第3話 大人の仲間入りだね

 新しい大会館の建設が進む中、開拓団では新たな仕事の分担が必要になった。


 それは今度宿泊施設にすることになった、旧大会館の施設管理だ。今までは人数が少なかったので使うものはみんなで、という形で管理をしていた。しかし、これから不特定多数がやってくる場所になるので施設管理を中心とした仕事をする人が必要になる。


 僕はランドさんと、今開拓団で仕事をしている人たちについて洗い出す。


 まずレインさんは当の新しい大会館の建設で忙しい。ラクシさんは防風林を作る計画でザイラスさんとアルディスさんのチームで動いている。人夫の往来が増えたことで、ランデルさんとディロンさんも仕事が増えている。ルディをはじめ、ウォレスさんやガレーさんなど牧場組は当然牛たちにかかりきりだ。


「牧場関係でやってきた人たちには、頼みづらいですね」


 実は後から開拓団にやってきた人たちは、バッファローに興味がある人ばかりだった。必然的に牧場運営者や食肉加工、毛皮の加工職人たちが来ることになったので単純な「人夫」として開拓団に加わった人があまりいなかった。


「カーラはどうだろう? 奴ももうすぐ十六歳だし、何かひとつの仕事に専念させるといいんじゃないだろうか」

「いいですね。ラクシさんも交えて、話し合ってみましょうか」


 ランドさんが提案に、僕も賛成する。


 カーラは、初期メンバーのゼルタス家の長男だ。今までは女性陣に混じって軽作業をしたりルディと一緒に牧場の仕事をしたりと、いろんなところを手伝ってきていた。今までは子供であったことで多少侮られていた面もあるが、彼は幅広い仕事に対応できる能力がある。人付き合いが狭いタウルス高原の中でも不特定多数の人が出入りする施設の管理、というのは確かに彼が適任かもしれない。


 早速、ランドさんと僕はラクシさんとカーラにこの提案をした。


「俺が大会館の管理ですか?」

「正式には、旧大会館と宿泊者の管理だ。今まで工事でやってきてくれる人たちは、代表を募って高原側と衣食住の提供の交渉をしてきた。それを高原側で管理する人がいれば、工事に来る人たちも少し楽になるんだよ」


 カーラは突然の話に目を丸くして驚いていた。何でも、いきなり僕とランドさんに呼び出されたものだからてっきり何かやらかしていて説教をされるのではないかとビクビクしていたそうだ。ラクシさんも息子の不始末を謝るつもりで同席したものだから、同じく驚いていた。


「ええ、でも俺なんかに出来ますか……?」


 自信がなさそうなカーラに、ランドさんが言う。


「何言ってるんだ、もう君は立派な大人じゃないか。開拓団のいろんな仕事を手伝ってきた君だから、幅広く気配りの必要な仕事を任せたいんだ」


 カーラはラクシさんの顔を見る。ラクシさんは一度頷いて、ゆっくり話し始めた。


「いい機会じゃないか。悪い話じゃない。こういうのは引き受けた方がいいぞ」


 それからラクシさんは僕たちに向き直った。


「こんな奴で良ければ、どうぞ使ってください。役に立たなければ解任していただいても構いませんので」


 そう言って、ラクシさんは僕らに頭を下げる。次いで、カーラも父親に倣って頭を下げた。


「いや、そこまで難しい話ではないんで大丈夫です。ただ専属の人がつくと嬉しいな、というくらいの話でして」

「いいえ、つまりこいつを信用してくれているということでしょう」


 僕とランドさんは顔を見合わせる。


「今更何を言うんですか。ラクシさんもカーラも、僕らからすれば家族みたいに信用できる仲ですよ。もうほとんど親戚、みたいな」

「そう言って頂けると、ありがたいです」


 カーラは恥ずかしそうに頭を上げたが、ラクシさんはなかなか頭を上げなかった。ランドさんが僕とカーラに「少し任せてほしい」と言って席をはずすように言ったので、早速僕はカーラを連れて、旧大会館の設備の点検などを一緒に行った。


 それまで子供だとばかり思っていたカーラだったけれど、その時は引き締まった大人の顔をしていると僕は思った。僕ごときがそんなことを思うなんて、おこがましいんだけどね。


***


 その日の夜、ラクシさんは男泣きに泣いたと後でこっそり奥さんのリディアさんから僕は聞いた。


『あの人、ソルテア族でしょう。だから、何をやっても認められないって苦しんでいった時期があったみたいね』


 リディアさんは昔のラクシさんのことを少しだけ教えてくれた。ソルテア族の出身であるラクシさんは、頭が良くて聞いたことを何でもすぐに覚えてしまうような子供だっったそうだ。しかし、いくら勉強をしても『ソルテア族は俺たちより劣っているから』とラクシさんを雇ってくれるところはなく、逆に『劣っているくせに俺たちより頭がいいなんて生意気だ』とはっきり言われたこともあったそうだ。


『だから、真面目に働いているだけで仕事ぶりを評価してくれることが本当に素晴らしいことなんだって喜んでいたわ。息子に自分と同じ苦労をかけさせなくてよかった、ここに移住してきて正解だったってね』


 そう言って、リディアさんは笑った。僕はそんなラクシさんを支えるリディアさんも素敵だなあと思った。


 その後、カーラは大会館の管理の仕事を僕と一緒に始めた。最初は工事にやってくる人たちがソルテア族の生まれであることを気にするんじゃないかとカーラは心配していたけど、そもそもこんな辺鄙なところに住んでいる時点でソルテアだろうがセレスティアだろうが彼らには関係なかった。それはわざわざこんなところまで仕事をしに来る者たちも同じだった。


 それにしても、カーラは仕事の覚えが早い。僕がようやく片付けているような仕事も、すいすいとこなしていく。そのうち、宿泊者の管理も自分でやりやすいように完全に任せてみよう。彼ならきっと、いい仕事をしてくれるさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る