24. キモローグは心の中で
茅野センパイを迷子センターから回収した僕と楪は、そのままフードコートに向かう。
僕は生姜醤油ラーメン、茅野センパイはハンバーグセット。
楪はエビアボカドのサンドイッチと三者三様の料理を手に席に着く。
「茅野先輩、ハンバーグは熱いですよ? ふーふーしましょうか?」
「いずもざき、ありがと」
楪は小さく切り取ったハンバーグを息で冷まして、茅野センパイの前に差し出す。
ぱくり、もちゃもちゃと頬張る茅野センパイ。
こうしてると、なんか大人びた楪は姉というより……若妻みたいだな。
「幸太郎? どうかしたんですか?」
「あ、いや、うん。 そういえば楪は、何の用でデパートに来たのかなって思って」
咄嗟に言い訳を言い放つ。
アブナイ、流石にキモかったぞ今の僕。
「実は妹が両親と大喧嘩しまして、私のアパートに家出してきたので生活用品を買い出し中です」
なるほど、だからタオルとか歯ブラシと買ってたのか。
「楪、妹さんいるんだ」
「覚えていませんか? 幸太郎も、一度だけあった事がありますが」
そうだっけか。 サッパリ覚えていない。
「でも、「黙って実家に帰れ」とか突き返さない辺り、楪は優しいな」
「いずもざき、やさしーい」
相変わらずポテトをモグモグする茅野センパイの横で、楪が口端を引くつかせる。
「家出してきてアパートに住んでる姉から言われて、説得力あります? そのセリフ」
「いや、ないね」
「なーい」
そうだった、この人も絶賛家出中だった。
あまりに豪華なアパートにずっと住んでるからすっかり忘れてた。
「第一、私が言ったところで妹は素直に帰りませんよ。 何があったか聞いても「あんな地獄にはいられません」の一点張りですし。 勝手に自分の大きなパソコンやら、ベッドやらも持ち込んで本格的に住み着いてしました」
実家を「あんな地獄」と呼ぶ妹を追い返さない辺り、やっぱり楪は優しいと思う。
「実際、うちの実家は地獄でしたから。 口を開けば「はやく芸能界にデビューしろ」だの、家に着いたと思えば「次の仕事を持ってきたから、目を通しておけ」ばっかりですし」
高校の時に少しだけ聞いたけど、やっぱり有名人は有名人なりに大変なんだな。
すると、ハンバーグを食べ終わったからか茅野センパイが僕の方へ身を乗り出してきた。
「こーたろ、あとはなに買うんだっけ」
「えーっと香料と雑貨、あとは雑誌ですかね」
茅野センパイから借りた、買い物リストを見て確認する。
「そうですか、では専門店街に纏まってますし、向かいましょうか」
「おー」
楪が食べ終わったサンドイッチの包み紙をまとめる。
ん? あれ?
「なんですか幸太郎」
「え、いや」
少し予想外な展開に、僕は頬を掻きながら。
「楪も一緒についてきてくれるんだ、と思って」
凄い勢いで僕を指さした楪は、若干まだ火照った顔で言い放った。
「け、決して幸太郎と一緒に居たいからとか、そういう理由ではないので! 勘違いしないでくださいよ!」
「大丈夫だって。 さすがに勘違いしないから僕でも」
「あ、はい」
僕が言うと当時に、すぅっと楪の目から温度が消え去る。
だから急に訪れるそれ何、怖いからやめて。
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