第四章 迫りくる罠
15. 罠
桃乃は、矢文に示されていた地図を頼りに、街の外れまで来ていた。地図によると、そろそろ目的の場所に着く筈だ。
「ん? ここ、かな」
桃乃が立つ位置から坂を下ると、視界が岩に遮られた。
(なるほど。決闘には、いい場所じゃねぇか)
剣を肩に担ぎ、桃乃は一人、ほくそ笑む。
辺り一面に平らな岩地が続き、四方八方を岸壁に覆われ、逃げて登ろうとするのは不可能だ。
しかし、果たし状を送って来た当の本人は、まだ来ていない。
「なんだよ、自分から呼び出しておいて遅刻かぁ?」
憤然とした態度で桃乃が背後を振り返る。
「しゃーねぇ。待っててやるか」
この場所へ続く道は、今桃乃が来た坂道しかない。つまり、桃乃に果たし状を送った人物、青髭は、この坂から現れる筈だった。
「その必要は、ない」
不意に背後から聞こえた声に驚き、桃乃が後を振り返る。
「だ、誰だ?!」
しかし、背後には誰もいない。
「上だ、上!」
桃乃が声のする方を見上げると、前方に立ちはだかる岸壁の上に、桃乃の決闘の相手、青髭が立っていた。
「お前だな! あの果たし状は。紗那や流李をどこへやった!」
桃乃の怒声が四方の岸壁にぶつかり合い、木霊し、それが桃乃の威圧感さえも生み出す。しかし、青髭はその口元に狂喜の笑みを浮かべた。
「ここがお前の死に場だ!!」
その言葉を合図に、桃乃の背後から爆発音が聞こえた。あまりに突然だったため、その爆風に桃乃が前方に吹き飛ばされる。
なんとか受け身を取って、岸壁への衝突を防ぐと、攻撃態勢を整えて、頭上を睨んだ。
「おい! 貴様、何のつもりだ?!」
「がーっはっはっは! これでお前の逃げ道はなくなった」
桃乃が背後を見ると、先程の爆発で、坂道が岩石で塞がれてしまっている。
そして桃乃は、気付いた。これは、罠だったのだ、と。
「きったねぇぞ! おい、降りて来て戦えっ!!」
半分切れかけた桃乃の怒声も、青髭の笑い声に打掻き消される。どうやら、高みの見物で済ますつもりのようだ。
そして、四方八方の岸壁の上から、幾つもの人影が姿を現した。それは、四方の岸壁上をぐるりと囲い込める程の数だ。
生まれて一度も喧嘩に負けた事のない桃乃でも、今回ばかりは分が悪い。桃乃が唇を強く噛んだ。
「やれっ!」
そして、青髭の号令と共に、四方から幾つもの爆弾が投下された。
☆★☆★
男臭さの染みついた通路を、リョウが憤然とした様子で歩いていた。自分の足音だけが反響して聞こえる。先程まで船内を騒然とさせていた男達は、皆出掛けていた。
「リョウ、お前はここに残れ」
そう青髭に言われて、船内に取り残されたのは、リョウ唯一人だけだ。
リョウの反論も虚しく、一人、人質の見張りを命令された。
今頃、「桃ちゃん」とか呼ばれる奴を誘き出し、罠をしかけている頃だろう。一体どんな罠なのか、リョウは知らない。
いつもの事なのだ。何か重大な仕事となると、必ずリョウは参加を認められない。
自分が未熟な宇宙賊だ、という事は否応が成しにも解ってはいる。しかし、全く何も関わらせてもらえないとなると、どうしても憤りを隠せない。
(俺だって、青髭団の一員なのに……)
人気のない通路が、リョウの孤独感を更に引き立てる。
自分の未熟さと、無力さが何とも言えず悔しい。無意識の内に、両手の拳を強く握りしめて歩いていた。
リョウの足が牢獄のある部屋の前で止まる。悔しいが、今は自分に与えられた役目を果たす事が先決だ。一つ一つの役目をこなしていきさえすれば、青髭もいつしか自分を認めてくれるだろう。
しかし、そうは思ってみても、毎回毎回このような役目ばかりを負わされているのでは、未来は暗い。
ため息混じりに、目の前の扉を開ける。すると、中から籠もった埃っぽい空気が顔に当たった。
(……静かだな。あいつら、寝てんのかな)
部屋の中は明かりがないので薄暗い。いつも使う事がなかったので、エネルギーが切れたまま放置されていたのだ。
エネルギーの補充をした方がいいかな。そんな事を考えながら、二人の人質のいる牢獄の前で足を止めた。
「?!」
そこは、何もないただの空間だった。鉄の柵の扉が開いている。
ここを出る時、確かに鍵を掛けた筈だ。そして、その鍵は今もリョウの右ポケットに入っている。
「あいつら、どこに行ったんだ?!」
慌てて部屋を出ると、リョウは来た道を引き返した。
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