異世界小国の革命譚
イブキ
プロローグ
薄暗い路地裏は、まるで物語の始まりを予感させるような雰囲気を醸し出していた。昼間だというのに、陽の光はまるでこの場所を避けるように差し込まず、不気味な静けさが漂っている。そんな路地裏で、アルセイン・ターラントは思わず足を止めた。
彼が目にしたのは、痩せ細った少女が地面に倒れている光景だった。その髪は銀色に輝き、目を閉じた顔立ちは幼さと疲労が入り混じっている。そして、その少し尖った耳が何よりも目を引いた。
「おい、大丈夫か?君?」
アルセインは少女に近づき、しゃがみ込んで声をかけた。しかし、彼女はかすかに身じろぎするだけで、答えようとはしない。彼はその耳をじっと見つめ、思わず口にした。
「ハーフエルフか……」
その言葉に反応したのか、少女は怯えたように薄く目を開けた。その瞳には、警戒と恐怖が滲んでいる。アルセインはハッとした。彼女が何を恐れているのか理解するのに時間はかからなかった。
この世界で『ハーフエルフ』という存在が何を意味するか......アルセインはよく知っていた。ハーフエルフは、多くの国で人権を持たず、奴隷や物として扱われる運命にある。彼らの存在は、多くの人々にとって『生きている価値がない』とまで言われるほどの偏見に晒されていたのだ。
アルセインは拳を握りしめた。
「俺たちと同じで生きているのにな……」
その声に少女はさらに怯えたように後ずさる。アルセインは彼女に触れるのをためらったが、それでも優しい声で言った。
「一緒に来るか?」
しかし、その言葉にも少女は首を横に振り、小さな声で呟いた。
「……触らないで……」
彼女のか細い声にアルセインは胸を痛めたが、冷静に、ゆっくりと手を差し出した。
「大丈夫だ。絶対に君を傷つけたりしない。信じてほしい」
彼女はしばらくアルセインを見つめた後、小さく頷いた。その表情にはまだ恐れが残っていたが、それでも彼の言葉に何かを感じたのだろう。
「行こう。ここにいても何もいいことはない。俺が助ける」
少女はアルセインを見上げ、かすれた声で尋ねた。
「……助けてくれるの……?」
「もちろんだ」
アルセインの声には、迷いも曇りもなかった。その目には揺るぎない決意が宿っている。
「約束するよ。君が望むなら、俺は必ず……○○○○○○○○」
その言葉は少年の口から出るには重すぎるものだったが、彼の声に込められた確信は、少女の心に深く刻まれた。
「……うん……分かった。」
少女は震える手でアルセインの手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
「私はリリアって言います。」
「リリアか。いい名前じゃないか」
アルセインは微笑み、胸を張った。
「俺はターラント王国第一王子、アルセイン・ターラントだ」
その瞬間から、二人の運命は大きく動き始めた。
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