第4話 壁の外の彼ら<西天会>――2
「『吾門組』は、『西天会』の中じゃ冷遇されている。当然、彼らはそんな自分たちの待遇に不服を覚えていることだろう。そんな連中につけ込んだのが『神域祓魔軍』の一派だ。まったく、嫌になるねぇ。古巣がこんなに腐っているとは」
「……『神域祓魔軍』が、そんな腐敗を」
「まぁ、と言っても一部の人間だけだろうね。いろんな派閥が上層部で政治バトルを繰り広げてるのは私がいた時もそうだった。そのうちの一つか二つ、絡んでいることだろう」
ともあれ、杞憂であればいいのだがな、とほむらは両手を頭の後ろに組んだ。
それからしばらくして、『門岸グループ』の護衛たちが車に乗りこんで来た。
サングラスをかけ、黒いスーツを着た二人の男だ。
一人は癖のある赤髪。もう一人は短髪黒髪。
顔見知りではあるが、名前も素性も知らぬ者たちだ。
車が発進する。
首領を乗せた車を前後に挟む形で車は進行した。
今回の『門岸グループ』の商談相手は『西天会』だ。
立ち会ったのは『鬼の倉庫番』と呼ばれる武器管理担当。四十代半ば、白髪の男、
『西天会』の応接室は、四方を白い壁に囲まれたごくありふれた部屋だ。
南側に窓が一つあり、二人の部下に挟まれる形で件の物延が座っている。
門岸側も、首領の門岸玄閣とその両サイドに彼の部下が座っていた。
「……」
商談が始まる。ほむらと共に応接室の護衛を任された崇耶は、応接室を見渡した。
崇耶は便利屋の業務の一環として『門岸グループ』の護衛を任されることがしばしばあった。
崇耶は、今回の護衛に参加した『門岸』側の面々を見て、違和感を覚えていた。
元来、門岸玄閣の護衛は『門岸グループ』内のチームが行うことになっている。そして情勢によっては外部の者を雇うこともあるのだが――今回は何かがおかしかった。
外部の人間が圧倒的に多い。
そしてグループ内の護衛チームが少ないのだ。
どこかで一斉に殉職したかリストラしたか。そうじゃないとこの人数差は何かがおかしい。
何か異変があるに違いない。だが今は目の前の護衛任務に集中しなくては――と、頭を切り替えた直後――
「何事か?」
建物の外がやけに騒がしい。が、窓から離れた扉側に立っている崇耶はその様子を窺うことはできない。
門岸側の護衛は全員無線を所持している。何かあればインカムで即座に報告がいくはずだ。
一体外で何が起こっているのか。その報告を待っていた直後――――
爆発音が轟く。
窓ガラスがビリビリと振動し、建物は大きく揺れる。幸い倒壊したりガラスが割れたりするようなことはなかったが緊急事態であることに間違いはない。
『――ちら……イワン。こちらストレイワン。ハウンドスリーが爆発物を持ち込んでいた! 繰り返す、ハウ』
外にいた護衛の一人の声がインカムに届く。が、無線が破壊されたか、はたまた殺されたか、声は途切れた。
くいっ、と何かが崇耶の上着の袖を引っ張る。それが隣にいるほむらであることには、すぐ気付く。
「……ソファの後ろ、赤髪の男だ、少年」
轟音に紛れてほむらがそう語りかけた。
それとほぼ同時。
「全員動くな!!」
門岸が座るソファの背後、赤い髪の男が叫んだ。
ここに来るとき、運転席に座っていた『門岸グループ』直属の護衛だ。
その男が、上着の懐に手を入れるところを崇耶はしっかりと見ていた。
腰から提げた刀の柄を取る。
少々難しいかもしれない、などという雑念は頭にハナからない。
腕を動かした瞬間から、崇耶の意識は極限の集中状態へと移行した。
上着の内側に手を入れた赤髪の男。その手に握られているプラスチックの塊がちらりと見え、目標を見定めた。
殺気は見せない。ただ、目の前の物を斬ることだけをイメージする。
その部屋の誰も気づかない。今まさに便利屋の青年は『異層』へと続く細い道を開いていた。
