第8話

 マクシミリアン殿下のお誕生日パーティーに参加したことで、クローデットが美少女であることが知れ渡った。お茶会の招待状も大量に届いたが、両親が判断して必要最低限で参加することとなった。



 ルネも公の場に登場したことから、次期アルトー公爵への婚約の申し込みが殺到。数多の釣書の中から家格や派閥を考慮し、令嬢自身や領民からの評判についても調査に調査を重ねた結果、最終的な候補者は3人まで絞られ、最終判断はルネに委ねられた。



 フローラ・アストリー伯爵令嬢。ルネと同じ11歳。

 辺境の地を治めるアストリー伯爵家は武官を多く輩出しており、アストリー伯爵令嬢も男勝りな性格で剣術に優れた活発なご令嬢であるが、周囲を明るく元気にさせ、使用人や領民に好かれている。



 セシリー・ハミルトン侯爵令嬢。ルネより1つ下。

 本を読むことが大好きで、頭が良く、理解力が高い。普段はクールビューティーな印象を受けるが、間違った知識をひけらかす人を見るとスイッチが入り、ひたすら正しい知識について語り続けるので、話題には注意が必要らしい。ただ、噂には惑わされず、噂は噂として情報を扱い、検分や判断を行う。



 マドレーヌ・ラクロワ侯爵令嬢。ルネと同じ11歳。

 王族の婚約者に選ばれるかもしれないと、両親がきっちりと淑女教育を施したので、マナーや知識は完璧。見た目はおっとりとしていて、喋りも少しゆっくりなため、大人しい令嬢だと思われる。しかし、芯はしっかりとしているらしい。




 アルトー公爵家の庭園にあるガゼボで、ルネがそれぞれの令嬢と1対1でお見合いをしている様子を、クローデットは毎回自室から観察していた。


 ゲームでは来るもの拒まずの遊び人ルネには婚約者は居なかった。アルトー公爵家では、第一王子の婚約者であるクローデットがなによりも優先。一応、婚約者候補として、ルネより5歳年下で、父の親戚の隣国の令嬢がゲームではチラッと出ていた気がする。5歳下ということもあって、確か、令嬢が学園に通う頃に正式に婚約を結ぶ予定であることをゲームでルネが言っていたはず……。



 クローデットの婚約者がゲームと違う上、ゲームよりも早い時期の婚約者選びとなったせいか、今回のルネの婚約者の選定には、隣国の令嬢は名前すら上がっていない。


 ルネは若干シスコン気味だが、きちんと教育を受けて、公爵子息の振る舞いを身につけている。努力家で勉強にも力を入れているが、エルネストやクローデットと過ごす時は、天真爛漫な可愛い弟。ヒロインではなく、婚約者と良い関係を築いてもらいたいとクローデットは強く思う。




 アストリー伯爵令嬢とのお見合いでは、途中アストリー伯爵令嬢が席を立ち、ルネに剣術を見せているようだった。話が盛り上がって楽しそうに過ごしているように見えた。



 ハミルトン侯爵令嬢とはゆっくりとお茶を飲みながら会話を楽しんでいたようだが、途中からハミルトン侯爵令嬢が段々と前のめりになって、ジェスチャーを交えながら話しているようだった。ルネは少し仰け反りながら、必死に相槌を打っていたように見えたので、おそらく何かハミルトン侯爵令嬢の地雷を踏んでしまったのかもしれない……。



 ラクロワ侯爵令嬢とは、終始ほのぼのとした空気が流れていた。笑顔も多く、楽しそうな雰囲気であった。



 クローデットは3人の令嬢それぞれとのお見合いが終わった後に、ルネに率直な感想を聞いた。


「アストリー伯爵令嬢とは、剣技についての話で盛り上がりました。今度手合わせする約束したんですよ! えっと、ハミルトン侯爵令嬢は、噂で聞いたことがある話を持ち出してからは、ずっとその話をされました……。あ、ラクロワ侯爵令嬢は、義姉様と同じで甘いものが好きだそうです! 食べ物の話で盛り上がりました」


 概ねクローデットが予想していた回答通りだった。


「そうなのね。楽しめたなら、良かったわ。それで、婚約者にしたい方はいたの?」


「婚約者にしたいと思うのは……ラクロワ侯爵令嬢です」


「どうしてラクロワ侯爵令嬢なの?」


「正直、僕の婚約者に誰が良いかと聞かれても、何を基準に選べば良いのか、わからないのです。公爵夫人に相応しいかは、お義父様が判断されていますよね? エル義兄様と義姉様を見て、一緒に居て仲良く楽しく過ごせる人が良いとは思いますが、初めて会ったばかりなので……。ただ、甘いもの好きなラクロワ侯爵令嬢といる時は、義姉様達といる時と同じような空気で心地よいと感じました。だから、あの3人の中なら、ラクロワ侯爵令嬢を選びます」



 少し照れながら答えるルネを見て、クローデットも思わず微笑んだ。この感じであれば、婚約者はラクロワ侯爵令嬢で決まるだろう。



 それぞれの令嬢との時間も何度か設けたが、やはりルネが選んだのは、ラクロワ侯爵令嬢だった。ルネとラクロワ侯爵令嬢の婚約が整い、ルネはラクロワ侯爵家にも定期的に訪問するようになった。


 クローデットも未来の義妹との交流を深めるべく、アルトー公爵家に招いた。ラクロワ侯爵令嬢はとても柔らかい空気を持つ令嬢で、お菓子の話で盛り上がり、最終的には『レーヌ』『クローディお義姉様』とお互い愛称で呼ぶくらいは、仲良くなれた。


 クローデットはマドレーヌと一緒にお菓子作りをしたり、今までエルとルネの3人でお菓子を楽しんでいた時間にマドレーヌも呼び、4人で過ごすことも増えた。



 ルネとマドレーヌの距離は段々近づき、お互いが少しづつ想い合っていっているのは、クローデットでもわかった。



 ルネの学園入学まで約3年。

 ヒロイン覚醒まで4年ーー


 この調子でいけば、ルネがヒロインに攻略されることはないだろう。


 エルも相変わらず時間があればクローデットに会いに来て、独占欲も隠さず、クローデットに常に気持ちを伝える日々が続き、あっという間に学園の入学式となった。

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