天使の姫と人間の王女

碧猫

プロローグ 私、人間らしいです


 緑がとても綺麗で、湖は澄んでいて、楽園のような場所。私は、この楽園、もとい天界に住んでいるんだよ。


 私の名前はミュニア。


 産まれて間もない時に、お兄ちゃんに拾われて、今は天族として生きている。私は、本当の家族も種族も、何も知らない。でも、それで良いって思っているんだ。


 だって、私は天族の、お兄ちゃんの妹だから。


「また外で遊んでいたんだ」


「お兄ちゃん。お兄ちゃんも一緒に遊ぼうよ。外は楽しいよ」


「また今度。機会があれば遊んであげる」


 お兄ちゃんは、とても忙しい人。

 昔、天界は王が治めていたんだって。でも、その王は今はいないんだ。ずっと、ずっと、不在のまま。だから、お兄ちゃんは忙しい。


 天族の王の代わりを務めているから。


 天族の王がいれば、お兄ちゃんは、忙しくなくなる。でも、天族の王の話題を出すと、お兄ちゃんは、嫌がるから、どんな人かも分からなくて、探しにも行けない。


 どうして、天族の王はいなくなったんだろう。いつ、戻ってくるんだろう。


 もっと、いろんな事を知るためにも、勉強をしないと。それで、お兄ちゃんを支えるんだ。


 私は、勉強をするために、自室に戻った。


      ***********


 お兄ちゃん、忙しそうだから、勉強も終わったし、お菓子でも持っていってあげよう。そう思って、お兄ちゃんも部屋の前まで来た。


 そうしたら、知らない人の声が聞こえる。今日は、来客があるなんて話をしていなかったのに。


「ミュニアは私の妹だ。血の繋がりが無くとも、それは変わりない。誰にも、それを否定させるつもりはない。妹を、そんな場所へ連れて行けん」


「ですが、姫はまだ子供。本当のご家族に会わせてあげた方が宜しいでしょう。姫には、姉君がいらっしゃります。ご存知でしょうか?」


 私に姉?お兄ちゃんは、私に何を隠しているんだろう。どうして、それを隠しているんだろう。


 盗み聞きは良くない事だけど、このまま何も知らずにいるのは嫌だ。お兄ちゃんには、申し訳ないけど、聞かせてもらう。


「人間の国の王女フィリアナだろう。そのくらいは存じている。だからと言って、天界の外には出せない」


 人間の国……王女フィリアナ……


 会ってみたい。


 私の家族は、お兄ちゃんだけ。それは、これを聞いても変わらない。


 でも、私のお姉ちゃんという人に会ってみたい。どんな人なのか知りたい。


 人間という種族を知りたい。


 どうして、お兄ちゃんは、そんな話を一度もしてくれないんだろう。天界の外には出してくれないんだろう。


 お兄ちゃんは、秘密だらけ。天族の王の事もそうだし、私の事も。


 お兄ちゃんは、私がお姉ちゃんに会いたいって言っても、きっと聞いてくれない。


 だったら、黙って出るしかない!


      ***********


 お菓子を渡しそびれたのは、残念だけど、自室に戻ってきた。


 天界から出るのは、簡単と言うけど、初めてだから少しだけ不安。それに、お兄ちゃんにバレるかもしれない。


 お兄ちゃんにバレて、連れ帰られるという事にならないように、ちゃんと対策をとっておかないと。


 それに、何日も戻らないなら、準備をちゃんとしておかないと。


 まずは、バレないように対策。天界の外へ出ればこっちの勝ち。だから、少しだけバレなければ良いんだ。


 布や服を布団の中に入れて、私が寝ているように見せる。窓から、部屋の中が見えるから。それで、部屋には鍵をかけておく。


 そうすれば、きっと、私は寝ているだけだって思ってくれる。


 次は、準備。冒険に必要なものは、食料と衣類。それがあればきっと大丈夫。


 それと、人間の国へ行くなら、羽根はとっておかないと。

 私は、天族として育ててもらっていたけど、天族じゃないから、天族の羽根は無い。だから、いつもつけていたんだ。

 でも、何かあった時のために、食料と衣類と一緒に袋の中に入れておく。


 決行の時間はいつにしようかな。バレにくい時間帯だと夜が良いのかも。


 決行の時間は夜で決まり。


 準備を済ませて、決行の時間を待つだけ。


      ***********


 決行の時間の夜。とうとう、この時が来た。


 見つからないように、物音を立てないように、静かに行動する。


 鍵をかけてあるか確認。ちゃんとかけてある。


 自室の壁にある隠し通路。そこから、外に行く。隠し通路なら、バレる事が無いって思うから。


 この隠し通路、私がこっそり外で遊びたい時に良く使っていたんだ。これが、こんな時に役に立つなんて思っていなかった。


 天界の外に出るためには、転移ゲートをくぐる必要があるんだ。転移魔法っていう魔法を使うためのゲートだけど、くぐって使う事もできるらしい。一度もやった事がないから、本当に行けるかどうか分からないけど。


 そのゲートは、隠し通路から外に出ると、近いんだ。だから、人に見つかる危険性は低い。そもそも、ゲート付近に人はいないのは、遊びに行く時に確認済み。


 お兄ちゃんには、黙ってこんな事をするのは、申し訳ないとは思う。でも、どうしても見てみたい。会いたい。だから、この転移ゲートで、人間の王国へ行くんだ。


 私は、転移ゲートの中へ入って、人間の王国へ行った。


 初めて天界の外へ行く。初めての冒険。天界の外はどんな景色が広がっているんだろう。


 ワクワクとドキドキと一人という不安。


 そんな私の目の前に広がる景色は

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る