第35話 和樹 最近うちの母が怪しすぎる〜自宅の庭を魔改造?DIYで母無双
閑話 和樹 最近うちの母が怪しすぎる〜自宅の庭を魔改造?DIYで母無双
最近うちの母が怪しい。
何か隠しているみたいなのだ。いつも家に居るしコミュ障だから浮気の心配は皆無なのだが何かが変だ。
上機嫌で歌いながら料理してるのはいつもの事だし、母はちょっと解離があるみたいで、物忘れが酷かったり、日によって態度や口調が違ったり、時々幼児退行したりする。だから普段から変といえば変なのだが、そういう事ではなく、梅雨の少し前から明らかにおかしい。主に見た目と、能力的な面だ。
夕食が劇的に美味しくなったのもこの頃だ。もともと祖母がプロなんで母も料理は得意らしく、結構何でも作る人だったけれど、まさか美味しいピザを食べたいが為にあんなものまで自作するとは……。
庭にピザ窯をDIY…するか?普通。主婦だぞ?
「なあ、父さん、母さん最近おかしくないか?」
「結婚する前はあんな感じだったよ。何にでも夢中になって没頭する子だったんだ。さすがに窯を作ったのは初めてだけどね。僕は好きな事をしている方がいいと思うよ。」
「まあ、そりゃそうだけどさ。」
「好きにさせてあげよう。その方が落ち込む日が減って良い。」
「まあでも、落ち込んでる時の母さんも否定すんなよ。」
「もちろんさ。お前の癒しだからね。」
「違えよ!!専門書に書いてあったんだ!」
「はっはっはっ!お前は分かりやすいね。はっはっはっ!」
くそ!父まで俺を煽ってくるとか!!
とにかく窯で焼いたピザが美味いのなんのって。燻製器があって、ピザのベーコンすらも自家製だ。いくら凝り性と言ってもそれは凝りすぎだろう。
「このベーコン…」
「おいしい?自信作なの。」
「ああ。美味しいよ。今度お義母さんにも持って行ってあげなさい。きっと喜ぶと思うよ。」
「こっちのカレーのも食べてよ。」
「はは。再現料理なんて珍しいね。融通が利くようになったのは良い事だ。」
「あのお店は無くなっちゃったからまた食べたくって。けどそっか。パクリになるのか。」
「母さん、利益が発生しなければ、権利の侵害にはならないんだ。」
「そうなの?」
母はとにかく自分に落ち度があることを嫌う。融通が利かないから、上手いこと言いくるめて楽に生きさせなくてはいけないんだと父は言う。
母はハーブを庭に育て始めた。お茶の代わりにハーブティーを冷蔵庫に入れてあり、朝晩飲む様になってから、俺も少々無茶をしても疲れなくなった。
ある時、自転車で爆走している母を見かけて、いよいよおかしいんじゃないかと思った。見間違いかと思ったけどあれは確かに母だった。
二度見したよ。
いやママチャリで原付並に早いのはさすがにおかしいぞ?見つかったら職質受けるんじゃない?
そして、日を追う毎に母が若返っていった。最初は気のせいだと思ってたけど、今は目に見えて違う。
そして、あんなに病んでた母がちょっとずつ、浮き沈みが落ち着いてきた様な気がする…。今まではネガティブなことを言うと下手したら土下座してきたり、眉間に皺を寄せて憤怒の顔をして一週間他人行儀とかよくある事だったのだ。それが最近は一瞬落ち込んだりイラつくけど、すぐに切り替えて急にお礼を言ってきたりする。
あのハーブの効果なのは時期的に明らかなんだけど、効き目が劇的すぎて何気に怖い。
どこで買ったんだろうか。自分で調べて手に入れたのか?俺はあれがヤバいものなのではないかとちょっと疑ってる。だけど一体どこで?どんな時も真面目で犯罪とかルールに人一倍厳しいはずの母にそんな怪しい伝手はないはずだ。
例えば親切を装って近付いてくる相手に騙されたとか?訪問販売には出るなと常に言っているが。
なんせ母は警戒心がなく底抜けのお人好しだから内心ちょっと嫌だと思っても「悪意が無いかもだからもうちょっと聞いてみよう」とか言って流されてしまう性格なのだ。というか常に自分の判断を疑っていて人に強く出られないんだ。だから訪問販売とかは本当にやばい。
…というか、同じものを飲んでいる自分は大丈夫なんだろうか。だからって俺も今更あれがない生活はもう考えられない。
マジで依存性とかあったらどうしよう。
ある日母さんが出かけようとしていたので声をかけた。
「出かけるなら原付貸すけど?」
「いい!自転車の方が早いから!」
「な訳ねーよwww」
とりあえずツッコミは入れたがあの爆走を見た後だから洒落にならねえ。
「冗談だよwガソリン勿体ないでしょ!」
母は慌てて誤魔化す。おいおい本気だったのかよ!
「いいけど捕まんなよ?8キロ超えたら車道だ。わかったな?」
俺は釘を刺す。母はルールと一般常識に拘るからな。こう言えば絶対に破らない。あんな爆走してて歩行者に怪我でもさせたら大変だ。こういう時だけ母の融通の利かなさを利用するのはズルいかも知れないが、俺はそれを長所だとも思ってるんだ。ここまで自分に課したルールを守れる人間はなかなか居ない。
「ええ?そうなの??」
「てかママチャリでそんな速度出ねえよwww」
「そ、そうだよね。あはは。す、スピードメーターって高いのかな?」
確かにスピードメーターがある方が安全か。父に相談しておくか。
「とにかく爆走すんなよ?捕まるからな!捕まったら罰金だ。」
母は節約思考だからな。罰金は絶対に嫌なはずだ!だが母はスマホを見て言った。
「よし、車道なら車と同じスピードまで大丈夫らしい!」
「いやいや!ママチャリで車と同じスピードとか普通出ねえわ!自転車が壊れるからやめろww」
「キレが無いよ!テンポちゃんとして!」
ボケだったのかよ!天然と区別付きづらいわ!
