あなたと噂されても構わないから

木場篤彦

第1話犯行の瞬間

 私は下校中に喉が渇き、コンビニに寄ることにした。

 入店し、雑誌コーナーの前で雑誌を立ち読みしだす。

 読み続けてる漫画を読み終え、雑誌を戻し、お菓子のコーナーへと移った私だった。

 酒やワインが並んでいる方へと脚を伸ばすと、レジ側の飴やタブレット等が並ぶコーナーの前でカーディガンを腰に巻いた見覚えのある女子高生が佇んでいるを視界に捉えた。

 私は気配が薄いと周囲の人間に言われる。

 彼女が左右に首を振り、周囲を窺う。その後に頭を僅かに上げ、天井を見つめ、飴やタブレット等が並ぶ棚に顔を戻した彼女。

 彼女はそのまま右腕を棚に伸ばし、ケースらしき商品を掴み、カーディガンのポケットに右腕をさっと突っ込んだ。

 その場を離れようと身体の向きを変えた瞬間に、彼女の背中へ声をかけた。

「丹庭さん、なに買うの?」

 丹庭詩羽が右腕をカーディガンのポケットから抜き、振り返る。

「ぁえぅっ……!佐野……だっけ?まだ……決めてないけど……」

 丹庭は頬を強張らせ、視線を逸らした。

「佐野で合ってるよ。丹庭さん……今、万引き……したよね?丹庭さんのとこ、万引きしなきゃいけないくらい貧しい?それとも、ストレス溜まっての行為?じゃないとしたらぁ……刺激スリルほしさにってことぉ?」

 私は周囲に聞かれないように、彼女の耳に顔を近付け、囁いた。

「……っ!まっ万引きなんて……そんなこぉ——」

 彼女は周囲にばれないように呻くような弱々しい声で否定をする。

「そぉーう。カーディガンのポケットにしまったのは会計を済ませた商品って言い張るんだ?」

「あっあんたぁ……店員にチクるっていうのか?」

 動揺し上擦った声で聞いてきた彼女。

「私は丹庭さんがカーディガンのポケットに忍ばせた商品を、支払いを済ませ買うなら、心が痛むようなことはしないよ」

「わぁ、わかったってのっ!払ってくるっての、今からぁっ!」

「丹庭さんっ、まだ話があるの!待って」

 私は声を荒げ唾を飛ばしレジに向かおうとした彼女を引き留め、左腕の手首を掴んだ。

「んだよ、おまえっ!もう私はおまえに用はねぇよぉ!離せよ、手ぇ!」

 彼女は掴まれた左腕を振り払うが、私も逃げられまいと握力を強めた。

「待って、丹庭さんっ!私も着いてく。すぐ決めるから逃げずに待ってて!」

「何を言っ——うぇぁっ!」

 私は彼女の抗議を言い終わらせぬまま、彼女の左腕の手首を掴んだまま付き合わせた。


 私と丹庭は会計を済ませ、コンビニを出て、裏の狭い駐輪場のスペースで彼女にタブレットのケースを渡した。

「フンっ!私に関わろうとすんな、二度と!」

 丹庭が吐き捨て、去っていった。


 5月12日の火曜日、高校に入学して丹庭詩羽とまともに会話したのが初めてだった。


 明日が楽しみだった。






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あなたと噂されても構わないから 木場篤彦 @suu_204kiba

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