第4話 等級試験
あれから二年が経過した。
つまり俺は七歳。
別段語るようなこともなかったと言える。
ああ、当然だけど
妹も成長しました。
既に五歳。俺よりも白髪の量が多い。
別段、それが幻力の多さを
決めているわけでもないそうだが。
これがもう可愛いのなんの。
「おにたん、今日も修行ー?」
「ああ、瑠奈はまず幻力を
出せるようにならないとな」
「うん!!」
瑠奈も数ヶ月前から
幻力の放出訓練を始めた。
全然放出できていないが、
普通はこんなものらしい。
……というか俺が異常だそうだ。
天才──というより転生者だから
単に物覚えが良かっただけなんだろうな。
さて、八雲との鬼ごっこも
そろそろ板についてきた。
最近は逃げ切れる日も多い。
純粋に体が育ってきたのもあるが──。
やはり一番は武器の解禁が理由だろう。
「おらぁ!!」
俺に食いつこうとしてきた氷の狼を
木刀で砕く。
木刀も幻力で強化している。
ゆくゆくは真剣を使うために
今から剣術を学んでおいたほうが
いいとのことだった。
そこでこうして鬼ごっこにも
木刀を採用しているのだ。
「流石ですね。今日は
もう少し本気を出させてもらいますよ!」
そう言って八雲が
以前俺に見せた巨大な氷鳥を生み出す。
それをそのまま俺にけしかけてきた。
流石にこれは木刀で破壊できない!!
俺は思いっきり地を蹴り、
後方へと跳躍した。
そのままダッシュで
八雲から距離を取る。
既に八雲は俺の全力疾走に
ついてくることが出来なかった。
「ああ! 逃げるなんて卑怯ですよ!!」
「これは鬼ごっこだろ!?」
結局、今日も俺は
無事逃げおおせることが出来た。
「修行方法をそろそろ
変えないといけませんね……」
いつもの林から
屋敷へと戻ってきた俺たち。
八雲が何やらぶつぶつ言っている。
たしかに鬼ごっこはもうそろそろ
意味がなくなってきている。
本気で逃げれば確実に
逃げられるのがわかっているからだ。
「そういえば八雲
そろそろ試験なんじゃないのか?」
「ええ、そのはずです。
珀斗さまの幻力も
増量しなくなってきましたからね」
「まぁ、切らしたことないけど……」
常に放出してなければならないので
今の俺は三~四回りほど
分厚い幻力に覆われている。
正直、ちょっと邪魔だ。
幻力を出しつつ強化を
オフにするのって難しいんだよな。
幻力で纏う=強化で条件つけてるから。
そんな風に
鍛錬場で会話していると……。
「珀斗! 幻術協会に
試験を受けに行くぞ!!」
バァン、と扉を開けて
父さんが入ってきた。
周防理央。
和装に黒コートという
和洋折衷の姿をしている。
黒髪でちょっと無精髭が生えてる
いささかダンディな印象が伺える御仁だ。
その腰には日本刀が
吊り下げられており、
戦闘スタイルが伺えた。
「急だな、父さん」
「今日の修行は午前までに
しておけと言っただろ?」
「というか幻力そこそこ
使っちゃったけど大丈夫?」
「問題ない。
最大値がわかるようになっている
さて八雲、転移門を開いてくれ」
「はっ」
父さんがそう言うと
八雲が地面に魔法陣を描き始めた。
魔法陣──と呼んでいいのかわからないが
魔法陣っぽいのだから仕方ない。
「えっと……転移陣ってなんですか?」
思わず聞いてしまう。
それに父さんが答えてくれた。
「協会のとある幻術師の術式だ。
こうして転移陣を描くことで
発動することができる」
「へぇ~~~」
「描けましたよ、旦那様」
そう言って八雲が少し離れる。
たしかに地面に転移陣が描かれていた。
「わぁい!! おにたんがんばれ~!」
「気楽に行くのですよ、珀斗」
開いた扉から
こっそりこちらを見ているのは
俺の母さん……と瑠奈。
瑠奈は可愛らしく
母さんの着物の端を掴んでいる。
母さんの髪は白色。
かなり乳が大きく、
いつも着物を着ている。
なんとなく薄幸の美人という印象があるが
実態はそんなこと全然ないだろう。
病弱ということもないし。
こんなデカい屋敷に住んでるしな。
「ではいってくるぞ
杏里、瑠奈」
「はぁい! おとさんも頑張って!」
「あなた、珀斗をよろしくね」
「ではいってきます、母さん」
そう言って、俺は魔法陣に乗った。
八雲がしゃがみ込み、印を結んで
何やら唱え始める。
すると周囲の世界が歪み
次の瞬間には裁判所のような場所に出た。
周囲には偉そうな人たちが
観客席のような場所に座っている。
中央に座っている
裁判官のような禿頭の老人は
訝しげにこちらを睨んでいた。
「周防特等。彼が
貴殿の息子かね?」
「ええ、もちろんですとも」
「ではさっそく中央の
水晶玉に触りたまえ」
言われて中央のテーブル……
というのも烏滸がましいような
半端な六角形の柱の上にある
水晶玉に触る。
次の瞬間、水晶玉が光り輝き
天井にプラネタリウムが広がった。
数多の星。
これに何の意味があるのだろうか。
だが意味がわかっているらしき
観客席の老人たちはざわめきだした。
「おお、この星の数は……」
「さすがに特等の息子なだけはありますな」
「最低でも一等。固有術式次第では
特等に任命してもいいかもしれんな」
「周防特等、彼の固有術式は?」
「いえ、まだ調べてません」
「では早速調べましょう」
老人たちがそう言うと
触れている水晶玉の色が変わってくる。
それはどんどん昏くなり
やがて漆黒の玉になった。
すると、老人たちのざわめきは
先程よりも比較にならないほど
大きくなった。
「これは……」
「あまりよろしくありませんな」
「間違いなく特等級。
下手をすれば封印措置が必要かと」
「そんな! 珀斗は
暴走したことなど
一度としてありませんよ!!」
老人たちの会話に
父さんが大声を上げる。
今、封印措置とか言ったか?
