第33話 代弁者
「しかし、『司馬』エンマですか」
並走するコーメイは、エンマの姓に思うところがあるらしい。
「
「何で長子だと司馬懿じゃないんだ?」
エンマの言に、大福が首を捻る。
「司馬懿は確か次男でしたから。自分は違うと言いたいのでしょう」
成程。と納得する大福。シュラとラセツは昔からこすられたネタなので無反応だ。
「そうではなく、『司馬梅子』と言う名に聞き及びはないかい?」
とエンマに尋ねてくるコーメイ。対するエンマは、ここでもか。と眉を下げる。
「俺の養母だよ」
「…………そう」
『養母』と言う部分に引っ掛かりを覚えたコーメイだったが、やはり関係者かと頭の中でパズルのピースを組み立てていく。
「司馬梅子の関係者だと、何かあるのか?」
素朴に疑問に思った事を口にする大福。
「司馬梅子征龍軍元中将。高位龍殲滅の精鋭部隊の隊長を務めていた人物です。普段から黒い羽織を羽織っていた事から、ウメガラスとの二つ名で呼ばれ、その部隊は『
コーメイの説明に、梅ばあが着用していたのはどてらだけどね。と胸の内で呟くエンマ、シュラ、ラセツの3人だった。
「その部隊には現総司令である海神元帥や、副司令である味鋤大将など、現行の征龍軍を運営する幕僚たちが、勢揃いしていたそうで、現征龍軍の下地を作った傑物として、知る人ぞ知る人物です」
「マジか……」
これにちょっと驚く大福。
「まあ、ただの口煩いばあちゃんだよ」
エンマの言にうんうんと同意するシュラとラセツ。
「そうは言うけど……」
とコーメイの視線はシュラとラセツに向けられる。
「2人の戦闘能力を考えれば、後進育成に優れた人物である事は透けて見えてくるかな」
どうやら今日までのシュラとラセツを見て、コーメイの中ではパズルのピースが見事に嵌り、納得出来るものに変わったらしい。
「成程な」
とそれには大福も納得のようだ。
「お前ら、どんな暴れ方したの?」
エンマのジト目に、シュラとラセツが顔を背ける。
「そんな、俺たちは普通に過ごしていただけだよな、ラセツ」
「そうそう」
顔を背けたまま、言い訳をするシュラとラセツ。
「2人の強さが突出しているのは、この学校で知らないやつはいないな」
と大福が補足してくれた。が、それに対してエンマは、「シュラとラセツが?」と信用出来なかった。
「まあ、俺らの噂も今日までだよ。何せエン兄が入ってきた訳だし」
シュラの言に頷くラセツ。
「そんなもんかねえ」
首を捻るエンマだったが、これ以上この話も膨らまないだろうと、話題を変える。
「ところで、今、何周目? 俺たち何キロくらい走ったんだ?」
「400メートルトラックを10周走ったから、あと15周で10キロだね」
とシュラが左腕のスマートウォッチで確認して、エンマに教える。
「え? その時計で分かるの?」
「あれ? エン兄、ここら辺まだ貰ってなかったの?」
「貰ってないな。俺が貰ったのは制服一式だ」
「ああ、まずそっちを貰ったんだ?」
「昨日の今日だし、授業で使うから、ガジェット一式は渡されると思うよ」
シュラとラセツの言葉に、なら寮監のウカが学校に行く前に渡してくれるだろう。と納得する。納得はしたが、
「俺の残り20キロ50周は、俺がいちいちカウントしないといけないのか」
と若干の面倒臭さを覚えるエンマ。
「はは。それなら僕がカウントするよ。この腕時計、カウンターも付いているから」
対してラセツが周回カウントを申し出てくれた。
「おお! あんがと! やはり持つべきものは従順なる子分だな」
「この2人を子分扱いかよ!」
エンマの発言にツッコミを入れる大福だったが、コーメイからは、シュラとラセツはこれに特に反発を覚えているようには見えなかった。
「司馬くんの方が格上であると、納得している感じかな?」
