第3話 帰郷の誓い
王宮で得た使命を胸に
ユウキが故郷へ戻るために王宮を後にした日、彼の心は複雑な思いで満ちていた。王を救ったという達成感と、家族との再会に対する希望と不安が入り混じっていた。王の命を救うことができたのは、無名の若者としての挑戦が報われた証でもあったが、その裏には大きな犠牲と辛い経験があった。
王宮を出て、ユウキは広大な王国を後にし、山々を越え、河川を渡り、いくつもの村を通り過ぎて故郷へと足を運んでいった。その道中、彼は王宮での出来事を思い返していた。毒物を見つけ出した瞬間、あのひどく苦しんだ王の顔を、そして命を繋ぐために戦ったその瞬間を。命をかけた治療の結果、ユウキは医師としての誇りを胸に、成長した自分を実感していた。
だが、故郷に戻ることへの期待が次第に重くのしかかってきた。家族を守るために村で過ごすことができるだろうか。今や彼はひとり、異なる世界を体験した者となった。彼の目には、村の暮らしが以前とどのように異なって見えるだろうか、そして家族の期待に応えることができるのだろうか、という問いが湧き上がってきた。
故郷に到着した時、ユウキは家の前で足を止めた。家は変わらず、そのままの姿をしていた。だが、村の景色が少し違って見えた。田畑は少し荒れているようにも感じられ、家々の煙突からは以前のように穏やかな煙が立ち上っていない。ユウキの心に、少しの不安がよぎった。
家の中に足を踏み入れると、母が台所で作業をしていた。彼女の姿を見た瞬間、ユウキは胸が熱くなり、口をついて出た言葉は、ただ「帰ったよ」という一言だった。
母は顔を上げ、驚きと喜びの表情を浮かべて駆け寄った。「ユウキ、無事だったのね。ずっと心配していたのよ。」彼女の腕の中に抱きしめられた瞬間、ユウキはこれまでの緊張から解放され、思わず涙がこぼれそうになるのを堪えた。
父もその場に現れ、長い間心配していた息子を見て喜びを表現した。しかし、ユウキはすぐにそれだけでは収まらないことを感じていた。彼は、家族に自分のこれまでの経験や王宮での出来事を話す準備をしていた。
夕食の席で、ユウキは家族に自分が経験したこと、そして王の病を救ったことを伝えた。話が進むにつれ、父と母の表情が変わり、彼らの目に誇りと共に深い心配が浮かんできた。
「それだけの経験を積んできた君が、この村に戻ってきて何をするつもりだ?」父は真剣な表情で言った。「ただ家で静かに過ごすだけでは、あの王宮での経験を無駄にすることになるだろう。」
ユウキはその言葉を胸に刻んだ。彼が見つけたのは、家族を守りたいという思いと、村や人々のために何かを成し遂げたいという使命感だった。だが、どこかで王宮での経験が、彼にとって一つの道を切り開く可能性を示唆していることに気づいていた。
「私は、村に医師として戻り、病気や怪我に苦しむ人々を助けたい。」ユウキはゆっくりと言った。「あの王宮での経験が、私に何を成すべきかを教えてくれた。」
母は少し驚いた表情を見せたが、やがて柔らかく頷いた。「ならば、私たちは応援するわ、ユウキ。君が選んだ道ならば、支えてあげる。」
その夜、ユウキはしばらく眠れなかった。自分の使命を再認識し、これからの道をどう進んでいくかを深く考え続けた。王の病を救った経験が彼の人生に新たな意味を与え、彼の中で一つの大きな使命が芽生えたのだ。これからも家族を守り、村人たちを救うために尽力していく覚悟を固めたユウキは、静かな夜明けを迎えた。
ユウキは、王宮で学んだこと、そして故郷で得られた愛と支えをもとに、新たな人生の一歩を踏み出すのであった。
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