「うわっ!!?」
赤髪の男が素っ頓狂な声を上げた。
取り出したはずの拳銃が、バラバラに斬り裂かれたのだ。
それを皮切りに、護衛たちが赤髪の男を取り押さえた。
「……やはり、お前も裏切っていたか」
ソファに腰掛け、振り返ることなく玄閣が小さく呟いた。
「あの、綴家さんこれどういうことですか」
刀を鞘に納めながら、斬った当人である崇耶が隣でだるそうにしているほむらに問いかけた。
「見ての通りだ、少年。あの男が裏切り者だっただけだ」
「いや、説明になってないです」
騒がしい室内。崇耶とほむらは持ち場から離れることなく赤髪の護衛が取り押さえられるのを見ていた。
「さっき話していただろう。この辺りが何やらキナ臭いって話。『吾門組』と『神域祓魔軍』のとある一派が手を組んでるってアレ。『西天会』の組織と、壁の外の治安維持を担っている『神域祓魔軍』の一部が手を結んでるんだ。当然『門岸グループ』にもその手が及んでいるのは明白だ」
そこでだ、と言いながらほむらがあくびを一つする。
「首領から直々に依頼があったんだよ。『君の「通力」で裏切り者が誰なのか、探し出してくれないか』ってね」
「そうだったんですか。っていうか、いつの間に見つけたんですか?」
「それはまぁヤツらの通信手段を、ね。てか眠いし解説は後でいい?」
あくびを繰り返しながら綴家が目を擦った。
「いやこんなところで寝ないでくださいね!?」
今にも寝そうなほむらの肩を揺さぶった。
「クッッッソが!! 『干渉者』共……!!」
取り押さえられた赤髪が崇耶たちに向かって吠えた。
「イミわかんねぇ力使いやがって!! お前らがいるから俺たちは……!!」
頭を抑えられ、男の言葉はそこで途切れた。
「首領、お怪我はございませんか」
「問題ない。そこの便利屋が斬ったおかげだ」
部下の言葉に返しながら、門岸が崇耶の方を見た。
「さすがの腕だ。お前に斬れないモノはないことだろうな」
「いえいえ、俺は何も。彼女の手柄ですよ」
と、立ったまま眠りこけているほむらの肩を叩いた。
この居眠り魔が突き止めなければ斬ることもできなかったのだし、ほむらの手柄なのは間違いない。
「さて、それでは話の続きをしようか」
取り押さえられ、応接室から連れ出される気絶した赤髪に目もくれることなく商談を再開する。
外で爆弾を持ち込んだ護衛も捕らえたという連絡も入った。
そして何事もなかったかのように商談は再開する。
相変わらず狂った連中だな、と崇耶は苦笑いをする。
どんな損壊よりも命よりも、商談こそが本命。
だが、その目に宿るのは金儲けなんて言う即物的なものではない。
彼らが欲しているのは「すべて」だ。
富だけではなく、力も栄誉も。
希望の光も届かない、掃き溜めのような壁の外の世界において、何かを得ることに意味はない。だとしても、せめてのし上がることはできる。
それが彼らに残された誇りだ。
「綴家さん、仕事中ですよ。起きてください」
眠っているほむらの肩を揺さぶってなんとか彼女を起こした。
「むぅ……もう朝?」
「まだ昼です」
起きてあくびを一つして、再びほむらは寝ぼけ眼で壁にもたれ掛かった。
このまま何も起こらずに商談が終わればいい。――そう思っていた矢先のこと。
「し、失礼します!!!」
大きな音を立てて扉が開かれた。
「うるせぇぞ。静かに入れ」
部下に対して物延が冷たく返した。が、一方の部下は息を荒げたまま落ち着く様子もない。
「用件は何だ。手短に言え」
「それがっ――娯楽エリアで大規模な火災です!!」
「っ……!!」
崇耶は息を飲む。
陽鞠が今日行ったのは、娯楽エリアだ。
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