夏休みに入ってから気になって観察していたが、とにかく母はアクティブすぎる。最近はスイートドールという人形の服を大量にどこかに発送している様なのだ。
母は必要以上に節約する傾向にあって、スイートドールなんて金のかかる趣味はやらないと思うから、おそらくは服だけ作って売っている。料理と節約しか興味がない母が新しい趣味を見つけたならそれはそれで良いとは思うけど、何故こそこそする必要がある?
ある時屋根裏ででドタバタしていると思ったら翌日屋根に登っているのを見つけた時はゾッとした。いい歳をして一体どれだけ自分の体力を過信しているのか。もしも大怪我したらどうするってんだ。
内職をしたり、雨漏りを自力で直さないといけない程にこの家にはお金が無いのか。父は課長だし、株で儲けていたはずだ。もしかして大学の学費のせいか?それともやっぱりあの怪しいハーブを買うのに大枚はたいたのか?
俺もバイトした方が良いのか考えてしまう。毎月の小遣いを自分で稼げば、親も少しは楽になるか……
親友の山根に、母が何かトラブルに巻き込まれているかも知れないと相談したら、みんなで家に様子を見に来てくれるという。
その時にピザ窯を使ってみたいというので(それが目的じゃないだろうな)母に話すと、任せなさいと満面の笑みで言っていきなり庭にテーブルセットを作り始めた。本当に母は何をするにも突然でびっくりする。しかも手際が良すぎる。
何でこんなに何もかも作れるんだ。少し前まで庭は草ボーボー、料理以外の家事は必要最低限だったのに。一体何があったんだ。
そんな訳ないけど、中身が変わってしまったのかと思うほどだ。
米袋担いで歩いてるのを見た時はびっくりした。なんでも肥料になる米糠が無料だとかで。いや無料好きすぎか。俺もう心配になるわ!
ていうか一袋10キロ以上ありそうな袋2つも担いで異様な速さで歩いてたんだが。一体何のトレーニングだよ。
山根達が来て、母は本当に嬉しそうな顔をしたんで、またお節介焼くのかと思ったのにすぐに部屋に戻った。
母の理想は友達親子だから、今回も息子の友達に好かれる母親を目指して絶対ちょっかい出して来るだろうと思っていた。
俺の予想ははずれて、つい俺らは母を監視する目的を忘れピザパーティを思い切り楽しんでしまった。
帰り道、柚月と増村さんが母の事を若くて何でもできてカッコ良いと絶賛していた。
かっこいいか?いい歳して若作りして落ち着きがなくてめちゃくちゃ心配なんだが。主婦は普通屋根には登らないしピザ窯作らないだろう。
「普通普通って何?!若くてカッコいい方が良いに決まってんだろ。うちの親と変えてくれよ!何が不満なんだよ!」
山根にガチで怒られた…。
まあ、母は普通じゃないな。普通を目指して一般的な母や妻に拘っているが、それが余計にかけ離れていってるんだよな。
みんなから見たら、元気で明るくてとてもトラブルに巻き込まれている様には見えないらしい。いやそれはポーズなんだよ。人には言えないが母さん本当はめちゃくちゃメンタルが弱いんだからな?!突然土下座だぞ?!信じられるか?!
「あんなに家をピカピカにして、時間的に外にトラブル起こしに行く暇が無いと思う。」
言ったのは増村さん。確かに家はピカピカだ。毎日掃除機をかけてから物の置き場所を完璧に戻す手間のかけようだ。いや確かに俺怒ったけどさ、そこまでされて罪悪感半端ねーわ。最初は超高度な嫌味かと思ったもん。
「あそこまで家の事一生懸命なのに、あんな健気なお母さんを疑うなんて酷い。言ったのが夫だったら離婚案件だよ。」
とまで柚月に言われた。心配しただけで離婚案件なのかよ。女の価値観怖すぎるぞ。俺こいつと結婚したら一生心配しちゃダメな訳?夫は普通は妻を心配するもんだろうが。父とかヤバい過保護だぞ。その理屈だといつ離婚されてもおかしくねぇ!
「元気すぎるなんて羨ましい悩みだって。うちなんか毎日疲れた疲れたで父さんの悪口だぜ。あんな良いお母さん疑うとかひでぇ。」
確かに母は疲れたも悪口も絶対言わない。けどその方がおかしい。愚痴の一つも聞いた事無いってことが異常なんだって。
「ていうか何なんだよ。お前ら母さんの信者かよ。俺だけ異教徒なのかよ。」
何なんだこいつら、チョロすぎるぞ。全員母の下手な演技にすっかり騙されてやがる!
やっぱり一度会っただけじゃあの異質さはわからないよな。本当に心配だ。夏休みの間だけでも変な事しないか見張っていた方が良いか?
あと、父さんに大声で俺の彼女を自慢するのやめて欲しい。母さん特別声デカいから全部俺の部屋まで聞こえてる。めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます