海岸通り黄昏ランデブー
tommynya
第1話 海岸通りの人々
【 海岸通り黄昏ランデブー 】
主人公 真行寺
隣のクラス 晴矢
美術教師 八神
とある海の近くにある高校の美術室。いつものように乃亜は絵を書いていた。茶髪でくせ毛の髪に中性的なビジュアルをしている。そして、女顔がコンプレックスである。幼い頃から恋愛対象は同性で、その事は誰にも明かさず学園生活を送っている。いわゆるクローゼットゲイだ。
「あ~もうこんな時間だ。一人で絵を描いていると時間を忘れちゃうな~」
いつものように、サンセットを3階の美術室から眺めながら絵を描くのが至福の時間だ…ときめき、苦しみ、時にはセンチメンタルになってみたり…心の対話の時間を楽しむ。美術部は部員が少ないので、だいたい貸し切り状態だ。
そこへ、背の高いイケメンがやってきた。隣のクラスでバスケ部の友達の遼だ。美術室へは良く遊びに来ている。
「何描いているんだ?美術の課題教えてくれ。俺絵描けない」
「そうだな。遼は絵苦手だもんな、ハハッ、いいよ。課題?」
そこに、美術教師の八神もやってきた。
「あれ晴矢なんでいるの?真行寺、戸締り頼むね。」
「八神先生、遼の課題を手伝っています。戸締りしておきますね。さようなら」
「へぇ~2人は仲良いんだね~知らなかった」
「乃亜にいつも絵を教えてもらっているんです…さようなら先生」
八神先生は、手を振り去っていった。少し長めの髪が似合っていて、中華ファンタジーBLに出て来そうな、綺麗でセクシーな美男子なので、生徒達にも人気だ。絵も凄く上手だし、俺も結構憧れている…
「乃亜、先生の事めっちゃ見つめてたな」
「そんなことない!話していたから見てただけ」
(先生は、中華ファンタジーBLの推しに似ているんだ!遼、見逃してくれ)
「熱い視線すぎて、穴があきそうだった」
「遼、何言ってんだ。課題やるぞ。あと一時間で日没だ」
遼の課題を手伝っていたら、外が暗くなってきていた。
「乃亜そろそろ帰ろう」
遼とは帰る方向が同じなので、自然と部活が終わる時間に落ち合って一緒に帰る事が多い。俺は小柄で女顔のせいで、以前変質者に狙われた事があり、遼はそれから登下校は一緒に行動するようにしてくれている。ちなみに、遼はバスケ部で高身長でイケメンなので女子にめちゃくちゃモテるが、彼女は作らない主義なのか、いつも一人なので俺のボディーガードみたいになっている。
「あっ遼、ちょっと待って。今片付ける。あと2分」
道具を片付けて美術室を後にした。校門を出て徒歩で海岸通りを二人で歩く。トワイライトの中を歩くのは大変ロマンチックだ。幻想的でこの世ではない、違う次元にいるような…この光景が見られるのは、海の近くに住んでいる人の特権だと思う。都会では絶対見られない…生まれた時から海辺の町に住む遼にはピンとこないみたいだけど。
「乃亜、あんな良いマンションで一人暮らしいいなぁ…」
「一人は気楽で良いけど、たまに孤独を感じる…別荘として使っているマンションだから、定期的に親は来るけどね」
「あー、そうだよな。一人で寂しい時は俺を頼れよ、何も出来ないけど…」
「その気持ちが嬉しいよ。ハハッ」
俺は中学の時にゲイバレした経験から、高校ではゲイという事を隠している。周りの人達の目が変わった事がトラウマだ…高校からこの海岸通りに面する両親所有の別荘で暮らし、一人暮らしをしながら高校に通っている。高校から仲良くなった遼は、俺の過去の事は何も知らない…絶対、仲の良い遼にはゲイだってバレたくない…もしバレたらもう仲良くしてもらえないかもしれないから…
「毎日、一緒に帰ってもらって悪いなあと思ってるよ。彼女出来たら彼女優先してくれよな。俺は一人で帰れるから」
「大丈夫。誰とも付き合う気ないし、乃亜とずっと一緒に帰るから、心配するな」
「なんでだよ、めちゃくちゃモテてるし、しょっちゅう告白もされているのに、全員断るなんてもったいないと思うぞ」
「乃亜と一緒にいる方が楽しいし、この時間が幸せだから俺はこのままがいいな…」
(遼は無意識でこういう感じだけど、勘違いされちゃうやつ。俺だからいいけど。俺が女だったら好きなのかな?と考えてしまうだろう…)
2人で話しながら歩いていると、マンションの入り口に到着した。
「それじゃ、また明日迎えにくるからな」
「うん。ありがとう。気をつけてな、バイバイ」
「うん。じゃあな」
オートロックのマンションのゲートが閉まるのを確認して遼は去っていった。毎日送り迎えしてもらって、良い友達を持ったなあと思う。変質者の遭遇も0になったし遼には感謝しなくてはならない…。
(送り迎えが始まってもうすぐ一年になる…遼にどうやって恩返ししたらいいんだろう…俺は何も返せてない…)
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