第9話 少女の想い(シファ視点)

もしスタンピードが外に出てくるなら、ギルドの中は危ない。

ギルド長は領主であるお父様と一緒に領主館に行くと言って出て行った。


姉も恐らくそっちだろう。


でも、私はまだ行けない。


なにせギルド併設の治療院にはミシェールさんが眠ったままだ。

誰かが連れて逃げてくれているなら問題ない。

そう思いながら覗いたが、ミシェールさんはそこにいた。


私は呻きそうになるのを抑え、ミシェールさんにかかっている布団を剥ぐ。

そして手を回し、抱える。

私は小柄だが、ミシェールさんは背の高い女の人だ。

騎士としてダンジョン探索をしている冒険者なだけあって、筋肉も多い。


つまり、失礼なことに重い……。


どうしよう。

助けると意気込んでやってきたのに、よろよろと持ち上げるのが精いっぱいかもしれない。歩けるかな?

でも、諦めるわけにはいかない。


私がふさぎ込んでいるとき、ミシェールさんは可愛がってくれた。

彼女は長らくラクスさんと旅をしてきた人だけど、寡黙な人。

それでも優しくて、よく頭を撫でてくれた。


モンスターに襲われた私をラクスさんが助けてくれた時、ケガを負った私を回復してくれたのはミシェールさんだ。


その襲撃で短くなってしまった髪を見て悲嘆にくれる私に、また長くなるし、そもそも短くても可愛いと言って慰めてくれた。


彼女は年上で、ラクスさんよりも上の、優しい年上のお姉さんだ。

実の姉よりもよっぽど。


だから私は諦めない。


そうして、私は気合を入れ、肩で支えるようにしてミシェールの体を起こした。



ごめん、ミシェール。

重い……。



数歩は歩いた。



でも、そこまでだった。

悔しい。


へたり込んでしまった私に覆いかぶさる形になってしまったミシェール。


でも、そこで私はふと気付いた。


私の胸のあたりにうっすらと浮かび上がる白い光に。


その光が、私の胸から離れてゆっくりと動いていく。


ミシェールの方へ。


その光がミシェールに触れると、急に部屋の中が弾けた白い光に包まれる。


あまりの眩しさに目を閉じてしまった。



そして……不意に私の頭に添えられる優しい掌。




「シファ……。どうした?私を抱えてくれようとしてくれたのか?」





目を開けると、半年間眠っていたミシェールが目を開いていた。



「ミシェール……目を覚ましたのね?」


私は抱き着いてしまった。

なんか抱き着いてばっかりだけど、ミシェールが目を覚ましたことが嬉しかった。


「ここはギルドの治療院か?物凄くお腹が減ったんだが……そもそも私はダンジョンにいたはずだが?」


ミシェールは混乱していた。


だから私は知っていることを話す。



「ダンジョンの罠に当たってしまって、それでラクスさんは穴に落ち、あなたは槍と魔法の集中砲火を受けたと聞いたわ」

「そうだった。ジキルのやつ……シーフのくせに罠になどかかって……」

「ストップ!お願い、ミシェール。その話をみんなにして欲しいの。お願い!」


ただ、ミシェールの反応は私が願っていたもので、あの最低な人たちとは違う話で、大好きな人を助ける話だった。


今はスタンピードの真っ最中。

だけど、まだ時間はある。


「どうしたんだ?ラクスは?」

「今、スタンピードが起きてるの。上層のモンスターは倒して、中層のモンスターを迎え撃つためにみんなダンジョンに入ってる。ラクスはちょっと前に街を出てしまっていて……」

「なんだと?わかった。まずはそっちを支援してくる。話はその後だ」

「待って、ミシェール。何も食べてないんじゃない?」

「大丈夫だ。ほら、アイテムボックスにラクス製携帯非常食だ。これはダンジョンの中で迷った時用だったけど……もぐもぐ。ばっちりだ。消化にもいいしな。では行ってくる。なに、中層のモンスターなら私でも十分だ。その後、下層のモンスターは厳しいけど、まだ時間はあるはずだ。シファは領主館に行っていてくれ」

「わかったわ。ミシェール……気を付けて」

「あぁ、問題ない」


そう言ってミシェールはあの時と同じように私の頭を撫でてくれた。

そしてアイテムボックスから出した装備に着替えて出て行った。


でも、ごめんねミシェール。

私は領主館には行かない。

私だってできることがある。








□ダンジョン上層


気合を入れて上層に展開した冒険者たちだったが、あまりのモンスターの多さに徐々に押されて行っていた。

 

来襲したのは、ダークウルフの群れ、ボーンナイトやスケルトンたち、ファイヤーバードの群れ、ハイオークやオークたちだ。

それがモンスター種別ごとに上位種や群れのリーダーが指揮をとり、冒険者に襲い掛かって来た。


「くっ、数が多すぎるぞ!」

「このままじゃやばい。中層モンスターですらこれかよ」

「群れを成しているモンスターが多い。回復薬はまだある。みんな頑張れ!」

「オールヒール。まだ行けるわ!」


ジキルが指揮をとり、クレアは全体回復をかけ続けている。

冒険者たちも、前衛としてモンスターの進撃を止めて近接攻撃を行う部隊、それを支援する部隊、魔法によって遠距離攻撃を行う部隊に分かれて応戦している。


しかし、激しいモンスターの攻撃を前にして前衛部隊が崩れかかっている。


もし彼らが崩れたら冒険者たちは壊滅する。


なにせモンスターたちは傷も、死ぬことすらも厭わずに突進してくるのだ。

魔法使いや支援系の職種の冒険者では止めることができない。


今もクレアを筆頭に回復が行われているからなんとかなっているが……



「おい!オークキングだ!」

「エルダーウルフも……ばかな。通常ならスタンピードを率いるクラスだろ!?」

「なんで一緒に出てくんだよ!?」

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