第25話 伊東一刀斎 episode5
皆は儂を死んだと思うて居るじゃろう。
儂はいったい
儂の剣はもうすでに、己が想像する
一つの
後は弟子たちで好きなようにしてくれたら良いと思って居る。
儂はもう剣を
兵法と言う
儂がこの世に残した剣は、例え名を変え、形を変えたとしても、
そう言う剣を立ち上げたのだ。
儂の剣は、剣を学ぶ者の全てが扱えるように、
儂のやるべきことはもう何も残って無いはずだ。
そうか、儂は自分の死に場所を探して居るのかも知れない。
きっとそうじゃ。
武士を捨てて
剣を捨てて
そうやって
幼い頃より、
いつも剣の事を考え、高い峰を目指し
そして己の剣が、いつの間にか己の考える
まるで
物事を
しかし今は、剣の事は忘れて居たい。
儂はもう良い
剣はもうよい。
儂の剣は、きっと次郎衛門たちが広めてくれるだろうよ。
次郎衛門とは、小野派一刀流の祖、
一刀斎の下で修練に
一刀流と言う言葉は、師を思う次郎衛門たちが、自分が流派を起こす際に当てはめた言葉なのであろう。
人間五十年、下天のうちをくらぶれば、夢幻の如くなり。
心の方は
昨年豊臣家が滅んでしまい、これで徳川家に弓引く大名はもう居ない。
これからは戦の無い、太平な世の中になるであろう。
兵法だの剣だのは、必要が無くなるのだ。
実のところ儂は人殺しが大好きなのだ、いや、大好きであったのじゃ。
好き故に剣技も上達して行った。
儂の剣で人を斬り殺す瞬間などは、
きっと儂は
いつも、どうやったら美しく斬れるだろうかと、その事ばかりを考えて居ったわ。
美しく斬り殺すのは当たり前じゃからの、それは儂の
今日まで何人斬って、魂を天に飛ばしたか解らんよ。
百を数えて、それから数えるのを辞めた。
キリがないからの。
剣の
まずは先手、そして
相手より
相手に先に抜かせてはならん、
あと大事なのは、自分より強い者とは戦わないことじゃ。
相手を
これを我が流派では、
儂はこの見切りが
今までに一度も見切りを間違えたことがない。
今まで全勝で来られたのも、この見切りのお陰じゃ。
人殺しは何やら
殺せば殺すほどに刀が血を吸いたがるのだが、儂も
しかし今まで百を超える命を飛ばして来て居るのじゃ、それがただで済むはずはなかろう。
儂はそう考えて居る。
このままでは引き返せなくなるだろう。
人ではない、何か別のものに成ってしまいそうな気がするのじゃ。
神仏などは信じて居らぬが、今まで殺めて来た数を考えると、やはりただでは済まぬと考えて居るよ。
今すぐにでも、剣を捨てなければ。
まだ人の心が残って居るうちに捨てなければと、己の
だがまだ殺したいのう。
思う存分この刀で斬り殺したいのう。
流石は一刀斎じゃと人から語り継がれる様な
剣の天才だと、
始末は美しゅうないといかん。
儂ほど名前が売れて
儂はそう言う
一瞬の内に
己が斬られた事に気付かぬ内に死んでいく者も沢山居るわ。
儂の剣はまず
受け太刀など殆んどしたことが無い。
一刀の元に
受け太刀などはするものではない、儂の剣は返す刀も
おっといかん、こうして考えて居るだけで、何やらむずむずして来る。
儂が普通の人と違うと気付いたのは、立ち合いで初めて人を斬った時だった。
あの時もこうして股間が
儂がまだ子供のころであり、それが性の目覚めであった。
想えばその時から何かに取り憑かれたようになり、剣一筋に生きて来たのじゃ。
普通の男児が女人の裸体に興奮するのと同じ様に、儂は殺人に興奮を覚えたのだ。
しかし時間をかけて殺すのは、儂は余り好きではない。
殺すのが速ければ速いほど、興奮の度合いも上ると言う訳じゃ。
儂の好みに合わせて、弟子達にも
一に先手、二に手数、返す刀は全て攻撃じゃと。
今から斬るぞと言う
人殺しを
まだ大丈夫と思って居ったが、どうやら引き返す事は出来ないようじゃ。
もはや儂は人では無い。
人の皮を被った化け物じゃ、鬼じゃ。
殺人鬼じゃ。
きっと儂がこの様な
好き
刀とは所詮人殺しの道具であるし、剣術とは人を殺す技である。
それを極める者が、人殺しが好きであって悪いはずはなかろう。
殺人鬼である儂の剣が、弱いはずもなかろうよ。
癖のお陰で、普通の人間ではとうてい到達出来なかったであろう、高峰の部分まで儂は登り詰める事が出来た。
喜ばしい事だ。
そんな風に考えてみると、今まで見えなかった部分が見えて来た様な気がする。
悟りに似た様な感じである。
儂は
そうとなれば、ここは余りにも人が少な過ぎる、もっと人の多い所へ行かねば。
江戸へ行く事にしよう。
江戸ならば、命知らずの
次郎衛門を訪ねて行くのも良かろうよ。
久方ぶりに奴の顔でも見に行くか。
奴は儂が家康様に
そうと決まれば善は急げ、じゃ。
ここ三カ月は人を斬って居らぬからのう。
儂の
つい
可愛い奴よ、もう少し待って居れ、その内たらふく啜らせてやるからのう。
