第2話 完全に詰んでるじゃないか
「依頼の辞退ですか? キャンセル料をいただく事になりますが宜しいですか?」
「あ、キャンセル量が必要なんですね、やっぱりもう少し頑張ってみます」
「リリネ草はルデライトの南にあるガラナ草原に生えてます。夜でなければ危険なモンスターも滅多に出ないので、頑張ってください」
俺はギルド内をトボトボと歩きながら深くため息を吐いた。
薬草採取くらい簡単だろうと思っていたが、思わぬ障害が立ちはだかってきた。
「まさかルデライトの外に出られないとはな……」
ルデライトとは、この街の名だ。
街の外に出ようとしたら、見えない壁に顔面を強打した。
『巻き込まれ体質』の効果で、外に出れなくなっていたのだ。
外に出れないので薬草を採取することが出来ない。
無一文なのでキャンセル料が払えない。
期限が切れたら違約金を払わなくてはいけないのだが、それももちろん払えない。
薬草採取の依頼をなんとかしなければ、新しい依頼を受けることも出来ない。
完全に詰んでるじゃないか。
俺はもう一度、深くため息を吐いた。
やれやれ、これからどうしようか。
素直に今まであったことを話してみるか?
いやダメだ、信用してもらえる気がしない。
そもそも信用されたとしても、俺の特殊能力を知ったらパニックになるに決まっている。
災害が発生する場所に転移するという事は、災害が起こることを知らせる疫病神のようなもの。
それに、悪い計画を企んでいる奴らからしたら、それを察知できる俺は間違いなく邪魔な存在だ。
そいつらに消される可能性は十二分にある。
仕方がない、なんとか嘘をついて誤魔化そう。
「すみません、さっき受けた依頼なのですが、急用が入ってしまったのでキャンセルしたいのですが……」
「分かりました、それではキャンセル料の方を……」
「それなんですけど、実は今持ち合わせがなくて……」
「ではギルドの方で立て替えておきますね、一ヶ月以内に必ず支払ってください。支払われなかった場合、冒険者資格が剥奪されてしまうので、お気をつけ下さい」
受付嬢の対応がスムーズなのを見るに、ギルド側が立て替える事例は珍しくないのだろう。
金が払えない奴は奴隷落ちですとか言われないかヒヤヒヤしていたので一安心だ。
違う依頼を受けたいが、急用を理由に断った手前、今新しい依頼を受けたら不自然だ。
あの依頼の期限は今日まで。
今日は何処か外で適当に寝るとしよう。
アレフの家でたらふく食べたから空腹の方も大丈夫そうだ。
ならば今やるべき事はこれから発生する大災害への対策だな。
まずはこの世界について詳しくならなくては。
少し気になる事も出来たし。
この世界の習俗も、魔法に関しても、詳しいことは何も知らない。
まずは図書館に行くとしよう。
◆
受付嬢にもらった地図を頼りに、俺は図書館へ向かっていた。
ゆっくりと歩きながら、周りの景色を眺める。
中世ヨーロッパを連想させる古風な街並み。
「俺って本当に異世界に来たんだなぁ」
これで厄介な呪いさえなければ素直に感動に浸れるんだけどなぁ。
図書館に着いた俺は、とりあえずさっき気になったことを調べることにした。
【職業:冒険者について】という本を見つけ手に取ると、俺はその場で読み始める。
「冒険者カードについて。冒険者カードとは冒険者ギルドで発行される、自分が冒険者であることを証明するためのカードのこと。冒険者カードには、自分の冒険者ランク、魔力量、そして持っている特殊能力が記されます……。やっぱりか、なんかそんな感じはしてたんだよな……」
俺の冒険者カードにも本来『巻き込まれ体質』の事が書かれるはずだったのだ。
だが、ゼウスから授かった特殊能力だから何か不具合が起きたのだろう。
詳細は分からないがそんな気がする。
俺はそんなことを考えながら、目についた【特殊能力について】という本を開いた。
「特殊能力を持つ人間はごく稀に存在する。危険察知や透視など、種類は十人十色。便利な能力のみではなく、死に関わる能力だったり、周りに影響が出てしまう能力なども存在する。便利な能力を持つ人間が攫われるケースは多く、近年問題となっている……」
……決して便利な能力ではないけどいうのは絶対にやめておこう。
……透視の能力が欲しかったな。
その後も図書館をゆっくりと歩きながら何か情報収集に向いている本は無いかと探していると、【はじめてのまほう】というタイトルの分厚い本が目に入った。
タイトルからして絶対初心者向けの本だと確信した俺は、その本をとって読書エリアへと向かった。
◆
〈魔法はイメージが重要、最初はイメージを口に出して言ってみよう!
例:火の玉が目標に向かって真っすぐ飛ぶ!
慣れてきたら短縮化、キーワード化しよう!
例:ファイヤーボール
それも出来るようになったら無詠唱を目指そう!〉
長ったらしい詠唱が必要なのかと思っていたが、思ったよりも簡単そうで良かった。
イメージか。
そもそも地球で魔法は空想上の存在だったからな。
色々な魔法を妄想し憧れていたものだ。
だから魔法をイメージすることに関しては自信がある。
さて、次のページは……。
〈魔力量は、成長や魔力の使用によって徐々に増えていく。魔力量の上り幅は完全に才能に左右される。五歳児の平均魔力量は500〉
……そういえばギルドにいた男が魔力量26は赤ん坊レベルって言っていたな。
俺は自分の冒険者カードをポケットから取り出す。
目を擦っても、見る角度を変えても、26という数字は変わらない。
いや、もしかしたらこの数値も不具合によって間違って記入されたのかもしれない。
ただでさえ呪いを抱えているのに、その上魔力量もゴミだなんてそんなのあんまりじゃないか。
これ以上何も考えたくなくなった俺は、机に突っ伏した。
そういえば異世界に来てから全く寝てなかったな。
ここは静かでよく眠れそうだ……。
いや、ダメだ……。
寝ている暇などない。
少しでも異世界について調べなくては……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます