第50話 ユリの失敗(1/3)

 パピィとマピーは相変わらず、ラーハムの修行に突き合わされている。ユリの監視は、格下の傀儡に任された。


 監視と言っても、格下の傀儡は単純な命令しかこなせなかった。監視というより、どちらかと言うと、お世話係と言った感じだ。


 それを良いことに、ユリは、格下の傀儡の監視を掻い潜ると、作りかけであったガーの居る泥沼へ、こっそりと向かった。ユリは作為的な仕掛けで格下の傀儡を騙すと、そこを抜け出した。


 ガーとその取り巻き女たちはユリにとっては、心近しい友達のようなものだった。近しい友の放つ誘引力がユリを引きつけた。


 ユリは、ガーと取り巻き女たちの居るところで、泥まみれになることを厭わず作業に邁進した。それは綺麗な泥だった。綺麗な泥とは、公論に於いても非難されない泥である。そして、作業を終えると綺麗な水で水浴びをすると泥はさっぱりと落とされるのだった。そんな一時をそこで過ごすと、エリに咎められる前に、こっそりと自室に戻るのだった。


 ガーは、母親のようにユリとの別れ際に丁寧な言葉を送った。ガーは、優しく諭す様に語りかける。


 ユリ、帰るなら真っ直ぐに理想である、母エリ様の元へ帰るのですよ。明るい内に、帰り道の分かる内に、辿り着きなさいよ、と。


 ユリは、軽く手を挙げ、生返事をして、揚々と返っていった。いつも通りの明るく朗らかな様子でだ。


 しかし、ガーの顔は晴れなかった。


 ガーの取り巻き女の1人がその顔に不安を覚え聞いた。


 お姉さん、何をそんなに不安がっているの?と。


 どうしようもない不安が過るのよ。明日には、もうあの子に会えないのではないか…とね。あの子のあの屈託のない透明な笑顔が見れないかと思うだけで、この胸のどす黒いものに心を浸蝕されてしまいそうで、不安になるのよ…。私はあの子に触れて貰えないと無いのと同じだから…。


 ガーの目には言い知れぬ不安が満ちているようだった。


 俯いたガーの顔を取り巻き女の1人が再び見たとき、ガーの顔は醜い鬼女の相となっていた。取り巻き女は小さく、ひぃと声を上げた。


 ガーは不安が溢れる程に満たされると、彼女と彼女の体は、悪変してしまうのだった。ガーは傍に居た取り巻き女の一人をパクリと食べてしまった。


 取り巻き女たちは、ガーの権体(ごんたい)であったが、意思の自由は与えられていた。

 

 ガーの本性は邪悪である。ユリの持つ浄化の力によって理性を保っているに過ぎなかった。


 取り巻き女たちはざわめいた。兎に角、ガーを落ち着かせなければと、取り巻き女の一人は、懸命に気休めを言った。


 お姉さん、だ、大丈夫ですよ。あの子は真っ直ぐ帰り、明日になれば、元気にまたやって来ますよ。そして、元気に抜け出しの武勇伝を聞かせてくれますよと、当てにならない気休めを言った。


 自らの本性に近づいたガーは暗雲を導き、その顔は恐ろしい鬼女の顔となっていたが、即座に女神に相応しい美女の顔となり、その言葉を肯定した。


 そうね。ここから宮殿までは近い。三叉路を抜けて、すぐなのだから。毎日通う知った道。迷うこともないのだから。三叉路と言うところに一抹の不安を感じたガーだったが、同時にユリの爽やかさを思い出すことで、本性の邪悪を封じ込めた。


 ユリは、その帰り道に少し寄り道をした。エリとユリを外世界から隔絶する外壁に立ち寄ったのだった。オルが築いた外壁。壁に触れると越えることの出来ない壁の厚さと高さと固さが、ユリに迫ってくるのを感じた。


 ユリはその小さな透き通った心の胸で、それを事実なのだと受け止めると、言葉無く、そこを去った。


 ユリが三叉路の辺りで、一匹の蝶が飛来するのを見かけた。ユリはテフとその蝶に名付け懸命に蝶を追い掛けた。


 テフよーい。まてまて。待っておくれよー。


 蝶はヒラヒラと飛び、ユリを翻弄しながら飛んだ。ユリは、蝶に翻弄されながらも、懸命にそれを追い掛けた。


 だが、ユリはそこで以前見たことのある黒尽くめの男が独り言を言って居るのを見かけた。


 ユリが男を観察すると、男はどうやら独り言を言って居るのではなく、大きく黒い影があり、それと話をしているようだった。


 男の様子にユリは興味を惹かれた。興味はユリを懸命にさせた。ユリは、男にバレないように、静かに近づくと、近くの草むらに身を潜めた。そして、男のに耳を傾けるのだった。


 第51話 ユリの失敗(2/3)に続く。


 


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