ほう、ここが次郎衛門の屋敷か。
中々立派な屋敷に住んで居るではないか。
道場も立派な物を立て居って、まぁ今では将軍家剣術指南役をして居るようじゃから、門弟もかなり居るようじゃのぅ結構、結構。
儂が家康様に推挙してやったのじゃ。
だがここまで大きく成るのには、やはり次郎衛門の剣技が、将軍家から認められて居ると言う証拠じゃのう。
儂も沢山弟子を取って来たが、その中でも此奴が一番じゃったわい。
筋が良かった。
立ち合ぅて居っても、時々この儂がヒヤリとさせられる場面も数あった。
最後に会ぅてから十年は立つかのう。
儂がいきなり訪ねて来たら、
儂は人を驚かすのが好きだから、楽しみじゃ。
案の定此奴、
しかし、あそこで「お
相変わらず
まぁでも儂の剣の全てを此奴には教えてあるが、此奴は純粋に
儂の剣は汚れて居るが、
儂の剣が恥かしくなる程に、此奴の剣は真っ直ぐで美しい。
此奴の剣は儂の
此奴の剣だけは、汚したくないのう。
次郎衛門は、いつまででも
儂が江戸へ来た理由も、何をしに来たのかも、何も聞いて来ない。
儂は剣の修行とだけ伝えると、まだ高峰へ行かれる積もりかと、世辞を言うて来た。
お体に
儂は次郎衛門に、お主は儂の剣を超えて居ると思って居るのかと聴いてみた。
とんでもないと言うて居ったが、眼はすでに超えて居るぞと言うて居た。
それ以上、儂は何も言わなかった。
次郎衛門も何も言わなかった。
流石にお主の剣は
しかし次郎衛門よ、
お主と儂とでは、
真剣で儂とやり合うたら、万に一つもお主に勝ち目は無いであろうよ。
心の中で儂はそう呟いた。
それから暫くの間、次郎衛門の屋敷で世話を受けた。
そろそろ儂は
身体が
しかし次郎衛門の屋敷へ、人を斬って帰るのは、如何にも
此奴のことだ、儂が何をして来たのか、直に気付くであろう。
儂は次郎衛門の屋敷を後にして、町はずれの
その日の内に、儂は江戸の町を練り歩いてみた。
おおお、居るわ、居るわ。
名を上げる為、腕を
成るべく強い奴が良いのう。
儂は成るべく強そうな奴を探し、声を掛けた。
いくら儂でもいきなり斬り付ける様な
お互いに、
おう、お主、儂と
と言う様な事を儂は言うた。
なんだお前、頭が
みたいな事を相手が言い返して来る。
なんじゃ、儂が怖いのか。
と、この様に儂は
この野郎、殺してくれるわ。
と、相手は怒り狂い、これで
久し振りの
しかし、そんな事で
儂の刃は鞘から抜いた瞬間に、相手の首を斬り落として居た。
相手の兵法者は、己の首が斬られたことすら気付かずに、死んでいったはずじゃ。
美しい
余りにも美しゅうて、己の始末に射精するところで遭ったわ。
久し振りに、今夜は良く眠れそうじゃ。
翌日、儂はまた江戸の町を練り歩いた。
昨日久し振りに始末を付け、如何やら抑えが効かなく成ったようじゃ。
今日も始末を付けたくて、たまらない。
まるで
それの効き目が切れると、欲しくて、欲しくて、たまらなくなるそうじゃ。
今の儂の
儂の愛刀も、昨日少し血を吸うたせいか、
獲物を見付け、一刻も早く始末を付けたいのじゃ。
昨日と同じような、強そうな男が良い。
身体が強そうなだけで、本当に強いのは駄目じゃ。
いくら儂でも、始末が美しゅう無くなるからじゃ。
一瞬で始末する、それが儂の作品じゃ。
出来るだけ一太刀で終わらせたい。
受け太刀など、もっての外である。
実際にここ何年も受け太刀はして居らぬ。
受け太刀する事に、
おお、そう言ぅて居る間に、良さそうな兵法者が歩いて来るわ。
江戸の町を徘徊するのも、もう十日目。
儂の事が、そろそろ
さすれば獲物たちも、
それは困るのう。
久し振りの始末に、ちと
次郎衛門の処の
それはそうじゃろぅ、次郎衛門の
儂は
中々賑わって居る、
如何やら少しの得を拾うた様じゃ。
ん、
もしかして皆、宮本武蔵の事を噂して居るのだろうか。
宮本武蔵の名は儂も聴いた事がある。
二刀流を使うとか言う、
ほぅ、その武蔵が今、江戸に居るのか。
強い兵法者は
しかし儂は
京の
それに、二刀の剣を
どれ一つ取っても
二刀を使うなど、儂が極めた剣の
武蔵が本物かどうかを、
もし
久し振りに血が
いや、
儂は武蔵の首が欲しいのじゃ。
儂の
儂は、隣の卓で武蔵の
そして、武蔵の
儂の
ほう、
二日程前に、
たったの二日の差で、武蔵を逃がしてしまったのじゃ。
おのれ逃がしたか。
儂は己の
二日の差であれば、今から急ぎ追いかけて行けば、
武蔵の身体の
奴は
武蔵は儂が
儂に狙う者の
落ち着き考えて行くと、儂の方に利が多い事が解って来た。
おおっ、どうしたのじゃ。
儂の
おおお、そうか、そうか、せがんで居るのか。
お前も武蔵の血を早く
解って居る、解って居るから、もう少しの
儂は
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