第26話 自らの手を汚す覚悟
三人ぶんの呆気に取られた表情を前にして、言葉を重ねていく。
「まず魔獣たちの数は可能なかぎり小分けにして、ルートもバラけさせて、ウチの関与がバレないようにする。並行して商人に偽装した手の者を大国に送り込んで、カフカスに莫大な金鉱脈があるという偽情報を流すんだ」
ルリの強化の魔法があれば魔獣たちの行軍速度は上がるし、メラニペの指示が組み合わされば効率的に動けるだろう。
偽の証拠として必要な金塊は、アイルが内政で
「大国からすれば大陸中央部にあるカフカスは他国に睨みを効かせられる要所だ。魔獣がいないなら制圧しない理由がない。そこに金鉱脈の情報を与えれば間違いなく攻め込むだろう」
話しながら、頭の中で言葉をまとめていく。
「どの大国に情報を流すかだが、北部のメンショウ帝国が良いと思う。あの国は跡目争いで文治派と武断派が対立しているが、今のところ文治派が優勢で、武断派は目に見える成果を欲しているからな。軍団の動員もスムーズに進むはずだ」
「あんた、どこでそんな情報を手に入れたのよ……」
ルリから向けられる呆れ混じりの感嘆。原作知識さ、とは言えないので、「伝手があってな」と返す。
「メンショウ帝国を選んだもう一つの理由は、大国の中であそこが一番好戦的かつ軍団も精強だからだ。跡目争いに終止符が打たれたら他国に侵略する可能性もあるし、それを妨害する意図もある」
可能性、とは言ったが、それが確定した事象であることを知っている。なぜなら、メンショウの宣戦布告をきっかけに戦乱の時代が始まるのだから。
さらに言えば、原作のストーリーにおいてメンショウは三国同盟を組まれるほどの快進撃を見せる。
弱体化のチャンスがあるなら逃したくない、という気持ちもあった。
「メラニペにとっては、カフカスを利用する形になって嫌かもしれないが……」
「ン……、滅ブ運命ニアル森ガ、ユミリシスノ役ニ立ツナラ構ワナイ。……平気ダ!」
言葉に込められた気遣いに感謝しながら、結びの言葉を告げる。
「どうだろうか、この作戦は。意見を聞かせてくれないか」
真っ先に口を開いたのは、俺の言葉を聞きながら考え込んでいたアイルだった。
「金塊はアイルが用意できると思いますけど、メンショウに潜入するための偽商人と伝手はどうやって用意します? 偽商人に求められる能力もかなり高いですよ」
「ああ、俺が偽商人に化けて潜入する」
ルリが飲んでいた紅茶を吹き出した。
「ケホッ、コホッ……ちょ、あんた正気!? ディアモントの侯爵であるあんたが、しかも跡目争いでピリピリしてる大国に潜入する!?」
「なるほど、流石は御主人様です。御主人様なら全く問題ないですね」
対照的な二人の反応に思わず苦笑する。
「ディアモントは超がつくほどの田舎国家だからな。メンショウとは交流もないし、名前だって知られてないさ。まぁ、先を見据えるなら変装で顔を変えるくらいはしたいが」
「それでしたら丁度良いですね。御主人様が併合したシュヴァイン領の、領主付き執事長さん……あの方は
御主人様がフソウに旅立たれる前に分かっていればお願いしたんですけど、と続けるアイル。
まさかこんな形でシュヴァイン領の併合が役に立つとは。
「なるほど、なるほどね。ユミリシスの妻になるからには、この程度で驚いてちゃダメって事か。勉強になるわ」
「いや、驚くルリの反応も可愛いから慣れなくて良いと思う」
「ケホッ、コホッ。ああもう……あんた、本当、そういうところ!」
睨みながらも頬を赤くするルリに癒やされつつ、もう一つの問題に対する回答を返す。
「で、伝手に関してだが……ヤエを頼ろうと思う」
「ン? ヤエハ、フソウノ剣士ダト言ッテイタゾ?」
「ヤエには刀の腕を磨くために諸国を放浪していた過去があってな。その時にメンショウの武官と
原作ゲームの正史では、ヤエはフソウを出奔したのち、縁を辿ってメンショウに士官するのである。
「強引なところもあるが、全員で力を合わせれば実現出来る作戦だと思う。実現するためにも、詳細を一緒に詰めていってほしい」
「御主人様の意味不明な力と知識を前提にしたトンデモな作戦ですね。かしこまりです」
「はぁ、しょうがないわね。任せなさい、全力を尽くすわ。でも、危ないと思ったらいつでも作戦なんて放棄して逃げて良いんだからね」
「ワタシモ、出来ル事ハ何デモヤルゾ!」
三者三様の言葉を聞きながら、瞳を閉じて思いを巡らせる。
メンショウは未来の敵国だが、原作ゲームでお世話になったキャラも少なからずいる。
そんな国を、人を、罠にハメて多くの兵士を死に追いやる……躊躇いはもちろんあった。
だが、この作戦を成功させれば戦乱の始まりが遠のいて、さらに富国強兵を推し進める事が出来る。
大切な人たちと領民を幸せにする為に。何者にも侵されない強さを手に入れる為に。
その為なら、手段は選ばない。
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