第20話 サンクチュアリ
俺がルイン村へと転移すると、ちょうど朝日が山から顔をのぞかせていた。
どうやらゲーム世界と日本の時間は同じではないようだ。
当然か。アメリカと日本だって十四時間くらい時差があるらしいし。
さて朝も早いし今日はミーシャさんも来ないかなと思ったら、普段より少し時間が経ってからすごい勢いで走って来た。
「お、おはようございます……!」
ミーシャさんは魔法使いっぽいローブを着ているのだが、はだけて下着っぽいのが少し見えている。
というかもしかして、ローブの下に下着しか着てない……?
……考えないようにしよう。
「おはようございます。む、無理して来なくてもこちらから行きますよ……?」
「だ、大事なお客様ですから! 私が迎えに来ます! たとえなにがあろうと!」
すごい気迫だ。商人としての気概を感じる。
「ところで今日はなんの御用でしょうか?」
「実は結界魔法を覚えたくて。ミーシャさん、もし使えるならお教えいただけませんか? もちろん謝礼は払います」
俺はまだ結界魔法を使えない。
なので練習する必要があるので出来れば見本が欲しいのだ。
やはり見本があればイメージしやすいだろうからな。
「使えます! もちろん使えます! 使えなくても使えてみせます!」
最後のはダメでは? まあたぶん使えるのだろうけど。
マジブレでの結界魔法は低いレベルでも覚えられるし、ミーシャは初期習得していた魔法だからな。
「でしたら私の店に来てください。早速お教えします!」
そうして俺たちはいつものように、魔女の薬屋へと歩いていく。
すると朝日が昇って間もないだろうに、すでに村人たちがクワを担いで、畑に向かって歩いているのが見えた。
そんな彼らと目が合うと、
「おや最近ミーシャと仲のいいお方じゃないですか」
「白い魔法の粉を大量に持っていた人じゃないですか」
砂糖である。繰り返すが砂糖である。
決してヤクの類じゃないから、紛らわしい言い方はやめてほしい。
「こんにちは。私はユウキと申します。行商人でしてミーシャさんに商品を卸させて頂いてます」
流石に大学生だと伝わらないので、行商人だと言っておく。
すると彼らはニコニコ笑いながら。
「外からの行商人が来るのは歓迎です。どんどん来てくださいな。なんならミーシャを通さずに広場で売ってくれても……」
するとミーシャさんが俺と村人の間に割り入って来た。
「ちょ、ちょっと皆さん!?」
「ははは、冗談だよ。流石に大商人のミーシャ様の上客は奪わねえよ。なあ?」
「あのミーシャ様だからなあ。昔はよく泣いてたのに」
「こんなにエロい身体になって……」
「…………魔法撃ってもいいですか?」
「「「冗談だからやめてください」」」
どうやらミーシャさんと村人たちは気の置けない仲のようだ。
そして村人たちと別れた後、俺たちは魔女の薬屋の店前に着いた。
「では結界魔法についてお教えしますね。まず結界を張ることで、悪意や害意を持った者の侵入を防ぐことが出来ます。ただ結界を破れる魔物には無意味です。また魔力を持つ者にしか見えません」
マジブレでは結界魔法を使うと、自分より弱い魔物が一定時間寄り付かなくなる。
たいだい同じような効果っぽいな。
そして魔力を持つ者しか見えないのは好都合だ。日本でも気にせず使えるからな。
「術者が魔法を発動している時のみ、結界は存在し続けます。逆に言うと発動をやめれば消えてしまいます」
「え、そうなんですか? とある場所をずっと結界で守りたいのですが……」
ずっと発動してないとダメとなると、エリカさんの自宅に結界を張り続けられない。
するとミーシャさんは待ってましたと言わんばかりに、懐から刻印の掘られた石を取り出した。
「そんな時に役に立つのがこの結界石! この石を使えば結界の効果を長引かせることができます! 魔力にもよりますが一週間くらいはもちます! 今なら安くしておきますよ!」
わーなんてお買い得なんだろう。これは買うしかないなー。
真面目に必要だから後で買うことにしよう。
