ブラッティー・シャングリラ

地獄くん

第1話 血で血を洗う物語

洞窟内。ダンジョン最下層。

放った魔法ががれきにあたる音、剣と剣のつばぜり合い、緊迫した雰囲気がそこで流れていた。


「やるじゃないか。だが、ここまでっ!」

「そうはいくか」


黒いローブを纏った彼女のその一閃を、冒険者の装いをした彼は巧みにかわして足蹴にする。


「無益な殺傷は我は望まない、貴公の手にあるその「コア」が欲しいだけだ」

「断る、どんな理由があろうとこれは渡せない」

「ならば力づくで奪うまで!」


彼女は血の槍の円陣を自分自身の周囲に展開すると、彼めがけて放出する。

しかし、彼は剣でそれらを軽々しくあしらうと、剣を上に掲げて魔力のエンチャントを施す。


「仕方ない、「防衛」のためだ。「エクスカリバー」頼んだぞ」

「その剣がエクスカリバーか、ふん、笑わせてくれる。ちっとも、それらしくないじゃないか」


その剣をあの伝書に記されてある「エクスカリバー」というには、あまりにも弱弱しすぎた。エンチャントも魔力、きっと彼の使い方が悪いのか。


しかし、瞬きをするその合間に、彼は消えていた。


「どこに行ったっ…!?、いつの間に…」


彼女は倒れ、持っていた魔導書は床に落ちた。

そして、彼はそのエクスカリバーと呼ばれる直剣を鞘に納める。

ローブごと彼女を完全に断った、そう思っていたのだが…


「それでは、この魔導書、もらっていくぞ」


そして、魔導書を拾った瞬間に、彼女の目がかっと大きく見開いた。

その顔から除く瞳は赤色で、本来白いはずの眼球は黒色だったのだ。

そして、その手をついた床から血の棘を放つ。


「串刺し」


そしてその黒いローブのフード部分がめくれ、顔が見える。

青い皮膚に明らかにおかしい目の色。


「お前、魔族か…?」

「…その魔導書を返してください」


両者の間に一瞬の沈黙が流れる。

その瞬間、彼女は壁中から血の棘を生やす。彼はそれをよけながら、彼女に対して光魔法を放つ。彼女も回避し大きく跳躍し、彼に魔力の大剣を叩きつける。

衝撃波によって、ダンジョンの壁や天井、床にひびが入る。


通常、ダンジョンというのはある程度の強い敵が出てくるものなので、強度もそれ以上に設計されているはずだが、彼女のその一撃はそれをも凌駕した。


彼女は大剣を彼に振るうも、彼はエクスカリバーを抜刀し、打ち込みに対応するも、彼女の巨大な力を前に、後ろにノックバックしていまう。


その間にも衝撃波は発生し、ダンジョンはだんだんと崩れていく。


「ちっ、くそっ!」


その彼女が片手で打ち込みをしている間に、もう片方の手で彼のポケットを切り裂き、コアが地面に転げ落ちる。魔導書は…彼の背中に服越しに辞書のような形をしたものが存在していることがわかる。


「残念、時間切れだ」


誰かがそうつぶやくと、突然爆ぜる音がし、ダンジョンの天井は完全に崩壊し始め、上から岩石が大量に降ってくる。


彼女はコアを拾うと、彼が持っている魔導書を奪おうとするも、彼はその魔導書をもって、落ちていく岩石に飛び乗りながら、天井へ移動する。


「貴公、待て!」


岩石に飛びのりながら、ひたすら上えと上がっていくも、そこにはすでに彼の姿はもうなかった。魔導書を持ち逃げされたのだ。


「……お終いだ」


コアを魔王様のところに持ち帰ったら、自刃しよう。

魔族としての責任を果たせなかった私が悪いのだから。


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