第17話 兵庫助の教え
あれ以来おじじ様の夢を観なくなった。
やはり、おじじ様が知らせてくれて居たのだと兵庫助は思った。
それにしても、しんどい敵であった。
あのようにして、身体を斬りきざんだのは初めてで、気持ちの良いものでは無かった、
ましてや、姿形は美しい女人であった。
武蔵も自分も、その時は
武蔵と二人で
我が兵法に
あの時以来自分の中で、何かが変わった様な気がする。
小坂部級の鬼が、この世の
しばらく剣のことは忘れて居たい。
この旅もそろそろ終わりが近づいている。
兵庫助はそれを
あと数か所、
「八郎よ、次は何処を巡ろうか、良い所はないか」
兵庫助は、忍びの八郎に声をかけた。
この八郎は、
兵庫助が質問しても、いつも
「そうですねぇ、
八郎からの返答は、いつも兵庫助の心を
「ほう、宮島か。 うん、行って見たい」
海に立つと言う
「よし、次は宮島に向かうとしよう、
そうと決まれば、明日には出立する事にしよう。
ここにはもう用は無い、あの一件以来、小坂部の悪い気が、自分にまとわりついて居る様な気がするのだ。
「
「
そう言って八郎は兵庫助の前から
こ奴は行動も
厳島神社は
今は夏の終わりなので、着く頃には丁度秋だろう、
丁度良いことばかりが
そんな事を考えて居ると、八郎が姿を現した。
「早いの、もう皆に伝えて来たのか」
「いえ、そうじゃありません。 若様に客人が訪ねて参っております」
「
「勘四郎殿に御座います、会われますか」
「会おう、連れてまいれ」
久々と言ってもまだ三日ほどしか経って居ないが、なぜか
八郎に連れられ勘四郎が入って来た。
八郎は皆に伝えて来ると言って、部屋を退出して行ったので、勘四郎と二人きりになった。
「お久し振りに御座います、兵庫助様」
勘四郎が両手をついて
「おう、勘四郎も
最後に会ってから、まだ三日しか経って居ないのに、その様な
「昨日武蔵様が、旅立たれました」
勘四郎が寂しそうに言った。
「そうか、宮本殿も姫路を離れたか」
兵庫助の言葉に勘四郎が見つめて来た。
「いや、拙者達も明日、この姫路を立とうと思うて居る」
「えっ、そうなのですか」
勘四郎が寂しそうな顔になった。
「安芸の国にある宮島の厳島神社へ参拝しようと思って居っての、今からの季節の景色だとそれは美しかろう、そうじゃ勘四郎、そちも付いて来るか、どうじゃ」
勘四郎は一瞬嬉しそうな顔をした、だが直に元の顔に戻った。
「お
「どうして、
「いえ、そう言う事ではないのです。 武蔵様から、志しのままに生きよ、と申されました。 それで自分の志しについて考えてみたのです。 自分は今、武者修行の身であります。 いずれ、武蔵様や兵庫助様の様な天下に名が
兵庫助はしばらく勘四郎を見つめた。
「そうか、それは
兵庫助はそんな勘四郎を見て、若き頃の自分を思い出して居た。
自分にも、そう
「そちの国は
国を
「そうか、尾張であるか」
勘四郎はまだ不思議そうな顔をしている。
「これも何かの
兵庫助は少し考えて聴いた。
「そちの父は尾張藩士か」
「はい、父も兄達も皆尾張藩士です、俺も、いや、私も
「いよいよ縁を感じるのう」
勘四郎は意味が解らないと言う顔をして、兵庫助の次の言葉を待っている。
「それならば勘四郎、そちとはまた会える」
「えっ」
「拙者は此度の旅が終われば、尾張藩の剣術指南役として、尾張徳川家より
「そ、そうなのですか」
勘四郎もその不思議な縁を感じた。
「尾張にも、そちの様な夢ある志しを
兵庫助は、
「私も兵庫助様に
いかにも勘四郎がお
「いずれは
「はい」
勘四郎が居住いを正した。
「拙者が観るに、勘四郎は
勘四郎が唸った。
「あの闘いの最中に、その様なことまで観られて居られたのですか、
「世辞を言うでない、しかしこの先の武者修行で死なれては困るからのう、一応伝えて置いたまでよ」
その後も兵庫助は、二、三、技術面の
勘四郎は熱心に聴いて居た。
「それからもう一つ、大事なことがあるゆえしっかりと聴くのじゃ」
勘四郎がまた、
「解って居るとは思うが、あの時、拙者も宮本殿も不細工な戦いをしてしもうた。 これは
兵庫助はにやりと笑った、すると勘四郎もにやりと笑い返して来た。
「解って居ります兵庫助様、私は自分の闘いで必死でしたから、他のことは何一つ観ては居らぬのです」
「本当か」
「本当です、観ていたとしても、それは
そう言って勘四郎はまたにやりと笑った。
観て居ったのではないか。
「それでは勘四郎よ、尾張でまた逢おう」
「ご
勘四郎が深々と頭を下げ
勘四郎が退室するのを
「兵庫様、皆に伝えて参りました、皆明日の
「そうか、ご苦労であった」
八郎も静かに退出して行った。
八郎のこう言う所が気に入って居る。
兵庫助は眼を閉じ、今度向かう厳島神社の
姫路城でのあの件は、もう忘れていた。
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