散りゆく命

 

魔装凶器の出現。

既に周囲は血の海と化している。

泣き叫ぶ声や苦痛を訴える声。

耳を覆いたくなる程の音が喧しく鳴っていた。


魔装凶器に理性は無い。

しかし生命体が存在すれば、彼らは殺戮を行う。

武器の起源は複数の説があるが。

典型的な存在理由とは、即ち他を害する事。

死を与える事を重点に、尤も生命を奪いやすい形態へと進化したのが武器だ。

故に、魔装凶器はその理念を色濃く継いでいるのだ。


「は、ぐはっ」


武装人器。

傷だらけの彼は、膝を突いていた。

斧の魔装凶器が、自らの腕を肩に担ぎながら近づく。

すぐ傍には、戦闘の末に致命傷を負い、意識を失う戦処女神セイヴァルキューレの姿が居た。


(お、れが…守らなければ、…っ)


武装人器は、理性を獲得した武器だ。

彼らの使命は武器として戦処女神セイヴァルキューレに使われる事。


だが。

魔装凶器が人を殺害する事に長けた存在ならば。

武装人器とは、誰かを守る為に長けた存在だろう。

武器としての使命として、自分の命より他人を優先する傾向がある。

戦処女神セイヴァルキューレに使われ続ければ、人では無く、武器として性格が変わり易い。

今の彼は、その武装人器は、己を武器として扱うパートナーの為に命を懸ける。


「は、ぁああッ!!」


拳を握り締める。

魔装凶器に向けて拳を振るう。

武器化した腕は、なんともちっぽけな、拳骨の部分が鉄の色を帯びた棘となっているだけだった。

それを魔装凶器の顔面に叩き付けるが、無論、人間の膂力程度では、魔装凶器を傷つける事すら出来ない。


牙を剥く魔装凶器。

腕を大きく振り上げて巨大な斧の手で斜めに武装人器を切断した。


「あ、がッ…」


歯を食い縛る武装人器。

致命的な一撃を受けて、意識が揺らぐ。

地面に倒れる武装人器。

肩から横腹に斜めに両断。

下半身と分離し、大量の体液を流し出す。

更に追い打ちをする様に魔装凶器は彼の肉体に目掛けて大きく蹴り上げた。

下半身の無い肉体は、身体強化された魔装凶器の蹴りの威力も相まって高く蹴り飛ばされた。


「はっ…はッ…」


頭から地面に叩き付けられる武装人器。

肉体は既に死に掛けている。

それでも彼は残された手を伸ばして、戦処女神セイヴァルキューレの身を案じていた。


「おれ、が…ま、も…」


その失われた肉体で何が出来るのか。

無意味に這い回る事しか出来ない無価値の存在。

彼は自覚していない、既に己が武器として成り立っていない事を。

だが。

それでも。

その志は酷く、戦処女神セイヴァルキューレの心を打った。


「あなたは、もうじき死んでしまいます」


金髪の。

黄金の如き輝き、威光を放つ女神の美。

彼女の登場に、武装人器の意識は、彼女に向けられた。


「と、ワイラ、いと…さま」


息も絶え絶えに。

武装人器はそう言う。

トワイライトが、戦地へと到着した。



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