アルバムに残る過去

「あのさ~昨日掃除してたらこんなの見つけてさぁ~」


 その日の朝、クラスのイケてる女子つまりは副部長の妹が、そんな事を言いながら何かを広げていた。


「わ~これ、小学校のアルバム? 持ってきたんだぁ」


「ミサキさんも載ってるんですか? ユウマさんも?」


「ユリアさん! うん載ってるよ! ほら見てこれ! 小学生の頃の佐藤くん! ここ!」


「うわぁ~カワイイですぅぅぅ! いまはかっこいい系だけどこの頃は可愛い系ですねぇ!」


「そうかな? 当時はどっちかというと大人っぽいなぁとか思ってたけど……」


「アタシのアルバムなのになんで佐藤くんの話で盛り上がってるワケ……?」


「ごめんごめん。でもユリアさんは佐藤くんに興味があるかなぁと思ってね?」


「いえいえ。ミサキさんも気になります! どこですか?」


「えっとどこだっけ? そうそう確か一番前の列の……」


「なんでその記憶力で佐藤くんは一瞬で見つけられるん……?」


「わぁ! ミサキさんもカワイイです! でもアレ? ロングなんですねこの頃のミサキさん」


「う~んまあ色々あってね? あんまこの髪の色で目立ちたくなくって」


「あ! そうなんですか。ごめんなさい。でも私ミサキさんの赤みがかったこの髪色好きです! ロングも似合うだろうなぁ」


「もう最近は伸ばすと面倒くさくなったってのが大きいかな? でもユリアさんに好きって言ってもらえて嬉しいよ」


「そんな。すみません嫌なこと思い出させちゃって……」


 美咲たちはスルーしていたが俺は聞き逃さなかった。つまりこいつは知っているのだ。美咲の髪が短くなったあの事件のことを。

 そんな俺の考えをおいておいて、話は先に進んでいく。


「これが遠足のときだね。佐藤くんと私おんなじ班だったよね」


「ああ。有無を言わさず組まされてな」


「嫌だったの?」


「別に嫌ってわけじゃないよ」


「うわ~こっちの写真でもこっちの写真でも一緒にいますねぇお二人共!」


「そりゃ同じ班だからな。別々にいちゃだめだろ」


「でもこのころはいつも一緒にいたよね。ずっと一緒って思ってたんだけど私は」


「俺も似たようなこと思ってたよ。でもいまでも一緒で、この前仲直りして今でも友達、だろ?」


「そうだね。うん。友達、でいいんだよね?」


「とうぜんだろ。嫌だったら言ってくれよ」


「嫌なわけじゃないよ。嬉しい。そう思ってる」


「お、おう……」


 と、少し照れてしまった。ミサキも少し照れくさそうにしている。ユリアに急かされて、次の写真に話が移った。


「それでこっちは運動会の写真で、佐藤くんが学年リレーで1位になった時の写真かな?」


「ああ。あの頃は校内で1番足早かった自負がある」


「中学はいるとき陸上部から勧誘受けてたもんね佐藤くん。ほんとに早かったんだよ? ぶっちぎりの1位で」


「すごいですねぇ! さすがはユウマさん!」


「昔はほんとみんなの中心で何でもできて優しくてすごかったんだよ? あ~ユリアさんに見せたいなぁ! 昔のアルバム!」


「いいんですか!? 今度お家に行って見てもいいですか!?」


「佐藤くんにちゃんと許可取ったら良いよ?」


「じゃあユウマさんも一緒に来ましょうよぉ! それで色々話聞きたいです!」


「バッカお前そんなこと……」


「うちは大丈夫だと思うよ? お母さんも佐藤くんのこと気に入ってるし」


「美咲バカお前までなんで乗り気なんだよ行かないぞ? 写真見せるくらいは良いけど……流石に恥ずかしすぎる」


「じゃあ決まり! ユリアさん今日何もなければ来る?」


「ぜひぜひ!」


 と、言うことに決まったらしい。



―――

「いらっしゃ~い! じゃあわたしの部屋に来て! そこにアルバムあるから!」


 その日の放課後、私ユリアはミサキさんの家にお邪魔しました。


「えっと、確かこの辺に……あった! これ私の昔のアルバム!」


「わ~カワイイアルバムです! でも結構分厚い……」


「幼稚園のあたりから見せるね! ユリアさんは佐藤くんがみたいでしょ?」


「ぜひっ! でもミサキさんの昔も見たいです!」


 そうしてミサキさんのアルバムを順番に見せてもらいました。私はユウマさん推しですが、カップリングとしてはユウマさんとミサキさん推しなのでミサキさん情報もほしいのです!

