自作のハーレムラブコメラノベ世界に転生したら、三番目のお色気担当負けヒロインが保健室で主人公を逆レイプしようとしていた
佐々木鏡石@角川スニーカー文庫より発売中
第1話夢の終わり
「マジかよ……最終選考で落選かよ……!」
夢が終わる瞬間は、実に呆気なかった。
俺が座る机の上、年季ものPCの画面には『第◯回 角川スニーカー大賞 最終選考結果のお知らせ』という文字があり。
なおかつ、その中には俺の名前と、最終選考まで進んだ俺の小説『シュレディンガーのラブコメ』のタイトルは――記載されていなかった。
俺は頭を抱えて机に突っ伏した。
「畜生……! 今回はイケると思ったのに……! ダメだったのかよ……!」
俺の夢は、二十九歳の夏、そうして終わりを迎えた。
初の就職で激務故に身体を壊し、二十六歳で会社を辞めた俺は、再就職を心配する両親を口説き落とし、三年間という時間をもらった。
バイトをこなしつつ、同時に俺は子供の頃からの夢だったライトノベル作家になる夢を叶えるべく、こんにちまで必死に努力してきた。
多くはないバイト代をやりくりして新作ラノベを買い漁り読み漁り、ヒット作を研究して、ネットでは複数作品を毎日更新しつつ、公募にも挑戦して。
その結果、ようやく掴んだ栄光への糸口――俺渾身のハーレムラブコメディ『シュレディンガーのラブコメ』が、とある高名なライトノベル小説賞の最終選考に残る快挙を達成したのが、約一ヶ月前のことだった。
だが――その夢は、今、呆気なく終わりを迎えた。
俺の作品は、価値ある作品として認められず、受賞を逃したのだ。
はぁ、とため息をつき、俺は顔を上げた。
「また、選ばれなかったのか……」
口から出るのは、落胆の言葉ばかり。
時間の猶予的にも、今回が最後の挑戦となることはわかっていた。
だから、工夫した。努力もした。
自分の持てる小説技術の全てを注ぎ込んで、ラブコメを書いた。
それが俺の自信作――『シュレディンガーのラブコメ』であり、今回ばかりは奇跡が起こることを期待していた。
けれど――その奇跡は、最終選考に残った時点で終わってしまっていたようだ。
また、俺は選ばれなかった。
俺の作品が力不足だったのか。
それとも俺の作品より面白い作品が受賞作品として選ばれたのか、それはわからない。
だが――俺の作品が世に出る機会が失われたことは確かなことで。
俺はがっくりと項垂れる他なかった。
「なぁお前ら、ダメだったよ。すまないな……」
俺は机の上にあった大学ノートを手に取り、パラパラとめくった。
これは俺が今作『シュレディンガーのラブコメ』を執筆するに当たり、プロットや各キャラクターの設定などを書き込んだ創作ノートだ。
この大学ノートをほぼ一冊使い、端折るべきところは端折り、作るべきところは作り込んで、限界まで磨き上げたはずだった。
パラパラとページをめくっていると、あるページに目が止まった。
そこにびっしりと書き込まれた文字を見て、ハァ、と俺は何度目かわからないため息をついた。
「すまんクロエ。お前がこの結果聞いたら怒るだろうな……」
そこに書かれていたのは、拙作『シュレディンガーのラブコメ』に登場する三番手ヒロインである「
俺の作品――『シュレディンガーのラブコメ』は、よくある冴えない主人公があるきっかけを期に美少女たちと仲良くなり、その美少女たちが主人公を巡ってヒロインレースを繰り広げるという王道な内容だ。
それに登場する三番手ヒロイン――三津島クロエは、個人的にかなり情熱とフェチを込めて作り込んだキャラクターだ。
現役の女子高生グラビアアイドルとして、校内外にその美貌と抜群のプロポーションを轟かせる三津島クロエは、主人公とひょんなことから知り合い、芸能人としてではなく、個人としてクラスメイトとして、ごく普通に接してくれる主人公に興味を持ち、アプローチを始める。
だがその美貌やプロポーションを武器に言い寄っても、ヘタレで純情な主人公はクロエになびいてくれず、それ故にますます色仕掛けの過激さをエスカレートさせていくという、作中で一番ぶっ飛んだヒロインだ。
快活で、華やかで、タフで、そしてなによりも、努力家で。
三津島クロエは他の三人のヒロインの中でも、最も強いアクと輝きとを持つ「負けヒロイン」である。
そう、最終的に彼女は主人公に選ばれない。
主人公は正ヒロインであるヒロインと結ばれ、三津島クロエは落胆しながらも、主人公と正ヒロインの新たなる門出を祝福する――それが『シュレディンガーのラブコメ』の結末だ。
この作品がこんな情けないことになったと知ったら、一番怒るのは三津島クロエだろうという、作者にしかわからない確信があった。
情けないなぁ、と、憤然とした表情で作者である俺を叱り、次はもっと頑張ってよね、と偉そうに説教してくる、三津島クロエとはそういうキャラクターなのだ。
飽きるまで呆然としてしまってから――ハァ、と野太くため息を吐いた。
仕方ない、自分の実力不足だったのだ。
明日からは小説を書くのではなく、代わりに履歴書を書くことになる。
そして再びどこかの会社に就職し、スーツを着て、嫌いな上司にヘイコラし、客に怒鳴られて、くたくたになって会社と家を往復するだけのつまらない一生を送る。
ライトノベル作家などという華々しい世界に飛び込んでゆける資格も実力も、俺という男にはなかったということだ。
なんだか、色々と考え事をしたからか、小腹がすいていた。
下で何か食べるか、と考え、立ち上がった俺の足首が――グキッ、と嫌な音を立てた。
「あう――!?」
痛みと衝撃に思わず悲鳴を上げた俺の身体が、前に倒れた。
倒れた先にあったのは、俺が普段寝起きしているベッドの角で。
俺の額が、思いっきりそこに激突した。
メリッ、という、首に走った嫌な音が、俺の感じた感覚の最後だった。
途端に、一気に視界が暗くなって――俺の意識は闇に飲まれた。
◆
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