第4話 マップ作りはSRPGの醍醐味

 私は「マップ作りはSRPGの醍醐味」だと思っている。これは人によって大きく違うと思う。だが強く主張したい。

 マップ作りはSRPGの醍醐味だ。


 私はSRPGを作るときに、マップが一番作りがいがあると感じている。だいたいいつもSRPGを作るときは、十五から二十ステージぐらい戦場を作る。そうなると似たステージにならないように、それぞれにテーマを設ける。

 チュートリアルだったり、挟撃だったり、追撃戦だったり、逃亡戦だったり、攻城戦だったり、会戦だったり、迂回だったり、伏兵だったり、いろいろなテーマの戦場を用意する。そして、そうしたテーマを実現するためにマップを作ったり、マップに付随するシステムを作ったりする。


 最初にiモードで作ったSRPGでは、「雇用」と「軍資金」という仕掛けを入れた。主要ユニットは拠点で、雇用コマンドを使うことで各種の一般兵を雇用することができる。また、マップには軍資金が入るマスが何箇所かある。そのためにプレイヤーは、自分で戦略を立てることができる。先に敵の主力に突っこむのがよいのか、軍資金マスを守る敵を先に倒しに行くのか、選択の楽しさと、その結果の喜びが得られるようにした。

 この場合は「軍資金マス」というマップ上の工夫をすることで、ゲームとしての遊び方の幅を広げたわけだ。こうした要素を入れた理由は、私がSRPGだけでなく、「ファミコンウォーズ」や「大戦略」といったウォーシミュレーションゲームも好きだったことが理由にある。


 このiモードのSRPGはシリーズで何作か作った。そしてシリーズの各回で、新しい要素を追加した。たとえば海をテーマにした回では、水上移動ができるユニットを登場させた。そして、船上の戦いや海辺の戦い、島嶼部での戦いなどを演出した。

 天空をテーマにした回では、天空のマップにして飛行ユニットを出した。また、土木をテーマにした回では、橋などを作れるようにした。正面から敵と対峙するのではなく、道を作ることで搦め手から攻められるようにしたわけだ。


 iモード時代以降に作ったJavaScript製のSRPGにも、いろいろと仕掛けを入れている。攻城戦の城の硬さを演出したくて、扉ユニットというのを用意した。進行を妨害する、動かない硬いだけのユニットだ。こうしたユニットを配置することで、城攻めの大変さを演出した。

 JavaScript製のSRPGは、シリーズで3つ作ったあと最後に大きく違うものを作った。最終作は、かなり攻めた作品だった。マップを大陸ごと自動生成して、主人公が移動して敵軍とエンカウントすると戦争が始まるというものだ。移動のマップと戦場のマップは同比率で、敵の姿も見えている。どの方面から接敵するかで攻略の仕方が変わるというものだ。

 このSRPGでは、大陸を平定すると次の世界に転生して、徐々に大陸が大きくなっていく。転生するたびに、仲間は大陸中に散らばるので、集め直さないといけない。念頭には、マイケル・ムアコックの「エルリック・サーガ」をはじめとしたシリーズがあった。ジャンルはおそらくローグライクSRPGになるのだろう。

 SRPGのマップは、単純にデータを用意するだけでなく、こうした自動生成のアルゴリズムでも表現することができるわけだ。


 数年前に作ったUnity製のSRPGも、こだわりをもってマップを作った。この時に導入したのは主に二つだ。高速移動できる「抜け道」と、攻撃力や防御力や射程が上がる各種の「強化マス」だ。

 まずは抜け道から語ろう。本物の戦争では、軍隊を上手く移動させて敵の背後から攻撃したりする。しかしこれはSRPGでは表現が難しい。SRPGには多くの場合、ユニットに移動力が設定されていて順番に移動する。そうなると敵の背後に回るために、何ターンもかけてユニットを動かし続けるのは苦痛になる。

 ゲームは気持ちよくなければならない。現実的には正しい内容でも、それが快感に繋がらないなら、違う表現を導入する必要がある。

 そこで、通常の「道路」よりも、さらに高速に移動できる「抜け道」というマスを作った。正面から戦闘するか、抜け道で背後に回り込むかを選べるようにした。もちろん正面と背後で挟撃してもよい。

