第59話

「ごめん、僕のせいで……」


僕がもっとしっかりしていれば、ベラが死ぬことはなかったかもしれない。

僕が強かったら、ベラが死ぬことはなかったかもしれない。

僕がイプノちゃんと契約していたら、

僕が動かなければ、

僕が…


後悔が次々と浮かんできて、頭から離れない。

そんな僕を見てイプノちゃんは達観したように言う。


「男子なんて、結局どんな性格であっても悪い影響しかもたらさないわね。ほら、こっち来なさい」


その場から動こうとしない僕に、イプノちゃんは無理やり連れて行こうと手を伸ばす


そこに熱線かと間違えるようななにかが、イプノちゃんと僕の間を通り抜けた。


通った先の壁を見ると、イフリートが壁に突き刺さっていた。


「この剣は…」


「私の旦那様に触れないでいただけます?」


「ベラ!」


「なぜ!?あの出血量では…」


「吸血鬼の底力、舐めないでくださいまし!」


起き上がったベラは、姿勢を低くすると、先ほどよりも数倍もの速さでイプノちゃんに迫り、飛び蹴りを入れる。


「ぐっ!」


予想外のことが起こり、不意を突かれたイプノちゃんはその蹴りをもろに受けてしまい、蹴られた勢いのまま壁に激突した。


「は、早すぎ……る…」


そのままイプノちゃんは倒れて気を失ってしまった。


「ベラ!生きててよかった!傷は大丈夫なの!?」


「大丈夫ですわ、このとおり」


ベラのお腹を見てみると、そこにあった傷はなくなっていた。

本来の吸血鬼の回復力というやつか。


「……よかったぁ、流石にもうだめかと思ったよ」


「助けてくれて、ありがとうございます」


「それはこっちのセリフだよ。それよりも、ごめんね」


「何がですの?」


「いや、その…血を…だね…トラウマがあったんだろう?大丈夫だったかなって」


「ああ、いえ、大丈夫ですわ。血を頂いた時はほとんど意識がありませんでしたし、それに助けてくださったんですから、謝る必要はありませんわ」


「そっか、それならよかったよ」


「それよりも手ですわ!大丈夫ですの?」


「ああ、このくらい、唾つけとけば……治らないかも」


ちょっと深く切りすぎたかな?血が止まらないぞ?


「まぁでも、別に動脈を切ってるわけじゃないし、そのうち塞がるでしょ」


「そういうわけにはいきませんわ!」


「その通りです」


「誰!?」


「ラヴニール・ラ・プロフェテスです」


いつの間にか聖女様が僕らの後ろに立っていた。


「些細な傷であっても、舐めてはいけません、二つの意味で。その小さな傷からばい菌が入って病気になってしまうかもしれませんよ」


「聖女様!助けていただきありがとうございました!」


ベラ、だめだよ聖女にそんな心を許しちゃ。利用されるかもしれないよ。

とは言っても僕はまた今回も聖女様に助けられたようだ。お礼をせねばなるまい。


「……ありがとうございました」


「いえいえ、貴重な男の子ですからね。今回も無事でよかったです」


聖女は微笑みを浮かべている。その笑顔の裏で一体なにを考えているのか。僕は今回、利用されたのだろうか。そもそも神の声が聞こえるってんならもっと早く助けてくれれば……


「何度も言いますが、神はすべてを教えていただけるわけではないのですよ」


ほんとうですかー?ほんとは全部、あなたが裏で手を引いてたりしませんかー?


「さて、彼女が今回の誘拐犯ですね」


聖女が気を失っているイプノちゃんの元に向かう。


「ふむふむ、なるほど。では連行しましょうか」


何かを確認した後、聖女がどこかに連絡をした。連絡した数分後、例の武装集団がイプノちゃんの身柄を拘束、連行していった。


「さて、君たちには保健室にいくことをおすすめします」


「私もですの?」


「そうです、吸血鬼としての力を取り戻して、本来の回復力を取り戻したとしても、一度死にかけているのですから、保健室で一度見てもらったほうがいいですよ」


「わかりましたわ!」


「素直でよろしいです。それでは私はこの誘拐犯とお話がありますので、失礼しますね」


「はい!ありがとうございました!」


「…ありがとうございました」


そうして聖女一行はこの部屋を出て行った。


「…ところでここどこなの?」


「ここですの?校舎の地下ですわ」


「学校の敷地内だったのか」


僕が気を失っていた時間はそこまで長くはないようだ。

それよりも早く保健室に行こう。緊張が解けて、だんだん手が痛くなってきた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る