第11話 初めての実技授業
エルフリック(智紀)たちは、初めての実技授業に挑んでいた。教師のイヴァン・ラトレインが出題した課題は、魔法と科学を組み合わせた実験装置を使い、その性能を引き出す方法を探るというものだった。
教室の中央に設置された装置は、どこか不規則な形をしていて、金属製のフレームに魔法の紋章が刻まれている。教師はその原理について簡単に説明したが、詳細な操作方法は意図的に伏せているようだった。
「この課題の目的は、君たちが魔法と科学をどのように融合させられるかを試すことだ。失敗を恐れるな。むしろ失敗から学ぶことが、ここでの成長の第一歩だ。」
イヴァンは、少し挑戦的な表情で言った。
その言葉にエルフリックは小さく息を吸い込んだ。ここでの一歩が、彼にとって新しい自分を見つけるきっかけになるだろうと思った。
課題はチームで行うことになり、エルフリック、シェルナ、リオ、カイルの4人が一緒のグループとなった。他の生徒たちもそれぞれの装置を囲み、課題に取り掛かる。
リオが装置を眺めながら言った。
「さて、どこから始めようか?」
シェルナが柔らかい口調で答える。
「まずは魔法エネルギーの供給ルートを調べてみないとね。」
カイルが手を組みながら提案する。
「俺は機械部分を調べる。リオは魔力制御を頼む。シェルナは全体の流れを見てくれるか?エルフリックはどうする?」
エルフリックは少し戸惑いながらも、自分の役割を考える。
「俺も魔法制御を手伝うよ。リオだけじゃ負担が大きいだろうし。」
チームはそれぞれの役割を果たし始めた。リオが魔力を注ぎ込むと、装置が微かな光を放つ。しかし、エネルギーの流れが途切れ、装置が停止してしまう。
リオが眉をひそめる。
「何かが引っかかってるな。」
カイルが機械部分を確認すると、小さな歯車がずれているのを発見する。
「ここだ。この歯車がうまく噛み合っていない。」
「でも、それだけじゃ解決しない気がするわ。」シェルナが冷静に言った。
「魔法エネルギーが過剰供給になっているみたい。全体のバランスを調整する必要があるわ。」
エルフリックはその言葉に思いつきを得た。
「魔法を直接制御するだけじゃなく、科学的に分配できる仕組みを考えたらどうだろう?」
エルフリックは、機械部分の仕組みを観察しながら、手元の紙にメモを取り始めた。彼が提案したのは、魔法のエネルギーを均一に分配するための魔力フィルターを即興で作ることだった。
カイルが疑問を投げかける。
「そんな短時間でできるのか?」
エルフリックは自信があるわけではなかったが、思い切って行動を起こす。
「やってみるしかないよ。」
シェルナがエルフリックに協力する形で、魔力フィルターの簡易的な設計を手伝う。リオがエネルギーを注ぎながら調整を行い、カイルが機械部分の細かな修理を進める。
しばらくして、実験装置が再び光を放ち始めた。それは初めての成功を象徴するかのように、穏やかな輝きを見せた。
リオが声を上げる。
「やった!」
カイルが満足げに微笑む。
「全員の力があってこそだな。」
イヴァン教師が彼らの成果を確認しに来た。
「見事だ。魔法と科学の融合をここまで理解できるとは、素晴らしいチームワークだ。」
エルフリックはその言葉を聞き、少し誇らしい気持ちになった。しかし同時に、この成功が単なる始まりに過ぎないことを理解していた。彼が進むべき道はまだまだ続いている。
授業が終わり、教室を出るとき、エルフリックはシェルナに声をかけた。
「今日は助かったよ。ありがとう。」
シェルナが微笑む。
「私たち、チームで動いてるんだから当たり前でしょ。」
仲間たちと共に歩きながら、エルフリックは心に誓った。もっとこの世界の知識を吸収し、魔法と科学の可能性を広げていくと──。
そして、彼が知らない未来の大きな試練が、少しずつその影を現そうとしていることを、まだ誰も気づいていなかった。
授業が終わった後も、エルフリックたちの頭には装置の仕組みや改良のアイデアが渦巻いていた。実験で得られた手応えが彼らの好奇心を刺激し、帰り道でも話題は尽きなかった。
エルフリックが言った。
「さっきのフィルターだけど、もっと精度を上げれば、もっと複雑な装置にも応用できるかもな。」
シェルナが提案する。
「それなら、魔力の流れを視覚化する装置を組み込めばいいんじゃない? 一目でエネルギーの偏りが分かれば、バランス調整がしやすくなるはず。」
リオが笑いながら言う。
「ただ、それをするには素材が必要だな。学校の工房に頼んでみるか?」
カイルは頷きつつ、
「お前たち、なんだかやる気満々だな。次の課題に備えてもう動くつもりか?」とからかう。
エルフリックは肩をすくめながら答えた。
「まぁ、興味があるんだよ。こういうの。それに、俺は他のみんなに追いつかなきゃいけないからな。」
その言葉にリオとシェルナが視線を交わす。エルフリックの内心の葛藤が透けて見えるようだったが、あえて深く触れることはしなかった。彼の成長を信じ、見守るのが今は最善だと感じたからだ。
寮に戻ると、他のグループの生徒たちが騒がしく議論している声が聞こえてきた。どうやら課題の結果に一喜一憂しているようだった。廊下を歩いていると、少しだけ上級生らしき生徒たちの声も耳に入った。
「今年の新入生、結構やるな。特にあのグループは、イヴァン先生を驚かせたって話だ。」
エルフリックはその言葉を聞き、胸の奥で何かが熱くなるのを感じた。初めての実技授業で成果を出せたことが、少しだけ自信に繋がり始めているのだろう。しかし、それと同時にプレッシャーも感じていた。
部屋に戻ったエルフリックは、ベッドに倒れ込むように横になった。実技授業の疲労が全身を襲うが、不思議と悪い気分ではなかった。
「これがここでの生活か……。」天井を見つめながら、呟くように言った。
その時、窓から差し込む月の光が、彼の決意を静かに照らしていた。
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読んでいただき、ありがとうございます!エルフリックと仲間たちの成長やチームワークを描いた回でした。彼らが魔法と科学の融合に挑む姿を通じて、少しずつ新しい自分を発見していく様子が伝わったことを嬉しく思います。これからどんな試練が待ち受けているのか、どうぞお楽しみに!
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