 そうした選択が可能なように、通常の移動回数とほぼ同じぐらいで、抜け道で移動できるようにした。ストレスを可能な限り下げて、プレイヤーに作戦を立てさせ、それが決まった時の快感を発生させるようにしたわけだ。


 もう一つの強化マスは、戦場の要所を視覚的に表現したいと思ったのが切っ掛けだ。戦場を見たときに有利な場所というのは、おのずとあるのだが、SRPGに慣れていない人は、それを発見するのが難しい。そうした場所に「射程強化」のアイコンだったり、「防御力強化」のアイコンだったりを置くようにする。そうすることで、有利な場所に陣取って敵を殲滅する快感や、寡兵で敵をしのぐ充実感を与えるようにした。

 視覚的に分かりやすくしたのには理由がある。昔、iモード時代にSRPGを作っていた頃、取引先から「クリアーできないので難易度を下げてほしい」と言われたことがあるからだ。

 広場に宝箱があり、その周りに森があり、そこに弓兵がずらりと並んでいるステージだった。弓兵の背後に回り込む間道を用意していたのだが、担当者は毎回宝箱に直進して全滅させられていた。

 戦場を見て、攻略の作戦を立て、その作戦を実行する……という遊び方は、どうやらそうしたジャンルに慣れている人だけのものかもしれない。なので、選んで欲しい作戦が、マップを見たときに初心者でも視覚的に分かる方がよいかもと考えたのが、強化マスを設置した動機の一つだった。


 また、このSRPGでは、いくつかのステージをアルゴリズムで生成するようにした。経験値稼ぎで何度もチャレンジできるステージだ。

 初心者救済のためのSRPGの経験値稼ぎは、ちょっと面倒な部分でもある。同じステージで、何度も湧いてくる敵を交代で倒したりするのは、あまり好ましいとも思えない。できれば、それ自体が面白いものであってほしい。やらなくてもよいけど、もしやるなら、新鮮さがあった方がよいと思った。せめて毎回違うステージであって欲しいと考えた。

 メインではない、サブのステージで、自動生成機能を組み込んだ。初期パラメータを設定することで、ステージの方向性をある程度決め、マップと敵軍配置と自軍配置を自動でおこなうようにした。SRPGのマップは、こうしたやり方でも作ることができる。


 SRPGのゲーム性は、マップをどのようにするか企画することで、かなりの部分が実現できる。SRPGというと、群像劇的なキャラクターに注目が集まりやすいが、実はゲームとしてマップのルールをどのようにするかで、かなり面白さをコントロールできる。そしてマップに関わるプログラムは、一度書くと全てのステージに反映されて、面白さを隅々まで行き渡らせることができる。


 このように、SRPGはマップに趣向を凝らすことで、プレイヤーをおもてなしできるのだが、工夫すれば工夫するほど、ゲーム開発ツールとの相性が悪くなっていくことがある。

 リッチなゲーム開発ツールにはたいていついている「タイルマップ機能」が、そのまま使えなくなったりする。こうした機能は、開発ツールの画面を見ながら、タイルを手動で並べることを想定している。しかし、企画内容によっては、手動で配置する以外の手段が必要になる。また、1マスからはみ出すように描画したいこともあるだろう。

 いずれにしても、開発者の「こういう遊び方がしたい」というわがままが強くなればなるほど、既存の機能はそのまま使えなくなっていく。


 今日は、実験で書いていたGodotのプログラムを整理していた。特にマップ周りを整理して、再利用可能な部品にして、プログラムから自動生成できるようにした。

 開発環境の特性を見ながら、やりたい遊び方を効率よく実現するには、どういった機能を使えばよいのかを考えたり調べたりする。開発環境によっては、企画の実現が果てしなく面倒なこともある。そうしたことに思いを馳せながら作業をした。


 マップについては、まだまだ語るべきことが大量にある。今回は、SRPGのマップというのが、それ自体が面白さを秘めたものだということを語ってみた。


おまけ:

いろいろな同人誌や、ゲームを作って公開しています。ぜひ見てください。

最近、ゲームブックも書きました。遊んでください。

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