とある大邪神の記録

初音MkIII

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 強大な力と残虐極まりない性格を併せ持つ人類の敵、魔族。

 それらの中でも一際強大な、『魔王』を名乗る邪悪な者が現れ、人々の平和を脅かすようになってからおよそ半世紀。


 田舎のとある村で生まれ育ったミトスという青年とその仲間たちが、遂に魔王討伐の偉業を成し遂げた。

 絶対者たる魔王を失った魔王軍は散り散りに逃げ出し、世界は歓喜に包まれた──。




「なんだ、この凄まじい魔力は……!

 それに、なんておぞましい……。

 お前は、いったい何者なんだ!?」



 ──しかし、人々は知らなかった。

 気が遠くなる程の過去。

 かつて栄華を極めた旧文明が実在し、そしてその頃より現代に至るまで生き続ける、最強最悪の魔族が居る事を。



 今ここに、対峙する勇者と巨悪。


 更にはなんと、邪悪極まりない魔力を放つ正体不明の巨悪の手には、研ぎに出されていたはずの『勇者の剣』が握られている。


 否。

 もはやその姿は『勇者の剣』などではなく、無数の目玉が折り重なって巨大な剣の形を成した、異形の魔剣と化していた。



 そして、遂に巨悪が口を開く。



「貴様が、勇者ミトスか。

 それに、戦士ギーラ。

 僧侶マリク。

 魔法使いミーティア……。

 成程、噂の勇者一行とやらが勢揃いというわけだ」


 巨悪の姿は、意外にも整った顔立ちと妖艶な肉体を持つ赤い長髪の女性であった。

 その顏には僅かながらも幼さすら残っており、外見だけならば邪悪とは程遠い。

 しかし蟀谷こめかみの辺りから伸びる、まるで木の幹のような質感を見せる二つのねじくれた巨大な角が、彼の者が人類の敵たる魔族である事を証明している。



「──もう一度だけ聞くぞ、魔族。

 お前はいったい、何者だ」



 禍々しく変貌してしまった『勇者の剣』だったものを一瞬悲しげに見遣り、しかしすぐに気を取り直した勇者ミトスは、巨悪を睨みつけながら再度質問を浴びせる。


 同時に、彼の脳内では絶えずシミュレートが繰り返され、『勇者の剣』を奪い返す手段を模索し続けていた。


「答えは既に出ているだろう。

 我が名はアルテミシア。

 貴様の言う通り、ただ通りすがっただけの、一介の魔族だとも」


 アルテミシアと名乗った巨悪は薄く笑い、ぬけぬけとそう宣った。

 無論、魔王すら赤子に思える程の凄まじい魔力を放つ目の前の存在を、言葉通り『一介の魔族』などというチンケなもので片付ける者は、誰一人としていない──。



 と、勇者ミトスの側に地の文をつけるならこんな感じだろうなぁ。


 マジでただ無駄に長生きしてるだけの通りすがりだから、許してクレメンス……。



 現実逃避中にハロー人類。

 発展しすぎた文明が一度滅んで、また生えてきた人類が再び文明を築く様子をずぅっと陰ながら見守ってきた系魔族のアルテミシアです。


 あぁ^~勇者様に焼き殺されそうな程睨まれて心臓ぴょんぴょん死ぬほどバクバクするんじゃぁ^~


 いやいやマジでやめてよ。

 私はマジで通りすがっただけ……いや、ちょっとした出来心で噂の勇者の剣を見物してるうちに触りたくなっちゃったのは事実だけど悪気はなくてこんなグロいソウル〇ッジもどきに悲劇的ビフォーアフターなんということをしてくれたのでしょうするつもりなんて欠片もなくてですね。


 勇者様にこやつをお返ししたいのは山々なんですが、なんか手に吸い付いたように離れなくてですね。


 つまるところあなた方と敵対するつもりなんて全然全くなくてですね。

 あっダメ。

 チクショウ分かってたよ勇者一行なんて魔族絶対スレイヤーズが見逃してくれるわけないって事ぐらい!


 ふっるい魔族に転生して時間が有り余ってるなんて次元じゃねえ今世で暇潰しがてら自分の魔力を鍛えまくってた甲斐あって、大層やんちゃしてたと噂の魔王が鼻くそに思えるぐらい魔力量多いからな私!

 おまけにこの世界というか魔族の種族特性上、邪悪なんて言葉じゃ表現が全く足りないぐらいエグい魔力してるからな私!



 安直にスタコラッシュしてもこの勇者一行ってば絶対追いかけてくるだろうし、かといって人喰い魔族どもの生き残りがまだまだ居る今の世界の状況で勇者一行をシバいちゃうと人類全滅RTAが始まる事ウケアイだし。



 仕方ねえ、死ぬほど痛いが恨むなよ!

 うおおおお私は平穏に暮らしたいだけなんじゃいフラーーーッシュ!!



 魔力をふわっと固めた弾丸を地面に叩きつけて、勇者一行をマイルドに吹き飛ばしてから逃走じゃあぁぁ!!





 ところで気になってたんスけど、なんで勇者の剣が預けられていたはずの村が燃えてるんですかねぇ?

 いや分かってんだけどヤダなぁ。

 聞くの怖いなぁ。



 絶対、うちの子がやらかしたろコレ。

 えっ大丈夫だよなこの村勇者一行御用達の凄腕鍛冶師が住んでるとSNSそんなもんはないで話題になってたんですけど。

 もしかしなくても勇者の剣がポツンしてた家ってその鍛冶師さんの家だと思うんですけど。


 今更すぎるけど「きゃあああホントに勇者の剣あるじゃんカッコイイ~!!」とか言ってミーハー精神発揮してる場合じゃなかったなうん。

 いや、私にも一応古い魔族としての世間体実は魔王氏が死に際に魔族の神と称した事を知らないってヤツがあるし、本当に口に出したわけじゃないよ?




 あ、一応確認してみたけど件の鍛冶師はたまたま外出してたみたい。

 私を無事見失って悔しがってる勇者一行とたった今再会してなんじゃこりゃあ!? してる。


 つーか今気付いたというか必死に意識を逸らしてたけど、見せられないよ! な形になった勇者の剣パクってきちゃったじゃん。

 どうするじゃん。

 勇者たちの新しい冒険が始まるじゃん。


 えぇ……本当にどうしようか。

 未だにこやつは手から離れないし。


 あっ、私の家世界樹と呼ばれる世界の中心見えてきた。

 とりあえず、そうだな……今後の事は明日の私に託そう。

 うんそうしよう。


 あー、やっぱり故郷世界樹は落ち着くわぁ。

 殺気マウンテンな勇者一行と出くわしてすり減った精神が回復していくのを感じる……すやぁ……。




 ※アルテミシアちゃんの㊙情報

 実は私を含めた旧文明の魔族は増えすぎた人類を、故あって間引くために世界樹が生み出した魔法生命体なんだ! 生き残りはもう私しかいねえけどな!

 今いる魔族は私以外の旧文明の魔族からいつの間にかポコン! と生まれた存在だから、現代の基準に照らし合わせて厳密に言えば私は魔族ではないのだ勝ったなガハハ!

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