第8話 聞くも知らぬも一生の恥
出会って身寄りのない僕たちに宿をくれた村長。そんな彼が、無惨な姿で目撃された。当然、町中大騒ぎになり、役所の人間が現場で取り調べを行うことになった。容疑者は、その場にいた町の人たちと、僕とマリー。
「な、なんで僕が!?」
「遺体の死亡推定時刻が明朝の一時だったことが判明したからだ。そして、遺体の切り傷から、恐らく凶器は刃物のようなモノ。その辺の包丁でやったもんだろ」
つまり、今のところ容疑者は村に住む人たち、そしてちょうど村に足を踏み入れた僕たち。冒険には危険がつきものとは言うが、それにしたって僕はとことん旅先でツイてない。もしかして、僕って危険体質なんだろうか?
「どうしてこんなことに……」
「……ミント、気がついた?」
僕の耳元にマリーの声が近づく。
「何が?」
「あの役人、焦点が合ってなかった。あいつら自身の意志が感じ取れなかった」
言われてみれば、あの役人はこちらを見てるというより虚空を見つめているような感じがした。
「それって、操られてるってこと? 誰がそんなことを……」
「可能性としては……」
「まさか、スクナヒコナ?」
僕の答えに、マリーは頷いた。
「じゃあスクナヒコナを叩けば……!」
「でも先に、村長が殺された原因を特定しよ? 恐らく、スクナヒコナを叩く方が難しいだろうし。ボスといえば魔王城とかがお決まりだし」
魔王城がテンプレかはさておき、マリーが言いたいのは、どちらにしろイチョウ村長の犯人を、僕らが容疑者として目をつけられてる限り、スガタノオオクニ自体探索しづらいのは火を見るより明らか。僕は重い胸の内を抱きながら、犯人探しに臨む。
「じゃあメガネと蝶ネクタイかけて」
「絶対嫌」
◆
「村長は、えーっと……斬り殺されたのかな。凶器はどこ?」
僕はマリーと共に現場に戻って、一連の事件の内容を整理しようとした。尊重の死体は布で被せられている。マリーが陽気にその布を剥がして、中を覗く。僕は死体がトラウマになっていて、その場から少し距離を取る。
「おい、そこでなにやっている」
後ろから声が聞こえて振り返ると、そこにはその辺の役人とは違う風貌をした初老の男が、こちらを睨んでいた。
「ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだぞ」
「ご、ごめんなさい!」
「現場を荒らされると困るんだよ。それともなんだ、お前たちが犯人だと証明されたいのか?」
「け、決してそういう訳じゃ……」
「……そうじゃないなら、さっさとここから離れな。犯人じゃなくても、税金取られたくないだろ」
初老の男は小声でそう言って、僕らを現場の外へ追い払った。
「見逃してくれたのか……? それとも……」
「ラッキーだったね!」
この際目をつけられた事実に変わりがないから全然ラッキーじゃない。すると、現場の中からさっきの初老の男が現れ、懐から手帳を取り出して見せた。
「申し遅れた。俺は官僚を勤めている、ウツギという。今からお前たちに死亡推定時刻にどこで何をしてたか取り調べを行うが……」
何事もなかったかのように、僕とツバキさんも含めたその辺の人たちを聞き回られる。
「ウツギさんに取り調べられるたぁ、なんか新鮮な気がするな」
「これも仕事なんだ。協力してくれ、ツバキ」
ツバキさんのアリバイは、昨日村長と酒を交わした後、すぐに別れたということだった。恐らく、税金取りの役人の後に呼ばれたときのことだろう。
「……ってわけで、俺はソンチョのストレス発散のために相手になってただけだぜ」
「なるほどな。一つ聞きたいんだが、飲み交わしてる時、争ったりしなかったか?」
「争う? いや、穏やかに終わったぞ?」
「……」
ウツギさんは指を顎に当てる。
「まさか、俺疑われてるのか?」
「死ぬ直前まで会ってたとなると、尚更な。悪く思うなよ。信頼してるからこそ疑わなきゃならん時があるからな」
「マジか」
「あ、あの……」
二人の間に、一人のこじんまりとした女性がゆっくりと手を上げる。
「その、ツバキさんの言ってること本当だと思います」
「あなたは?」
「村に住んでる者です。その人、村長の家で話してるところ、私の家から見てたので。ちょうど、家の中片付けてた時に見てました。そういえば、その時出てきたの、村長だけでした」
「であれば、ツバキ。お前何してたんだ?」
「村長の家で寝ちまって……。それで準備の時、酔いが覚めなくて遅れたんだ。すまんな」
女性は首を強く横に振る。
「え、えっと、気にしてませんので、大丈夫ですよ。いつも、村長のお守りお疲れ様です」
「ちなみにそれは何時ごろ?」
「十時ちょうどだったと思います」
「だとすると、ツバキは容疑から外れるな。他に気になることはなかったか?」
「と、特に……、あっ、そういえば、昨日変な声が聞こえたんです」
「変な声?」
