1‐3 影を視る眼
剣が舞い、槍が唸り、怒涛のような歓声があがる。
彼らが扱うのは真剣だ。命賭けだからこその、絶妙な緊張感が漲っている。血が噴きあがるたびに観客たちが熱を
広大な会場だ。砂の敷きつめられた
最上段にあるのが皇族のための特等席である。
ここは皇城の南端にある
赤と青にわかれて、それぞれの
ついに最後の試合だ。
相対する赤い布を腰にさげているのは屈強な大男だ。身のたけはゆうに五尺二寸(約2メートル)を超える。弾けんばかりに膨れあがった胸から腕にかけての筋骨は峰を想わせ、
「俺は赤に賭けるぞ」
「私も赤だ」
「青は殺されるんじゃないのか。あんな靴じゃまともに動けないだろう、可哀想にな」
「どうせ
誰もが大男の勝利に賭けるなか、試合が始まった。
大男が突進する。細身の剣客は観客の予想に反して、風にそよぐ柳のような身の
その隙に剣客は敵の懐にもぐりこむ。彼は鞘から剣を僅かに抜き、剣の
たった一撃だ。
だが、大男は呻って、崩れるように膝をついた。
剣客はそんな大男の耳の裏側を指先で押さえ、組みふせる。大男は必死でもがいていたが、剣客を振りほどくことができずに泡をふいて失神する。
剣客は大男を踏みつけにして、勝利を宣言するかわりに
宮廷の
「宮廷の
「さすがは皇帝陛下お抱えの剣客だ。あんな恐ろしい怪物を、剣も抜かずに倒しちまうたあ」
「皇帝陛下万歳、
観客はいっきに盛りあがる。
歓呼の声を聴きながら、
退屈にも程がある。試合を観るのが三度の飯より好きだという男たちの神経が知れない。野蛮で
「
後ろから声を掛けられ、振りかえる。
「っ」
虎だ。
牙を剥き、喰いかかろうとする虎がそこにいた。
夭は身を
雄々しい
燃えつきた黄昏のような
「
彼は
民を惑わす
「お前が
「執務の一環ですから」
「そうか、この春から皇太子になったのだったな。失念していた。それであれば、今後敬語はいらん」
そこまでいって、
「ああ……こちらのほうが跪いて、殿下に挨拶するべきだったか?」
「どうか、そのようなことは仰らず。公の式典や議会ならばともかく、こうして喋っている時はこれまでと変わらず接してください」
裏がえせば、しかるべき場では次期皇帝として礼をつくせという要求だ。
荒んだ念を映すように
彼の背後で虎が呻る。
出逢い頭に夭が虎と錯覚したのは壽の持つ影であった。
あるものは頭部が大きな口になっていて、異様に長い舌を垂らして牙を剥きだしていた。またあるものはいぼのある毒蛙のかたちをして、壁を這いまわっていた。
邪心あるものは影がゆがむ。
だからといって、この眼が役にたったことはない。
ここは陰謀が渦巻く宮廷だ。
頭をさげ、媚びへつらう官人たちも一様に歪んだ影をひき連れている。誰もが少なからずふた心を持つなかで、誰がいつ、こちらに牙を剥くかなど解ろうはずがなかった。
こんな眼、わずらわしいだけだ。
だから、
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