第10話

 学園2日目には、クラスで自己紹介を行い、学園でのルールや選択制の授業の説明をされた。


 自己紹介で何人かのご令嬢に興味を持ったが、クローデットはマクシミリアン殿下の婚約者のロンサール侯爵令嬢には出来る限り関わりたくないので、しばらくは様子を見るつもりである。もし、その令嬢がロンサール侯爵令嬢の友人または取り巻きだった場合、その令嬢と友人になるのはリスクが高くなるが、しばらくはエルネストと行動することも多そうだったので、あまり支障はない。



 お昼は食堂でエルネストと食べることになっている。メニューは日替わりで何種類かが用意されていて、もちろんデザートもあるが、有名なお店の商品などが幾つか取り揃えられているだけで、ほとんど食べたことのあるものだった。


 手作りのお菓子を持参したため、お菓子が入ったバスケットを食堂に持っていこうと取り出すと、エルネストがさりげなく持ってくれたのでお礼を言って、2人で食堂に向かった。


 食堂での食費は別途支払われているので、入り口ではメニューを選び食券を選択するだけで良い。その食券を渡して食事を受け取るだけだが、使用人を連れてきている人達は、メニューを伝えて席に座って使用人が料理を運ぶのを待っている。クローデットは自分でできることは自分でやる主義なので、自分で料理を受け取って空いている席に向かう。エルネストも当然クローデットに合わせている。


 エルネストはステーキ、クローデットはサラダにサンドウィッチ、スープという軽食を食べて、お待ちかねのバスケットを取り出す。



「クゥ、今日のデザートは何を作ったの?」


「今日はマカロンよ。色とりどりのお菓子って見ていると気分があがるでしょう? 味も見た目に合わせて変えているわ」


「へぇ、いろんな色があって可愛いね」


「エルはどれを食べたい? 一つはコレね。エルの大好きなショコラよ。私は作っている時に少しづつ味見をしているから、どれでも好きなものを選んで」


「どれも美味しそうだな。この黄色のマカロンはレモンかな? 緑色のも気になるな。よし、この2つにするよ」


「それなら、私は桃とオレンジにするわ。残ったものは、持って帰ってね」


「ありがとう。今日は生徒会の顔合わせがあるから一緒に帰れないし、その後にでも食べるよ」


 クローデットが作るお菓子はエルネストの大好物である。余ったものもいつも持って帰っているので、それを前提に少し多めに作って、残ったらあげている。エルネストは嬉しそうにマカロンを味わって食べていた。


 周りにはそんな2人をチラチラと見ている人たちが居て、2人とも気づいてはいたが、話しかけられてもいないため、スルーしている。




 授業が終わり、予定のないクローデットはエルネストに見送られて馬車で帰宅した。馬車が見えなくなると、エルネストは顔合わせのために、生徒会室へ向かった。



 すでに他のメンバーは揃っているようで、空いているソファに腰掛ける。お互いに知っている者も多いが、初めて会う人も居たので、全員の自己紹介から始めた。


「今年度の生徒会長を務めることとなったマクシミリアン・レスタンクールだ。よろしく」


 王族であるマクシミリアン殿下は皆知っているため、簡潔な自己紹介だった。


「副会長のブライアン・エイジャー、3年生です。わからないことがあれば聞いてください」


 ブライアン・エイジャーはエイジャー公爵家の次男で、特徴としては眼鏡をかけている。優しそうな雰囲気を持っていて人当たりが良く、コミュニケーション力も高い。かなり頭も良いらしく、文官を目指しているらしい。


「サイラス・グッドマン…よろしく」


 サイラスは侯爵子息で2年生となる。おとなしく無口だ。サイラスには年の離れた兄が1人と、年が近い双子の姉2人に妹が1人いるせいか、家では専ら聞き役に徹していると以前エルネストは聞いていた。領地が近いため、グッドマン家とは交流があり、知っている。


「あ、あの、私はアンジェリカ・リーガンと申しますわ。どうぞよろしくお願いします」


 緊張気味なのか、誰とも目を合わせず、すこし俯き気味で自己紹介をしているアンジェリカ・リーガンは伯爵家の三女であり、2年生だ。茶色の髪をおさげ三つ編みにしており、眼鏡からは水色の瞳が見える。読書が好きで国立図書館の司書を目指しているらしい。


 上級生とマクシミリアン殿下の自己紹介が終わったので、新入生の番になる。


「殿下の補佐を務めるエルネスト・ジュリオです。よろしくお願いします」


「皆様、ごきげんようオデット・ロンサールですわ。よろしくお願いしますわ」


「殿下の護衛のロイド・サージェントです。力仕事が必要なときは任せてください」



 昨年から引き続き生徒会に所属しているのが3名と今年の新入生が4名の計7名となる。顔合わせが終わり、それぞれの仕事の説明や雑談で時間が過ぎていく。目の前のテーブルにはお茶や手軽に摘める軽食やお菓子があったが、エルネストは自分の荷物からマカロンを取り出して食べ始める。


 エルネストが嬉しそうにお菓子を食べるのをマクシミリアン殿下は見ていた。


「エルネスト、それはなんだ?」


「これ? これはマカロンだよ。婚約者の手作りなんだ」


「手作りのお菓子? …アルトー公爵令嬢の?」


「まぁ、アルトー公爵令嬢はお菓子を作られるの?」


「そうだよ。すごく美味しいんだ。お店で売ったら、大人気になるほどだと思うよ」


 オデット・ロンサール侯爵令嬢は少し小馬鹿にした感じだった。貴族令嬢が料理やお菓子を自ら作るというのは受け入れられない者は確かに多い。クローデットは気にしていないし、エルネストも何も恥じることはないと思っている。


「それほど美味しいのか…?」


 マクシミリアン殿下が食べたそうな顔をしたのをエルネストは見逃さなかった。しかし、愛しのクゥの手作りを他人に渡すわけがなく、周りの反応を無視して、1人食べ続けた。


「殿下はお菓子がお好きですの? どんなものがお好きですか? 私もとても好きなお菓子がございますの。きっと殿下もお気に召すと思いますので、今度持ってまいりますわね」


 殿下の様子を見ていたロクサーヌ侯爵令嬢は、マクシミリアン殿下が興味を持ったのは、クローデットの手作りのお菓子であることだと気づいた上で、それをなかったことにして話をすり替えた。


「あ、あぁ、ありがとう」


 マクシミリアン殿下はロクサーヌ侯爵令嬢の勢いに押されていた。それを見かねたブライアンが助け舟を出す。


「あぁ、もう、こんな時間ですね。仕事の説明は一通り出来たと思うので、今日はここまでとしましょう。明日からも皆さん、よろしくお願いしますね」


 そう言って、机の上の物を片付け始める。サイラスとアンジェリカもそれに倣って、さっさと動き始めた。

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