端役
鈴木 正秋
プロローグ
エキサイティングサーチ
『はい。どーもエキサイティングサーチのゆげ、と』
『しゅん、と』
『だいすけ、と』
『けん、だ』
画面の向こう側では、ソファに腰をかけている四人の成人男性がこちらに向けて挨拶をした。その間、四人の胸元辺りに名前が表示されている。四人とも文字の色が違うため、四人ともイメージカラーというものがあるのだろう。
ゆげには黄色、しゅんには青色、だいすけには緑色、けんには赤色が使われている。
四人の一番左端にいるだいすけが挨拶後に青色の字幕と共に話し始めた。
『皆さんは一万円企画というものはご存じですか?』
『知っているよ、一万円分大食いをしたり、物を買ったりする企画でしょ?』
ゆげはだいすけの言葉に返答した。しゅんとだいすけの二人は大きく頭を動かし、頷いている。
横目で三人の反応を見ていただいすけは画面の向こう側のこちらを見て、話を続ける。
『よく知っていますね。その中でも一万円の大食い企画って、様々な動画投稿者がチャレンジしていますよね』
『特にグループの動画投稿者がね』
一番右端にいるけんは、左端のだいすけを見るためにローテーブルに身を乗り出しながら反応した。
『そうなんですよ!』とだいすけはけんを指さしながら、声を荒げた。
『僕たちもグループの動画投稿者じゃないですか。なんか負けてられないなって思いまして』
『確かにね。顔出しで動画投稿し始めたのは最近だけど、これでも動画投稿歴四年くらいなわけだしね。負けていられないですよ!』
ゆげも声を荒げた。このエキサイティングサーチのリーダーであるため、この四人の中で動画投稿者としてのプライドが一番ある。
『だから、今回は一万円どころではなく、五倍の五万円で大食いしましょう!』
『なんでそんなことしなくちゃいけないんですか!!!』
挨拶以外でずっと沈黙をしていたしゅんが怒声と共にようやく口を開いた。眉を顰めて、ローテーブルを叩き、全身で怒りを表現していた。
だが、いつも通りの表現だと悟っている他のメンバーたちは手を叩きながら笑っている。そして、ゆげが『だから、他のグループ動画投稿者に…』と言いかけたところを遮るようにしゅんは右手の平を顔の前で大きく振った。
『負けていられないなら、同じ額の一万円でいいじゃん。勝ちたいなら二倍の二万円でもいいし。それなのにいきなり額が飛んで、五万円なんですか?意味がわかりません!』
しゅんは早口でまくし立てた。だが、ここまで構成通りなのか、他のメンバーたちは大笑いしている。
だが、しゅんが嫌がるシーンを十分に撮れたと思ったゆげが『でも』と話を切り上げていく。
『五倍も差を付けてしまえば、俺たちよりも上はそうそう出て来ないよ』
『そうかもしれないけどさぁ』
しゅんは不満そうな顔でカメラから目を背けた。しゅんのメンバーカラーである青色の字幕が消えた後、『しゅんの胃袋の小ささは異常です』という黒色の字幕が出現した。
『俺たちは四人でエキサなのでね。四人で協力したらいけるって』
少し前まで司会をしていただいすけが話に割って入った。そして、『それに見て、この人を』とけんのことを指さした。
『この出っ張ったお腹の人が味方にいるわけだよ。五万円分なんて楽勝だって』
『おおい、誰がデブだ!』
けんは少しも間を空けずにだいすけにツッコミを入れた。だが、確かにけんは肥満気味で丸い体型をしている。そのため、また黒い字幕で『そのツッコミはおかしい』と表示されていた。
『まぁ、しのごの言ってもこの企画からは逃げられないのでね。早速やっていきましょう』
というゆげの言葉でアイキャッチが入り、画面が切り替わった。そこからは五万円分の大食い企画が始まった。しかし、動画の結果から言うと、この大食い企画は無事成功した。途中でだいすけが単価の低い牛丼を大量に買ってきた時には、しゅんがアホかと怒声をあげる時があったが、けんの活躍もあって五万円分食べきることができた。
『ということでね、これから何万円分大食い企画とかをやるグループの動画投稿者はね、五万円以上からやってみてはいかがでしょうか』
『誰がやるか!!』
最後はしゅんではなく、けんが怒声をあげて動画は終了した。
これは今、ある動画投稿サイトで様々なことにチャレンジして、多くのファンを得ている動画投稿グループだ。毎日投稿される動画には、投稿した次の日の朝までには百万を超える再生回数が常にたたき出され、高評価数も一万を超えている。
そのため、広告収入もかなり得ており、年収は数千万。もしくは一億を超えているのかもしれない。
有名人で、高収入で、気の置ける友人たちと様々な挑戦をする。もちろん動画編集や大食いなど辛いことも多いかもしれないが、人によっては夢のような生活だ。
だが、そんな彼らにも学生時代というものがあり、当然クラスメイトがいたことだろう。
今回はそんな有名人の元クラスメイトが主役の物語だ。
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