「私、実は昨日寝付けなくて、起きてたんですけど、外から小さく"あー!"みたいな声が聞こえて……それが、十二時五十分くらいで……」
という流れで、取り調べは行われ、ツバキさんのようにアリバイ立証で容疑から外れたものもいれば、立証されずに容疑者から外れなかった人もいた。僕らは外部の人間な上に、アリバイが立証されなかったため外されなかった。共犯の可能性を考慮してのことだった。むしろ、外部の人間ほど、得体の知れないということだろう。
「ホンッットついてないんだけど……」
「冒険は危険がつきものだからね!」
「ここまでとは聞いてないだろ……」
「誰も言ってないしね」
「そうだけど! そうだけどさ!」
「ここは捜査に協力して、犯人見つけちゃわない?」
「二度も面を喰らいたくないんだけど……」
「でもでも、この件片付けないと、スクナヒコナに謁見すら難しいでござる」
語尾が忍者になってる。僕はため息をついて、マリーにしたいの状況について問う。
「……マリー、さっきの死体どんなだったか覚えてる?」
「えーっと、かまいたちみたいだった!」
「どゆこと?」
「傷だらけってこと。大きいのは腹部の上ら辺。あれが多分致命傷。それ以外は細かい傷ばっかりだよ」
争った後に殺されたってわけか。
「でもみんな方向が一緒なんだよね。細かい傷は、腕の後ろ側から伸びてたんだよ」
僕は考えながら確かめた。スケッチブックに簡易的に全身を描き、腕一本側面から見たから、下から上まで伸びた傷を描いてみせた。
「全方向が一緒って……、こういう認識で合ってる?」
「オフコース!!」
「ちなみに細かい傷って、どのくらい広かった?」
「糸ぐらい狭かったよ」
ということは、刃物で争った……という結論は少しおかしくなる。
「薔薇の棘だよ」
「え?」
突然、声がしたと思ったら、そこに僕らと見た目同世代の少女が現れた。
「推理するまでもないさ。あんたらは知らないだろうけど、昨日誰も立ち入らなくなったバラ園で妙な音を聞いたんだ。恐らくそこに行けばわかるんじゃないのかい?」
「えっと……」
「あたいはサクラ。水飴屋の娘さ。あんたら、スクナヒコナとやらをとっちめたいんだろ? ここは一つ、協力関係……協定とやらを組まないかい?」
「だが断るッ!」
「即決だな!?」
心なしかマリーだけ身に覚えがある濃い絵柄に見えた。
「そうか、せっかく苺大福を用意したんだが……」
サクラと名乗る少女は懐から餅の入った箱をちらつかせると、マリーが目を輝かせながら手を挙げる。
「苺大福!? やるやる!! 協定結ばんのはお門違いじゃよ!!」
これが俗に言う、手のひらドリルというやつか。生でその光景を見たのに呆れと同時に、少しだけ感動すら覚えた。
「乗ってくれると思ったよ。あたいもスクナヒコナとやらにはうんざりしてたんだ。税金取られてカツカツなんだよ。だから朝からカツカレー頬張ったさ、カツだけに」
「……」
急に身体中が冷え切った。
◆
僕たちはサクラの証言のもと、誰も立ち寄らなくなったバラ園に向かった。しかし、そこは魔物の巣窟と化しており、虫型の魔物が蔓延っていた。可能な限りマリーの手によって何体か魔物を倒せたが、数が多すぎたため一旦退却し、城下町まで急いで着いた頃、息をあげていた。
「おかしいね、前まで魔物なんて一体もいなかったのに……!」
「てことは、税金を取られる前はいなかったの?」
「ん? あー……そういえばそうだ……!」
合わせられた答えから、確信に変わる。国の防御が破壊同然で魔物の侵入を許している事実から、スクナヒコナは汚染されている、ということ。魔物の存在を役所に伝えようにも、スクナヒコナの操り人形という一番最悪な状況に、頭を悩ませようとする僕に、刺客が舞い込んだ。
「異邦人ミント、マリー、そしてサクラ。貴様らに殺人の容疑がかけられている!」
「はぁ!?」
男たちは僕らが逃げられないよう四方八方に囲う。
「国がヤバいのにそんなことしてる場合なのかい!?」
「ど、どうしよう……」
「……聞く耳持たずか。仕方ないねぇ」
サクラは懐から球の形をした包みを取り出し、それに着いてた紐を引っ張り地面に投げつけると、一瞬であたり一帯が煙に包まれた。
「これって、煙玉……!?」
「こっちだよ!」
僕とマリーはサクラに手を引かれるがままに、煙の先の人気のない方へと吸い込まれた。
◇
⬛︎⬛︎のいないグループチャット
れーやん
アイツただ遊んでただけなのに「ふざけてた」とか「いじめ」とか、頭湧いてんのか?
U字
それしかもターゲット俺ってなってて思考真っ白になったわ
れーやん
意味分かんなすぎて草
れこち
アイツ中学の時皆から嫌われてたよー。なんの進歩も反省もない。クラスから省いたわ
U字
いやまぢ辛すぎ。先が思いやられるわ
れこち
逆に責められたら癇癪起こすから面倒だった
れーやん
いやダルいってそれ笑
◇
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