第11話



 神社に着いた後、俺たちは仕事に行くために準備をした。


 準備っていっても、そんな大層なことじゃない。


 和茶は神社の周りでは、周囲の人間にも見えるように実体化する。


 最初に出会った時と同じように、手に触れたり、声を発することもできる。


 神にはそれぞれ「土地」というものがあって、自らの「神力」と密接に結びつく領域が存在する。


 この領域のことを通称“神域“と呼び、神が現世へと具現化することができる範囲のことを指す。


 わかりやすく言えば、「神社」とは神が鎮座する場所であり、現世へと通じることができる“通り道”でもある。


 神社の敷地としての大きさはピンキリだが、神聖な場所と外界の境界を分けるのは、「鳥居」になっている。


 この神社にも存在するが、鳥居の外に出れば、和茶も実体を保てなくなり、力を失う。


 逆に鳥居を潜れば、それは彼女の領域に侵入したことになる。


 そしてその境界の役割を担う鳥居には、別の側面があった。



 「さ、行くぞ」



 人間の姿になった彼女は、俺に合図を送る。


 さぁっと風が立ち込め、木の葉がひらりと宙に舞い上がる。


 俺は全身の力を抜いた。


 目を瞑り、呼吸を整える。



 『風の満ち渡る刹那よ、翳りし影の縁を捉えよ』



 響き渡る軽やかな声。


 伸ばした手のひらに、風が回転する。


 和茶は「風」の力を操る神だった。


 彼女の神号は、志那都比古神(しなつひこのかみ)。


 “解言”を唱え、自らの力を解放する。



 ゴオッ



 半径数メートル以内の範囲で突風が吹く。


 それは“合図”だった。


 彼女が唱えた言葉は、自らと契約したものを呼び起こすため。


 自らの力の半分を受け渡した「者」との融合を、促すためだった。

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