陰陽とりかえばや奇譚
夢見里 龍
第一部 語らずの宮廷と萬鬼行
1‐1 陰と陽の皇子(みこ)誕生
それは、竜であってはならなかった。
晩夏。天を破るような嵐の晩だった。
吹きつける風が地を揺さぶる。荒れた天候だというのに月は
異様な嵐だ。
雲ひとつない
宮廷の
ここは
荒天のもと、後宮で産声があがった。
皇帝の
だが、産声はひとつではなかった。
重役を果たして、皇后は
水桶や布を抱え、慌ただしくしていた
皇帝は皇后をねぎらってから「して、
皇后の
「皇帝陛下、お産まれになったのは
「愚かなことを」
皇帝は腰懐の忠告を跳ねのけた。
「しかしながら」
「
一段と強い風が吹きつけた。青葉を繁らせた枝が窓を敲き、飾りの施された窓が激しく揺さぶられる。宮の側にある
「時の皇帝は
嵐のなかでも、皇帝の声は搔きけされることなく
つまり、皇帝は神である。
ゆえに皇帝を除き、
「よって根拠のない伝承など畏れるにあたわず。皇帝は神なれば、その御子もまた神となるもの。どちらも
皇后の頬にひとつ、涙がこぼれる。
皇帝は
「名を与えよう。
皇帝になるのは男、これは論ずるまでもない。女が
だが陰陽の
あるいはこの時に
「新たな神の誕生だ」
風がいっそう強くなる。凄絶なまでの風鳴りが宮殿の壁を震わせた。竜の
明滅する窓に視線をやった
真昼ほどに明るくなった天にあるものが舞っていた。
いや、彗星だ。
竜であろうはずが、ない。
遠きむかし、竜は天と地を結ぶ神であると語られた。
いまや皇帝をおいて神はいない。
よって、宮廷を揺さぶるこの嵐が――
◇
嵐の晩に
微かに花の
男物の服を身につけていなければ、
「君、
新人と思しき
「ほお、私を知らないのか?」
「なんだと」
衛官は動揺し、ふたりして顔をあわせる。この
「おお、
ちょうどその場を通りがかった官人が声をかけてきた。
「拝謁でき、幸甚でございます。春に
東宮とは皇太子のことである。
それを聴き、
「ま、まさか、君――いや貴方様は」
「
「無知は罪だ。憶えておけ」
後ろからは
この春、夭は立太子宣明の儀を経て、正式に次期皇帝となった。
父親である皇帝に呼びだされ、
皇帝つきの
宦官とは男根を切除し、
真昼だというのに、皇帝の
「
臥室には天蓋のついた
帳のむこうから低くかすれた声が聴こえてきた。
「きたか、近こう寄れ」
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