「ちなみに結界の広さはどれくらいまで可能ですか? 実は家ひとつを包み込みたいのですが」
「術者の知力によります。でもユウキさんの以前の魔法を考えれば、家ひとつくらいは楽勝ですよ。私もこの店を結界で包んでますし」
失礼な話ではあるのだが、ミーシャさんの知力は俺よりもかなり低い。
それで店を包めるなら俺はその数倍の範囲はいけるだろう。
とりあえず結界石を使えば、エリカさんの家を結界で包むことは出来そうだな。
「ありがとうございます。では続きをお願いします」
「はい! と言っても後は結界魔法の実演と、イメージを教えるくらいですけどね。では失礼して……コホン。光盾よ、四方の護り手となれ! サンクチュアリ!」
ミーシャさんが叫んだと同時に、彼女を囲むように光の膜みたいなものが出現する。
「私はユウキさんを敵と考えながらこの結界を作りました。結界は弾かれる対象にしか見えないのです。なのでユウキさんがこの結界に触ると弾かれます。試しにどうぞ」
俺は言われるままにミーシャさんの結界に手を伸ばした。
するとバチンと結界に当たったかと思うと、
――パリンと結界は割れてしまった。
「……あれ?」
「ゆ、ユウキさんの魔力高すぎますよ!? 触れられるだけで壊れるなんてそんな……」
ミーシャさんは困惑しているようだが、おかげで結界のイメージがついた。
ようはこれ、強化ガラスみたいなものだ。
それならイメージは容易い。ガラスは砂をドロドロに溶かして、冷やし固めて作るものだ。
なら魔素というか光的なモノを、溶かして固める感じにすれば……!
「光盾よ、四方の護り手となれ。サンクチュアリ」
俺は魔力を周囲にまき散らしながら呪文を唱える。
これは我ながら手ごたえアリだ。これまでの魔法が発動した時と同じような感覚。
つまり成功した、と思ったのだが俺の周囲に結界は作られていない。
「……あれ? おかしいな。自信あったんだけど。ミーシャさん、もう一度見本を見せてもらえませんか? ……ミーシャさん?」
ミーシャさんは俺の言葉に答えず、遠くに視線を向けて唖然としていた。
いったいどうしたのだろうか?
「あ、あのユウキさん。空、空を見てください……」
と思っていると、ミーシャさんは空に向けて指を向けた。
空? よくわからないが俺もつられて上を向くと、
超巨大な光のドームの屋根が空に生まれていた。
「ま、待ってください!? あんな大きさの結界、あり得ないですよ!? この村全体を包み込んでますよ!?」
どうやら知力が爆発してしまったらしい。
すると周囲からも叫び声が聞こえて来た。
「な、なんだありゃあ!? 結界か!?」
「どうなってるんだ!? 村全体、いやもっと広く包み込まれてるぞ!? あんな大きな結界、王都でも見たことねえ!」
「か、神じゃ! 神の怒りじゃああああ!」
ヤバイ、思ったより百倍くらい大ごとになってる!?
俺は慌てて結界を消した後、村を歩き回って全員に謝罪することになった。
「す、すみません。結界魔法を練習していたら、思ったより大きくなってしまって……」
「え? ひ、ひとりであの結界を!?」
「ま、魔法の神様だ……」
「ミーシャ! なんというお方と仲良くなったのじゃあ!」
と大騒ぎになってしまったのだった。
と、とりあえず結界魔法は扱えるようになった。初めてなので加減に失敗したけど次は大丈夫だ。
俺が日本に戻るともう夕暮れ時だった。さっそくエリカさんにSNSでいつでも大丈夫だと連絡を送ると。
『も、もしよろしければなのですが。今からではダメでしょうか……?』
『私は大丈夫です』
『ありがとうございます』
と返事が返ってきた。
ただもうすぐ夜になるのだけれど、エリカさんは大丈夫なのだろうか?
少し気になったが俺からは聞きづらい。それにエリカさんの住所も送られてきてしまった。
……よしエリカさんの家に結界を張りに行こう。
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