 そしてアルバムは幼稚園へ。このあたりからユウマさんが登場します。


「これ見て! 幼稚園行くの嫌がって渋い顔してる佐藤くん! 可愛くない?」


「うわぁ~見たことない顔してますぅ~! 写真撮ってもいいですか?」


「気に入ったやつは後でコピーしてあげる。でも佐藤くんに見つからないでね?」


「当然! これは乙女の秘密ということで……」


「それでこれがお母さんから離れようとしない佐藤くん! こっちは私を砂場に誘ってくれたときので、これは私と佐藤くんが一緒にお昼寝してる時のかな?」


「うわ~! ミサキさんもユウマさんもカワイイですぅ! それにしてもよくこんなに覚えていますね?」


「うん。私にとってこれは大切な思い出なんだ」


「これは?」


「それは……学芸会で白雪姫をやったときのだね」


「白雪姫ってことは……したんですか?キス」


「フリだよフリ。こっちの写真はその後おふざけでしたほっぺにキス」


 私はこれを知っています。このあと本当のキスをするシーンでこの話が出ていたのです。ミサキさんが勇気を出した最初の瞬間。最初の嫉妬。なんだかイケナイものを知っている自分に少しだけ嫌気が差します。


「そう……佐藤くんの王子様がかっこよくて……キスシーン何度もやったんだった。色んな人にキスのマネする佐藤くん見てちょっと焼いちゃった」


「そうなんですか? 好きだったんですか?」


 白々しい。でもなんだかちゃんと聞きたくて……


「わからないけどたぶんそう。好き『だった』のかな。ごめんね? ユリアさんは今佐藤くんが好きなのにこんな昔の話をして」


 これも嘘なことを知っています。告白シーンで明かしたミサキさんの気持ち。ずっと仲直りしたくて……このアルバムも何度も見直していたって言ってました。でもそれを伝えられなくて、伝えてはいけない気もして。


「そうそう! それでこれが小学校の入学式! お父さんなんか佐藤くんのほうばっか写真撮っててお母さんに怒られてね?」


 そうしてアルバムは進んでいき、ある1枚の写真でミサキさんの声が止まります。

 そこには祝全国出場の文字と誇らしそうな顔のユウマさんが。


「知っちゃってるよね? このあとあったこと。これが家のアルバムに残ってる佐藤くんの最後の写真なんだ」


 そっと指でなぞるミサキさんの顔は懐かしむようななにか遠くに行ってしまったものを見るような顔で。


「怪我……したんですよね。聞いていいですか?」


 白々しく嘘を付く。全部知っているのに。


「休憩中に飛んできたボールが頭にぶつかってそのままコンクリートの角に頭がぶつかるように倒れちゃってね。血がすごい流れてて……救急車で運ばれて手術を受けたんだ。その後は知ってるよね? 絶対安静になって医者からテニスを禁止されて。荒れてた佐藤くんに私はみんなが心配してるとか学校で何があったとか良かれと思って話してた。聞いてる佐藤くんが優しいからっていい気分するはずがないのに。それで当然私は怒られちゃって、なんだか怖くなっちゃた。怒った佐藤くんの姿、初めて見たから」


「そ、そんな! ミサキさんはそんな悪くないです! もちろんユウマさんも」


「うん。今ではそうちょっと思えてる。でも怖いんだ私。ちょっと近づいてきてるけど、あのときのことを思い出しちゃう。自分が嫌になる。こんなことをユリアさんに話してる自分のことも。ごめんね。嫌なこと聞かせちゃって」


「いえ。話してくれてありがとうございます。でも私信じてます。またお二人が元のように仲良くなれるって」


 そう言っている私の心は、未来のことではなく今、眼の前で押しつぶされそうな友人のためになにかできないかという気持ちでいっぱいだった。

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