第18話 クズの末路②(エランダ視点)

「エランダ!?」

「エランダちゃんか、スタンピードはどうなった?」


クズがいた……2人も。


そう、ここにいたのは私の婚約者であるジキルと、カジノの支配人であるアレサンドロだ。



あと、クレアもだ。……しかし彼女は床に転がされてぐったりしている。裸だ。

最低ね、こいつら。こんなときまで。


気まずげに私とクレアの間に立って私の視界を遮ろうとするジキルと、気にも留めていないアレサンドロ。


こんなのが婚約者で、婚約者候補というのが泣けるわね。


「スタンピードは、中層のモンスターは倒して、下層のモンスターが出てきたところで避難したわ」


そしてここに及んでこんな嘘をついている私も最低ね。ただの保身……。


「中層のモンスターを倒しただと?オークキングとエルダーウルフがいたのに?」

「何が出てきたか見ていないのか?僕のカジノは?」

そしてこいつらの口から出てきたのも、自らの失態に関することだけ。

全く街のことを心配していない。


シファ……ラクス。

あなたたちだったらこんなことはしないわね。

力があるあなたたちなら。


力のない私では、誰かに取り入るしかない。誰かを利用するしかない。何かあっても誤魔化すしかないし、もう後戻りなんてできないのよ。



「ミシェールが復帰してくれて、彼女が中心となって中層のボスは倒したわ。その後ギルドごとダンジョンの入り口を埋めたけど、最後に見えたのはあの一帯が全て吹き飛ぶところよ」

「なっ……」

「やはり資産を抱えて出てきて正解だったな。それでは僕はこれで失礼するよ」

そう言いながら出て行くクズ。

遠めに見えた巨大な翼のあるトカゲのようなモンスター。

きっとあれは伝承に聞くドラゴン。

そんなのに勝てるわけがないの。


「待ってくれアレサンドロさん。俺も連れて行ってくれると」

「来たければ勝手にくればいいが、エランダちゃん。君はダメだぞ?もし連れてなんか行ったら、僕が父上に言い訳できなくなるからね」

捨て台詞も最低だ。

どうせならスタンピードにこのクズを襲ってほしい。


 

「なっ。あれだけの資金を渡したのに、それはないだろう……」

ジキルは唖然とした表情でアレサンドロにいい返そうとするが……。この男にそんな気概があるわけがないわね。反射的に言いかけて睨まれて尻すぼみよ。


「黙れ。資金だって?あれはもともと僕のものさ。なぁ、そうだろ?エランダちゃん」

「どういうことだ?何かあった時の予備費じゃなかったのか?」

「……」

もうこりごりよ。

1つの失敗で全て崩れた。

そういうことなんでしょ?


