命をつなぐ者

@hikun123

第1話 「決意」

小さな村の朝


 日の出とともに、ユウキは目を覚ました。窓の外に広がる緑豊かな景色が、静かな朝の光を浴びて輝いている。遠くに見える山々、木々の間にさざ波のように揺れる田畑。ここは、ユウキが生まれ育った小さな村だ。家族とともに、貧しいながらも平穏無事な日々を送っていた。


 ユウキの家は農家で、日々の暮らしは決して楽ではない。しかし、両親は体を張って働き、兄妹も協力して畑仕事に励んでいる。朝食の準備が整うと、家族全員が集まり、静かな食卓を囲む。


「ユウキ、今日はあっちの畑も見ておきなさい。」父が言う。農作業が忙しくなる前に、ユウキは日課として家の周りの仕事を手伝うことになっている。


「わかった、父さん。」


 ユウキは返事をすると、早速畑へ向かう。父の言葉を胸に、家のことも少しずつ覚えてきた。農業の大切さを学びながら、家族を養うために自分ができることをしっかりこなしていた。


 だが、そんな平和な日常に、突如としてある噂が届くことになる。


 噂


 午後の作業を終え、村の広場に集まっている村人たちがざわめき出した。ユウキは気になり、近くに歩み寄った。話題は、遠く離れた大国の王の病気のことだった。


「王様が病気だって…」村の老人が言う。


「それが本当なら、この国がどうなってしまうんだろうな…」別の男が答える。


「うちの子供たちが話してたんだけど、国王がどうしても治らない病にかかって、もうすぐ死んじゃうかもしれないって…」


 その言葉に、ユウキの心が震えた。大国の王が病気であることが、まさか自分の生きる世界に影響を与えるとは考えてもいなかった。国の安定は、この病気にかかっている王の回復にかかっていると言われていた。もし王が亡くなれば、大国の権力が崩れ、戦争や混乱が訪れるかもしれない。


「国王が死ねば、大きな戦争になるかもしれない…」村人の一人が言った。


 ユウキの胸の中に、ひとつの決意が芽生えた。それは、ただの想像ではなく、彼の心の奥深くから湧き上がる、強い思いだった。


 家族との会話


 その夜、ユウキは家族と一緒に食事をしていたが、頭の中はあの噂でいっぱいだった。両親や兄妹が話す声はどこか遠くに感じ、ユウキは無意識に自分の心の中でその病気のことを考えていた。


「ユウキ、どうした?」母が声をかける。「何か気になることでもあったか?」


 ユウキは少しだけ顔を上げ、真剣に言った。「あの、王様が病気にかかってるって噂を聞いたんだ。もしその病気が治らないなら、国が混乱してしまうって…。でも、もし治せる医者がいたら…国を救えるんじゃないか?」


 父は黙って聞いていたが、しばらくしてから低い声で答えた。「そうだな、国の命運がかかっていると言っても過言ではないだろう。しかし、そんな遠い国のこと、俺たちには関係ないと思っていたが…」


 ユウキは父の目を見つめた。「僕が、医者になれたらどうだろう?王様を治すために、僕が行くべきだと思うんだ。」


 父の顔が険しくなった。すぐに口を開くことなく、しばらくの間、ユウキを見つめていた。家族を守るため、村を守るため、ユウキが医者になるというのは、家族の生活を支えるために今まで以上に大きな責任を背負うことを意味していた。


「医者になるということは、簡単なことじゃない。」父はゆっくりと言った。「お前が本当にそれを決めたなら、応援はする。しかし、どんなに努力しても、医者になれるかどうかは分からないぞ。」


 ユウキは静かに頷いた。「でも、やらなければ、何も始まらない。もし王様を救えるなら、家族を守るためにもっと強くなれる。だから、僕はやりたい。」


 母は優しく微笑んだ。「あなたの決意がしっかりしているのなら、私たちも応援するわ。どんなことがあっても、家族はあなたを支える。」


 ユウキは感謝の気持ちを込めて、母と父を見つめた。「ありがとう。僕は必ず医者になる。王様を治すために、そして家族を守るために。」


 旅立ちの日


 数週間後、ユウキは村の医者に弟子入りし、医術を学び始める。始めはただの農家の息子にすぎなかったユウキも、次第に医術の知識を吸収していった。


 だが、ユウキにはまだ多くの課題が残っていた。医者としての技術を身につけること、そして大国で通用するような医師になること。そのためには、膨大な努力が必要であった。


 やがて、ユウキは医術の基礎を学び終え、いよいよ大国への旅立ちの日を迎える。しかし、家族のもとを離れることには大きな不安と心の葛藤があった。彼は家族を守るため、そして王を救うため、まだ見ぬ世界へ踏み出す決意を固めた。


「行ってきます。」ユウキは家族に言った。


「気をつけて行きなさい。」父が、母が、兄妹たちが、心からの言葉をかけた。


 ユウキは家族の元から旅立ち、大国に向けて歩み始めた。その先に待つのは、果たして希望か、それとも絶望か。ユウキはただ前を見据え、踏み出すのだった。

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