど、セシリア様も辛そうですし。少量摂取する程度ならば問題ないのではないでしょうか?」
俺の言葉に彼女は瞳を揺らす。
今の喉の渇き、飢えは相当辛いのだろう。
普段の凛としている彼女からは想像もつかないほどの必死な表情。
そしてしばしの沈黙ののち、彼女は「……すみません、お願い出来ますか?」と頭を下げて来た。
「その、これで良いですか?」
と、俺は上着をはだけさせて首を露出させ彼女の前に出る。
そして彼女は遠慮がちに俺の首元に口を近づけていき、その鋭くなってしまった犬歯を恐る恐る突き立てるのだった。
一瞬の鈍痛。
しかしそれは次の瞬間不思議な快感に変わる。
恐らく、吸血鬼特有の能力なのだろう。
身体から抜けていく血液、陶酔感にも似た感覚が身体を襲う。
「大丈夫、ですか?」
これくらい飲めば多少苦痛も和らぐのでは?
そのように思い問いかけたのだったが、しかし。
「…………♡ あ、はぁ♡」
甘い、甘い鼻息の音が聞こえた。
そして次の瞬間だった。
がぶり!!
「……っっっっ」
その、先ほどまで感じていた陶酔感が吹き飛ぶほどの刺激が身体を襲う。
それが、彼女が思い切り犬歯を俺に突き立てたからだと気づいたのは、身体から力がどんどんと抜けていくのを感じた時だった。
や、ヤバい。
これ、吸い殺される……
そして、意識が消し飛ぶかと思われた、その刹那。
俺は、姫騎士セシリアの言葉を聞く。
「あー、なんて。なんて……こんなに素晴らしいモノならばもっと早くすればよかったです……♡」
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