「言えるわけないよね。あれはただ、昔のエランダちゃんがカジノにのめり込んで作ってしまった損失の返済だったなんてね」

「……」

「なっ?どういうことだよ!?金貨が何枚あったと思ってるんだ?」

もう涙も出ない。


そう……幼い頃の私は、子爵家の娘としてずっと家の中で勉強の日々だった。

外に行くこともあまりなかった。

理由は簡単だ。


この街はダンジョンの街。

冒険者という荒くれ者の街。

賑わっていて、お金の周りも良かったけれど、その反動で女子供が自由に出歩けるほどの治安の良さはなかったの。


お父様は衛兵を育ててある程度の規律を持たせようとしていたけど、ダンジョンの中でどんどん強くなる冒険者に抗うのは厳しかった。

しかし衛兵をダンジョンに入れれば、待っているのは退職して冒険者になってしまう道だ。

ダンジョンがある街の冒険者の稼ぎは良い。

何人もの元衛兵の冒険者が誕生したわ。


普通の街の衛兵の仕事は要人の護衛や出現したモンスター討伐、あとは森などでの素材探しや採取などが主体だ。

生死をかけているとはいえ、危険は少ないし、ダンジョン探索と比較したらどれも効率が悪い。

ダンジョンの外でモンスターと遭遇する確率はそもそも低いし、倒しても報奨金が出ないからだ。


そんな冒険者を名乗る荒くれ者たちを相手にしつつ、お父様は統治者として上手くやっていたから比較的評判は良かった。

でも、恨みを持つもの、ちょっかいをかけるもの、そんな人たちは必ずいる。


そういう人達が起こした事件で、お父様自身が怪我を負ったことがあるし、かつては親族が亡くなってしまったこともあった。


話しとしては理解していた。でも、そんなことは思春期を迎えた少女にはただの枷にしか思えなかった。

自分もギルドに行ってみたい。

街の中を歩いてみたい。


そう思っていたところに、寄り親であるホーネルド公爵の三男であるアレサンドロ……今まさに私を見捨てて砦を出て行こうとしているクズと出会った。

それは子爵家主催の夜会だった。


周辺の貴族を呼んでのささやかな懇親の場。たしかダンジョンを抑えつつ街を運営していることについて、国王陛下から褒賞をもらったのだ。それを祝う会をお父様が催したの。


さすがにその会に子爵の家族が出ないわけにはいかない。


私も、幼い妹も出席した。

そこにこいつが近寄って来た。


私は見た目の良いこの男にすっかり絆され、まるで恋の相手のように振る舞い、彼の仕事であるカジノに興味を持った。

彼は三男とはいえ公爵家の名代として夜会に参加していたので、彼が私をカジノに招待することを父や家族は止めることができなかった。


それは良い気分だった。

自由。


そして教えられるがままに遊興を楽しんだ。


さすがに10歳を過ぎたほどの少女に対して、無茶はしなかったから、勝ち負けを繰り返し、しっかりと楽しんでその日は家に帰った。帰るときにまるでお姫様のように扱われ、私は夢見心地だったわ。


一瞬の夢。それで終わっておけば何も問題はなかった。

しかし戻った日常で、私は刺激を忘れることができなかった。

私は家族に内緒でこっそりと通った。通ってしまった。


今思えば、当然このクズは把握していたんだと思う。

思うけど、よいネタが転がり込んだ、程度の認識だったと思う。


私は熱くなり、負けがこみ……返済の見込みのない借金を作ってしまった。

それを一度はアレサンドロが払ってくれて、さらにのめり込んだ……。


今思えば完全に転がされていたと思うわ。歓迎され、お姫様扱いされ、美味しいものを食べ、遊んで帰る。借金が……と言われても『いつか勝って返すわ』なんてのんきに言っていた。


そもそも借金と言うものについての理解すらできていなかった。愚かだった。

5年くらいの間に、負債は膨れ上がった。


そしてスタンピートが起き、母と兄が死んだあと、彼は私に言った。

 

「さすがに醜聞があるから無茶はできないけど……エランダちゃん。これはさすがに……」

私の損失総額を部下から聞いた彼は、困ったような顔をしていた。

実際には心の中で笑っていただろう。いいカモだと。でもその時は困った娘に救いの手を差し伸べる天使のような顔をしていた。


「利息は最低限にして、僕が5年持ってあげよう。たぶん君が結婚するくらいまでね。そうすれば周りにはバレないよ?なに、君の権限を使って街やダンジョンの予算や収入を弄ればなんとかなるよね」

「払ってくれたんじゃなかったの?」

この期におよんで私は最初の口約束を持ち出した。それに対してアレサンドロは首を振る。


「初回はそう言ったけど、それ以降は全てつけで残っているよ……」

「……」

ようやくまずいと思ったのか、私は少しだけ震えていたと思う。


「さすがにオーナーの立場で支払ってはあげられないよ?それくらいわかるでしょ?ちゃんと返してもらわないと」

その言葉で不安になった私は縋るような目で彼を見たが、帰ってきたのはニヤニヤしている表情と、非情な言葉だった。


それではっきりと理解した。

私は蟻地獄に引きずり込まれ、落とされたんだと。いえ、とっくに落とされていたんだと。


恐らくこいつはラクスたちの強さを見込んでこんなことを言いだしたのよ。

彼が探索を続ければこの街はどんどん潤う。

そこから金を出せと言っている。


何もなければネタとして持っておくつもりの醜聞を、ここで丁寧に出してきた。私にしっかりと恐怖と不安を植え付けながら。


ようやく復興して順風満帆に歩き出したとき、そんな醜聞を広められてはたまらなかった。


私は準備されていた契約書にサインした……。

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