2.一見さん(いちげんさん)

 ======= この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 島代子(しまたいこ)・・・有限会社芸者ネットワーク代表。元芸者。元プログラマー。小雪の先輩らしいが、小雪以外には、本名は知られていない。芸者の時の芸名は『小豆』。また、本部の住所も極秘である。

 飽くまでも、私的組織だが、警察にはチエを通じて協力している。可能なのは、情報提供だけである。

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。

 烏丸まりこ・・・芸者ネットワークの事務員。


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 ※京都には、京都伝統伎芸振興財団(通称『おおきに財団』)と京都花街組合連合会という組織が円山公園の近くにある。両者は、芸者さん舞妓さんの『芸術振興』の為にある。オフィシャルサイトも存在する。

 現在、京都花街組合連合会に加盟している花街として、祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東の5つの花街があり、総称して五花街と呼んでいる。 鴨川の東側、四条通の南側から五条通までの花街。

 ※この物語に登場する『芸者ネットワーク』とは、架空の組織であり、外国人観光客急増に伴って犯罪が増加、自衛の為に立ち上げた、情報組織である。

 リーダーは、『代表』と呼ばれる、芸者経験のある、元プログラマーの通称島代子(しまたいこ)である。本部の場所は、小雪しか知らないが、『中継所』と呼ばれる拠点が数十カ所あり、商店や寺社と常に情報交換している。

 ※芸者の芸名は、幾つかパターンがある。

 1.普通の名前。「〇〇子」「〇〇美」など。

 2.「〇太郎」「〇助」など男名前。

 3.置屋のお母さん(主人)の名前から一文字使う。

 4.置屋で共通の文字を使う。

 神代チエが、幼なじみの小雪(実は本名芸名とも同じ)から聞いた所によると、4番目のパターンだそうで、島代子は芸者時代には、小豆という芸名だった。


 午後1時。芸者ネットワーク本部。

「ねえさん、はい。宅配。ほんまに頭ええなあ、ねえさんは。」

 代子は、事故で、芸者を捨てたのだ。

 その「ご無体な」外国人によって、芸者姿の代子は、お座敷に向かう途中でレイプされそうになり、階段から転げ落ちた。

 芸者の衣装は、見た目よりかなり重い。それが仇となった。

 代子は、芸者を捨てざるを得なくなったのだ。

 退院後、代子はコンピュータの電門学校に通い、資格も取った。

 一時期、旦那衆の紹介でソフトハウスにも入社した。

 独立して、ITの会社を立ち上げる代わりに、芸者ネットワークを立ち上げた。ホームページを開いて、後輩達の役に立ちたいと思っていたからだ。

 ところが、小雪から聞いた話では、自分の時のように。外国人犯罪が増えていることを聞いた。小雪から紹介された神代チエは『もっと情報があれば未然に防ぐことも不可能ではない』と言った。

 そこで、ありきたりのホームページ運営を止め、『犯罪情報提供社』を立ち上げた。

 それが、『芸者ネットワーク』である。

 一緒に始めた元プログラマーが、寿退社してしまったから、困ったことになった。

 最初は、自炊していたが、即席ものくらいしか出来ない。

 5分も立っていると辛くなり、杖をつきながら、という訳にもいかない。

 見かねた小雪は、何人かの芸者や舞妓に協力を申し出たが、案外時間の融通が効かない。『一見さんお断り』が常識だが、誰かからの紹介となると『お座敷のドタキャン』など出来ないのだ。

 一見さん(いちげんさん)とは、初めてその店に来店した客のことで、得意客ではなく、店の関係者の誰とも面識を持たない客や得意客の紹介を持たない客などを指すが、実質上は、得意客からの紹介の『会員制』なのだ。ドレスコードとまでは行かなくとも、客もそれなりの身なりがマナーとされている。

 そこで、小雪が事務員を雇い、普通とは違う作業をさせればいい、と言い出した。

 最初は、アーバンイーツのような出前にしようかと思ったが、『中継所』に宅配食を運んで貰い、それを事務員が運ぶのである。

 会社を秘密裏で運営したい代子は、その案を受け入れることになった。

 事務員の烏丸は、旦那衆の一人が紹介してくれた女性だった。

 パートタイムだが、雑用を上手くこなしてくれている。

 電話がなった。出てみると、その旦那だった。

「烏丸君。役に立っているかね?」「そりゃもう、大助かりです。」

「そりゃあ良かった。寿退社したのに離婚してしまってね、泣きついて来たが、体裁悪いしねえ。ところで、宮川町の方で、お座敷に勝手に入って来た外国人が、お客の連れでもないのに、『芸者遊び』させろ、と喚いているらしい。置屋の女将が110番したくないし、と言ってきてね。確か、小豆は警察に知り合いがいるんだよね。」

「了解しました。任せておいて下さい。」

 代子は、固定電話を持つ手と逆の手で、器用にスマホを操作していた。

 固定電話を切ると同時に、チエが出た。

 手短に事情を話すと、「了解。」とだけ言い、チエは電話を切った。

 後は、待つだけだ。

 府警本部は、正式には認めていない。飽くまで「タレコミ屋」の情報確認に向かう、体裁で動いている。

 実際は、神代チエ、いや、戸部チエが電光石火の早さで逮捕しに行き連行・取り調べをしている。

 結果は、おっつけ、小雪から連絡が入るだろう。

 代子は、書類を作る作業を止め、チャットを始めた。


 ―完―


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