色じゃわかんねぇんだよ、俺。
もっとステータスとか出してくれ。
「あの、俺の術式は
一体何だったんですか?」
俺の質問に
観客席にいたおばさんが
親切に答えてくれた。
「水晶玉がここまで
黒くなったことは
過去二例しかありません」
「それは……?」
「いずれも”虚”。
周囲を無造作に食い散らかしたり
膨大な爆発を生み出したり──
詳細まではわかりませんが
とてつもなく危険な術式で
あることはたしかでしょう」
再び会話を続ける老人たち。
父さんの顔を見ると
冷や汗をかき苦々しげな顔をしていた。
やがて老人たちは
判断を下したようで
中央の禿頭さんがガベルを打ち付けた。
ガベルってあの裁判長とかが
持ってるハンマーのことね。
「周防珀斗。あなたが
いままで暴走事例を起こしたことは
ないことがわかっています」
「ええ、幻力を
今まで全開にしてましたが
そういったことはなかったです」
「これから暴走する
可能性は極めて低い──と見ますが
危険性の高い術式であることは事実。
よって封魔刀をあなたに貸し出します」
「封魔刀?」
いったいなんなんだそれは。
固有名詞は逐一説明してくれ。
俺の疑問符が顔に出ていたのか
父さんがこっそり耳打ちしてくれた。
「持ち主の術式を制御する刀だ。
所持している間、刀に術式を封じ込める。
不慣れだったり強大な術式を持つ
幻術師が使うことが多い
しかし封魔刀にも等級があるんだが……」
禿頭さんが父さんの言葉を
肯定するように頷く。
「幻力の豊富さ、
過去二例しかない術式反応。
それを考慮して特等級の封魔刀
──黒孔雀を貸し出すこととします」
へぇ、特等級。
それってつまり最上位ってことじゃんね。
禿頭さんの言葉に従ってか
役員が水槽が乗ったワゴンを運んできた。
水槽の中には
黒尽くめの鞘に収まった日本刀が。
鍔には孔雀のような文様が描かれている。
「受け取ったら常に半径5m以内には
所持しておいてください」
「えっと……なんで
水槽に入ってるんですか?」
「所有者がいなければ
周りの幻力を吸い出すんですよ
そうならないように
幻力で満たした
水槽に入れてるんです」
「なるほどね……」
日本刀ってなんか男の子だよな。
自分の日本刀を持てるって嬉しい。
しかし水槽から出すのは
俺の仕事らしい。
そこは手渡してくれよ
と思ったが封魔刀というだけあって
けっこう危ないのだろうか。
仕方なく水槽に手を突っ込み
冷ややか水を掻い潜りながら
重々しいそれを引っ張り上げた。
「むっ……!」
何かが封魔刀に奪われる感覚。
俺の固有術式が封じられたのか。
多分、引き抜いたら解放できるんだよな?
少々俺の背には大きい
封魔刀をしっかりと握りしめ
父さんの近くへと戻る。
「では息子の等級は……?」
「うむ。特等に任命する」
「おお……! やったな珀斗!!」
そう言って父さんが
俺を抱きしめてきた。
特等。つまり最上位。
最強の幻術師の一人として
任命されたわけだ。
「では来週から
幻影学園に通うがいい」
「幻影学園?」
なんすかそれ。
俺のはてなマークがわかったのか
またも父さんが耳打ちしてくる。
「幻術師を育てる学園だ。
七歳から入ることになる。
親元から離れることになるが
正月と夏季休暇は帰ってこれるぞ」
「なるほどね」
要するに学園編ってわけか。
幻力を出しっぱなしじゃ通えないもんな。
七歳以後になるわけだ。
カンカン、と禿頭の爺さんが
ガベルを鳴らす。
「では退出するがいい」
「はっ! ありがとうございます!」
こうして俺は特等幻術師となった。
しかし封魔刀——黒孔雀か。
帰ったら父さんの監視の元
引き抜いてみようかな。
学園へ行く準備もあるし……
これから忙しくなるなぁ!!
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