第32話 マジでこの人 怖いんですけど!
32 マジでこの人 怖いんですけど!
やがて――カナデ達が居る山小屋にも轟音が届く。
一体何事だと、ウルカ・メーゼは焦燥する。
カナデは、ただ事実を語るだけだ。
「どうやら、決着がついた様です。
あなたのお仲間は、元民兵達に倒されました。
この音は、それを知らせる合図です」
「……な、に?」
意味が分からなくて、ウルカは息を呑む。
この娘は一体どういうレベルのホラを吹いていると思いながらも、彼はたじろいだ。
「では用も済んだ事だし、そろそろ私は失礼させて頂きますね。
……と、一つだけ言わせて下さい」
立ち上がる、カナデ。
その様を呆然と見つめながら、ウルカは彼女の話を聴く。
「先程の、話の続きです。
あなた方はお金を有効利用していると、仰った。
では、命の有効利用は誰がするのでしょう?
そんな事は、子供でも分かりますよね。
それは勿論、己自身。
その命を使う者次第で、命の価値は決まるのです。
ですが、あなた方はその価値を自ら貶め、遂には活かす事がなかった。
その事に気付かなかった時点で、あなた方の運命は決まっていたのです。
自らの悪を正当化し、悔いる事を放棄するというのは、そういう事だと私は思います」
「……な、何を言っていやがる!
そんな物は、屁理屈だ!
いや、それ以下の暴論だろう!
お、おまえ、俺達より言っている事が酷いぞ!」
狼狽えるウルカに、カナデはやはり微笑みかける。
「そうですよ。
他人の暴論暴挙をより濃厚な暴論暴挙で塗り潰すのが、カナデ・プラームだとご理解下さい」
「は……っ?」
これこそが、カナデの裏の顔だ。
いや、カナデには裏も表もない。
裏の顔が表の顔に通じていて、表の顔も裏の顔に通じている。
城に住んでいた頃は、そういう側面を見せる必要がなかっただけ。
仮に必要に迫られたならカナデは普通にそういった暗黒面も、披露していただろう。
ファイナ達の前でも、極自然に今の様な辛辣な真似をしていたに違いない。
要するにカナデ・プラームとは、平気で善を成す為に悪を成す一種の怪物なのだ。
いや、誰もその事に気付かない点が、カナデの最も恐ろしい部分だと言えた。
現に元騎士達も、最期までカナデの本質を看破する事はなかった。
彼等はカナデを只の愚か者だと決めつけた時点で――敗北していたのだ。
今、遂にその事を悟ったウルカ・メーゼはもう一度愕然とする。
ならば、彼がするべき事は決まっていた。
彼はカナデだけでもこの場で始末する事が、己の責任だとさえ感じる。
「そう、だ。
きさまだけは何としても、殺しておく!
この世に、きさまの様な悪魔は必要ない!
きさまの様な化物は――この世に居てはいけないなのだ!」
剣を鞘から抜く、ウルカ。
それを見て、カナデはキョトンとした。
「と、前言撤回します。
最後にもう一つだけ。
軍隊とは、国を守る為の物です。
では、民衆は誰が守ってくれる?
やっぱり答えは、簡単ですよね?
結局私達は――自己責任でこの身を自衛するしかない」
カナデにとって有利だったのは、元騎士達が鎧を売り払っていた点にある。
言うまでもなく、騎士の鎧は各国によって形が違う。
つまり人によっては、鎧を見ただけでどこの国の騎士か分かってしまうのだ。
元騎士達の場合その時点で〝○○の国の騎士が山賊をやっている〟と噂になるだろう。
そうなれば、その騎士の母国は恥をかく事になる。
山賊を生み出した国家と言う烙印をおされ、立場を失うのだ。
よって、その恥辱を晴らす為に、その国は山賊を行っている騎士達の抹殺を誓う。
国の恥部を殲滅する為に、討伐部隊さえ組織される事もあるだろう。
そう言った事態を避ける為に、元騎士達は真っ先に己等の鎧を売り払った。
彼等は軽装で、鎧も皮の物しか身につけていない。それが、勝負の決め手となる。
カナデはそんなウルカに対し、一歩だけ踏み出す。
カナデが何かをしただけで、ウルカの手首からは大量の血液が噴き出ていた。
「――ぎっ? がああああああああああああ~~~っ?」
「大丈夫。
直ぐに手当てをすれば、助かる傷です。
では、ごきげんよう。
私としてはこれに懲りて、もうあなたが悪さをしない事を願うばかりです」
やはり笑顔を崩さないカナデは、今度こそこの場から去る。
恐慌状態にあるウルカ・メーゼは、そんなカナデを見送る事さえ出来ない。
今も死の恐怖を味わっているウルカは――ただ今日という日を呪ったのだ。
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