コーメイの発言に対して、シュラとラセツは笑顔を向けるだけだ。
「そうなると、エン兄と呼ばれているところを見るに、司馬くんは何やら大病をして、そのせいで入学が遅れたと見て、間違いないのかな?」
「間違いだらけだね」
コーメイの予想を当のエンマが否定する。
「俺が2人から兄呼びされているのは、単純に俺の方が寺に入門したのが早かったから。シュラとラセツとは同い年だし、大病もしていないね」
これには理解が及ばす、頭を悩ませるコーメイ。
「なら、何故この時期に編入する事になったんだい?」
「それは俺たちも気になっていた。だってエン兄の適応龍血って……」
コーメイに次いでシュラも疑問を呈する。
「ああ、変わらず人工龍血一号だったよ」
『人工龍血一号ッッ!!!?』
これには大福やコーメイだけでなく、周囲で耳をそばだてていた他の学生たちからも驚きの声が漏れる。
「嘘だろ!? 人工龍血一号なのに、第一に入学!? しかも特一学級に編入されるなんて、どんな裏技使ったんだ!?」
「いや、実力だが?」
大福が裏口入学を疑うも、エンマは、それはない。ときっかり反論する。
「裏口入学じゃないと証明するのは難しいと思うよ?」
コーメイは冷静に判断し、エンマに告げる。先程司馬梅子の話をした事が、エンマが征龍軍上層部と繋がりがある事を、悪い意味で証明してしまった形となってしまったからだ。
「で? 実際、エン兄ってどんな経緯で、この第一に入学する事になったの?」
これにわくわくと尋ねるシュラ。ラセツも興味津々と言った面持ちだ。
「どう、と言うか、龍神教のテロって先月?」
「先月だね。ああ、あれに巻き込まれた形?」
とシュラとラセツには、何となく経緯が見えてきた。
「ああ、がっつりな。まあ、何やかんやそこでそれなりの活躍をしてな、それで征龍軍に入れても問題ない。と判断されての編入だよ」
これにはシュラとラセツは納得である。しかし周囲がこれに納得する訳もなく、その代弁者として、大福が口を開く。
「いや、人工龍血一号の人間が、あのテロで活躍出来る訳ないだろ」
と至極真っ当な、常識を口にする。が、
「チッチッチッ。そこはそれ、それこそ俺が人工龍血一号だったからこそ、抜け道があったんだよ」
「人工龍血一号だったから?」
「そう。人工龍血一号が、人類最初の人工龍血である事は、学校で習っているだろう?」
「まあ、そうだな。だからこそ、全龍血の中で一番効果が低く、国民皆兵役制の中、征龍軍へ入隊免除がされている訳だからな」
大福が語る一般論に、周囲の皆が頷く。
「普通はね。これは俺を診たお医者さんに聞いた話なんだけど、一号って偶然出来た産物なんだよ。先に龍血に適応する者が出てきて、それならば人工的に龍血を作り出そう。って計画が立ち上がった。何もかもが手探りの状態で作り出された人工龍血一号は、適応する人間は多いものの、その効果に差があったんだよ」
「効果に差?」
「そう言う事。下振れすれば、知っての通り、『身体能力強化・微』と言う使えないものだけど、なら上振れすれば?」
「成程。つまり司馬は偶然上振れしたから、超強化されて、ここにいる訳か」
「ううん」
大福が勝手に納得したところで、エンマはそれも否定する。
「違うのかよ!」
「そんな、運良く最高値なんて出せる訳ないじゃん。俺の龍血細胞の効果は、『身体能力強化・小』だよ」
これは事前にルリや海神たちと打ち合わせた、エンマの編入理由である。そこら辺の裏事情を知っているのは、この学校ではセンジュだけだ。
「…………」
「…………」
「いや! それで何で第一の特一に編入出来るんだよ!」
大福の叫びは、他の学生たちの代弁だった。
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