癒えない傷
@yunomy
第1話 運命の瞬間
あの日、僕の人生は一瞬で変わった。
夏の終わりの午後、練習帰りのサッカー部の部員たちの喧騒から少し離れて、僕は信号待ちをしていた。右手には、いつも一緒にいる愛用のサッカーボール。目は遠くを見つめ、プロへの道を描いていた。
突然、異常な光景が目に飛び込んできた。
対向車線、制御を失った黒い軽自動車が、横断歩道を渡ろうとしていた少女めがけて高速で近づいてくる。ブレーキランプさえ光っていない。少女は完全に動けず、凍りついたように立ち尽くしていた。
時間が止まったかのような、しかし同時に超高速で駆け抜けるような、あの瞬間。
「危ない!」
本能的に、僕は動いた。ボールを放り投げ、全身の筋肉を使って少女めがけて突進する。
最適解では無いかもしれないが、これが僕の精一杯だった。
轟音。痛み。そして、真っ白な光。
最初に感じたのは、右膝の鋭い痛み。車にはじかれ、地面に叩きつけられた衝撃。少女はと言うと、何が起きたか分からないという様子でこちらを見ている。どうやら無事みたいだ。
救急車のサイレン。集まる人々の声。しかし、僕の意識は遠ざかっていく。
「サッカー、もうできねえな…」
薄れゆく意識の中、何故だかそう確信した。
病院のベッドで目覚めたとき、担当医の厳しい顔が僕を待っていた。
「申し訳ありません。右膝の靭帯と軟骨に重大なダメージがあります。完全に元通りにするのは難しいでしょう。プロスポーツは、もう厳しいです」
...辛い言葉なのだが、不思議と後悔はない。
少女を守ることができた。それだけで、僕は納得していた。
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