君のカメラは動く?
「もちろん……」
彼は小さく呟いた。山崎の辛辣な表現に少しばかりうんざりしたのと、自分が持ってきたカメラが本当に動くのかどうか分からなかったからだ。
彼は肩からバッグを下ろした。それは明らかに古く、長年の使用で傷んでおり、日焼けしたストラップがついている。中を軽く覗いただけで持ってきたので、カメラがちゃんと動くのか全く分からない。ただ、中にカメラらしきものがあったので、それで十分だと思ったのだ。
少し息を止めながら、彼はバッグを直の前のテーブルに置いた。彼女の目はまだ鋭く疑念に満ちている。もし動かないものを出したら、クラブに入るチャンスなど全くなくなってしまうだろう……
「これ、私よりも古そうね……」
彼女は好奇心と疑いが混ざった声で呟いた。それが侮辱なのか、単なる観察なのか、彼には分からなかった。
彼女の指が古びた革に触れた。表情にはまだ疑いが残っているが、ファスナーを壊さないよう慎重にバッグを開けた。静かな部室にその音が微かに響く。
中には、色あせた内張りとレンズ類に囲まれたカメラが確かに入っていた。そして驚いたことに、そのカメラはまるで新品同様の状態に見えた。首掛けストラップも完璧で、すべてのカバーがしっかりついている。
彼女の眉がわずかに上がり、普段の無表情な態度に興味の色が少しだけ混じる。
「ふむ……キヤノン……しかもEOS 60Dね。写真のことを何も知らない人がこれを持ってるって、どういうこと?」
薫は首の後ろを掻きながら、気まずそうに笑みを浮かべた。
「えっと……実は僕のものじゃないんだ。家で見つけたから、多分おばあちゃんのだったんじゃないかな?」
直は手に持ったカメラを下ろし、失望した表情を彼に向けた。
「本当に?つまり、私を驚かせようとしてこれを持ってきただけってことね?やっぱりね。」
彼女はため息をつき、首を振った。
「でも……」
彼女の視線はわずかに和らいだものの、疑念はまだ残っている。
「それでも、これは良い品ね。2010年に発売されたもので、当時としてはかなり良い機種だったと思うわ。それに、このバッグの状態から考えると、驚くほど良いコンディションよ。」
彼女はそれを少し持ち上げながら、二人に見えるように手に取った。それを手で回して確認するような仕草をする。レンズがついていないと電源を入れる意味はあまりない。ただ、それは彼女のカメラではなく、壊すつもりも、その使い手を世話するつもりもない。
慎重ながらも手際よく、彼女はカメラを元通りバッグに戻し、バッグをテーブル越しに正しい持ち主の手に滑らせた。
「あ……」
バッグを拾い上げ、肩に掛け直しながら、彼は答えを求めて直の顔を覗き込んだ。しかし、何の答えも得られなかった。
「それで……これは良いの?クラブに入れてくれる?」
彼女は詩織にちらりと視線を送った後、ため息をつき、椅子の背にもたれかかった。眼鏡の位置を押さえ直しながら、少し考える様子を見せる。
「そう急ぐな。もうすぐ帰らなきゃいけないから、どれだけ君を叱りたい気持ちを抑えているか分かる?でも、山崎さんに敬意を表して、考慮してあげるわ。」
薫はまるで飴をもらった子供のように笑顔を浮かべた。
「本当に!考えてくれるんだ―」
「早まるな!」
彼女は手をテーブルにドラムのように叩きながら彼を見つめる。
「霞ちゃんをただで狙うことは許さない。条件があるの。考慮しているだけよ。」
「はは……もちろん……条件ね。」
薫はうなだれ、条件を満たせる自信が全くないことを悟った。
「それで?何をすればいいの?」
「写真に関するクイズ。」
「クイズ?!」
彼の口が瞬時に開いた。(もちろんクイズだ!そうに決まってる!彼女がただ『いいよ』と言ってくれるなんて期待した自分がバカだった……)
詩織は普段の冷静な表情を少し崩し、横を向いてくすりと笑った。
「詰んだわね……」
直は薫を真剣に見つめた後、少し笑みを浮かべて手を振った。
「冗談よ。ただからかいたかっただけ。本当の条件は簡単よ。今週末にそのカメラの使い方を覚えなさい。それで何枚か写真を撮って、月曜日にクラブに持ってきて。それで私が判断するわ。」
「ラッキー……!」
彼は見守っていた守護天使に感謝し、かろうじて心臓発作を避けた。本当に、このクラブの部長は恐ろしい!
静かに感謝のため息をつき、もう一度直を見た。
「それだけでいいんですか?これで写真を撮れば?」
「その通り。私はとても寛大でしょ?」
彼女は自分に誇らしげに微笑み、眼鏡を押し上げた。
「でも、調子に乗らないでね。これは山崎さんが君のために頼んでくれたからやってるだけ。彼女がいなければ、君を窓から放り投げてたかもね。」
直は椅子から立ち上がり、軽くあくびをしながら伸びをした。
「さて、片付けないといけないわね。学校もとっくに終わったし。二人とも良いかしら……?」
「もちろん、もちろん。本当にありがとうございました、白原さん!」
薫が軽く頭を下げた後、彼と詩織は短い視線を交わし、廊下に出た。詩織は直に小さく感謝の頷きを送り、二人は静かな廊下に足を踏み出した。部室のドアが閉まる音が微かに響いた。
大きく、誇張気味な安堵のため息をつきながら、彼は肩のカメラバッグのストラップを調整し、ようやく肩の力を抜いた。
「やばいな……あの人の目、見たか?本当に窓から放り出されるかと思った……あんな目で涼真を排除してくれたらいいのにな。」
彼は直の鋭い視線を思い出し、少し震えながら呟いた。
詩織は腕を組んで彼の隣を歩きながら、相変わらず無表情な顔をしていた。
「怖いかどうかはさておき。彼女は君のくだらない演技をすぐに見抜いたわね。」
彼は横目で彼女を見て、少し不満げに眉をひそめた。
「少しは僕のこと良く見せようと努力してくれてもよかったんじゃないの?それどころか、バカバカ連呼して!」
彼女は突然足を止め、薫もそれに気づいて立ち止まった。彼女は無愛想な視線を向けた。それは、彼を叩く直前に使うお馴染みの表情だった。
「ちょっ、やめてよ、大山崎!」
彼は手を振りながら何か考え込み、ため息をついて気まずそうに首を掻いた。
「分かった……本当に感謝してるよ。君がいなかったら、僕は今頃部室の外で倒れてたかもな、白原さんのおかげで。」
数瞬、彼女は彼をじっと見つめ、感謝の言葉を吟味するようだった。そして、何も言わずに再び歩き出し、彼をその場に残した。
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